行きつく先は
二〇ⅩⅩ年。日本の、とある都市の駅。午前八時。にぎわうホームに電車がついた。人の波が車両から押し寄せてくる。六月に入っていた。背広、スーツ、流行ファッション、サイケデリック、そして学校の制服。夏服に替わってそう日は経ってなかった。各自がそれぞれの目指す方向へ足を速める。一人の男子高校生と一人の女子高生がすれ違った。
女子は細い目をわずかに開いた。薄い黒色の瞳には、五芒星も六芒星もその図象は見えない。
快活そうな青年の腕には幾何学模様もない。
二人は数歩進んで止まった。二人以外は慌ただしく流れていく。二人は振り返った。同時に口が開きかけた。静謐。喧騒が消えた。二人はまた同時に視線を向けた。近くのベンチ。一人の女性が座っていた。白いワンピースを来たその女は、つばの広いハットで表情が見えない。その女が口を動かした。「ニキク、カンネ」その声が耳のすぐそばで鳴るのが聞こえた。
「ようやく気付いたのね」
青年も女子もその声に聞き覚えがあった。遠い、そして近い空間と時間で聞いたのだと、二人は瞬時にして理解していた。
「まあいいわ。これから始めるのでしょう?」
女は意味深に笑んだ。喧騒が現れた。けたたましさに包まれた。人々をかき分けて、ベンチに二人は近づいた。誰もいなかった。二人は顔を見合い、それからホームへ向き直った。二人は目を見開いた。ホームにいる人々の手元や服の中やポケットやカバンの中に鈍い赤く光る、いいや燃える塊が見えたのだ。青年と女子は決然とした表情で頷きあった。
女子の手元には古い本があった。そのタイトルは『フモン』とあった。




