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イデア誕生前夜

作者: 尾手メシ

 みんな、インターネットは使ってる?


 愚問だった。これを読んでいる時点でインターネットを使っていることは自明である。では、インターネットの起こりは知っているだろうか。


 元々コンピューターは弾道を計算するために生まれた。いやいや、ドイツのエニグマ暗号機を解読するためだったか。どちらが先かは各自調べてもらいたい。何はともあれ、コンピューターは軍事の煩雑な計算をするために生み出されたのだ。だから、コンピューターは日本語では電子計算機と訳されている。要するに、すごい電卓なのである。


 さて、軍事にコンピューターを使い出すと、あることが心配になってきた。当時のコンピューターはめちゃくちゃ大きかった。どのくらいの大きさかというと、一部屋丸々が一つのコンピューターという有様である。それでいて、現在のスマートフォンとは比べ物にならないくらいの低性能。真空管と物理スイッチは場所を取るのだ。 もし有事の際はどうするのか。まさか、そんなでかいコンピューターを移動させることはできない。結果、いろんな所に作っておこうとなった。作ったはいいけれど、相互に情報のやり取りができなければ不便だ。それならば各コンピューターを繋いでみよう。これがインターネットの原型である。


 こうして生まれたインターネットは、学者、コンピューターオタク、企業、一般家庭へと広がっていき、今や社会のインフラになっている。そして現在、インターネットは古代の神話を誕生させようとしている。



 イデアという言葉を知っているだろうか。中二心をくすぐるこれは、古代ギリシャの哲学、イデア論のことである。


 古代ギリシャ、というより、アテナイは直接民主制だった。直接民主制というと、なんとなく小学校の学級会のようなイメージがするが、どうやらクジ引き制だったらしい。どういうことか。アテナイ市民の成人男子全員でクジを引いて、国の役職を決めるのだ。クジで当たれば今日からあなたが首相。何それ、ビビる。当時のアテナイ市民もビビった。兎にも角にも教養を磨かなければ。ということで、あっちこっちで盛んに議論が交わされるようになった。

 そんなアテナイで人々が求めたものが真理である。ソクラテスは対話から真理を求めようとしたが、敢え無く処刑されてしまう。その弟子プラトンは、世界の外側に真理を求めた。これがイデア論だ。


 この世界の外側には、イデア界という世界があるらしい。イデア界は真理で構成された世界である。人間は、生まれる前は、そのイデア界に存在している。この時、人間は全ての真理を理解しているのだが、オギャーっとこの世に生まれた瞬間に真理を忘れてしまう。だって赤ちゃんだもの、しょうがない。

 しかし、忘れてはいても、一度は理解していたのだ。自己研鑽を積んでいけば、やがて真理を”思い出す”。何だかずいぶんとオカルティックな話である。



 話を元に戻そう。インターネットの話題である。インターネットは、あらゆる情報を取り込みながら、今も膨張し続けている。政治経済から今日の晩御飯の献立まで、選り取りみどりだ。

 もし、あなたが分からないことがあった時、どうするだろうか。一昔前は、答えを知っていそうな人に尋ねるか自分で調べるかだった。しかし、今は違う。インターネットに質問すると、答えらしいものが返ってくる。単なる通信技術として生まれたインターネットは、その知識の蓄積により、人間の外側に存在する拡張された思考回路として機能し始めている。

 このままインターネットが膨張していけば、やがて真理に到達することがあるかもしれない。その時、人間の質問に返ってくるのは、単なる質問に対する答えではなく、もっと本質的な真理のはずだ。古代ギリシャでプラトンが夢見たイデア界は、現代の技術で現出しようとしている。


 さて、プラトンの弟子にアリストテレスという人物がいる。プラトンのイデア論に「そんなことはないだろ」とツッコんで、プラトンと袂を分かってしまった。その後、アリストテレスはある王子の教育係に就職した。後の大王アレクサンドロスである。インターネットがイデア界の萌芽なら、アリストテレスは今どこにいるのだろうか。その姿を現す時を楽しみに待っている。

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