9にゃ
吾輩は魔物が戻った方向をなんとかして思い出した。
そしておそらく村がある方向に警戒しながら歩いていく。
びくびくしながら歩くのは、吾輩らしくはないが命には代えられぬからな。
吾輩の予想は当たっていたようで、あれ以降魔物に出くわすことはなかった。
そして少し時間はかかったが、森の入り口に戻ってくることができた。
ここまでくればおそらく大丈夫だろう。
吾輩は警戒を解き、ほっと一息つく。体もぐーっと伸ばしてみる。
さてこれからどうするか。
このままレベッカのところに戻るという選択肢もあるにはある。
しかし結局またダニエルに森に戻される可能性が高い。
それに吾輩はすぐにこの村を出るつもりだ。
レベッカに情が移ってしまって、別れがつらくなるのも嫌であるな。
村の空き家にでも隠れて、行商人とやらが来るのを隠れてのんびり待つとするか。
考えをまとめた吾輩は人間に見つからないようにこそこそと歩いて行った。
空き家についた吾輩は森での疲れをとるために昼寝をすることにした。
そもそも吾輩は昼間に活動するのは好きではないのだ。
まぶしいし、暑いからな。
まあ、行商人が来るまでの間はしばらくのんびりしよう。
こちらに来てから、忙しい日々が続いたからな。
吾輩の天才的な脳にも休憩が必要なのだ……
どれぐらい眠っていたのだろうか。
吾輩は村がざわついているのに気が付き、目を覚ました。
なんだ、もう行商人が来たのか?数時間もたっていないのではないか?
吾輩はあくびを一つして、様子を見るために空き家からそっと外をのぞく。
「レベッカー!どこにいるー!」
ダニエルが大声で叫んでいる。
「レベッカちゃーん!どこにいるのー!」
よく知らないおばさんも叫んでいる。
どうやらレベッカを探している様子である。
「おばさん!レベッカはいましたか?」
「見当たらないわ。どこに行っちゃったのかしら?」
「わかりません。お手伝いには来てたんですよね」
「えぇ、お手伝いが終わったから、私の家で休んでいかないって言ったんだけど」
知らないおばさんが答える。
「なんか用事があるからってすぐに帰っちゃったわ。」
用事?吾輩がいたときには用事など頼まれていなかった気がするが。
「特にレベッカに用事などは頼んでいません」
「そうなの?じゃあ、用事っていったい何だったのかしら?」
その時、吾輩はふと嫌な予感がした。
そして、ダニエルも同じ想像をしたようだった。
「まさかあいつ、森に行ったんじゃないだろうな?」
「森へ?一体何のために?」
「それは……」
ダニエルは言葉を濁した。
どうやらこのおばさんにダニエルは吾輩のことを言っていないようだった。
まあ、すぐに森に戻すから伝える必要もないと判断していたのだろう。
「とにかく万が一、森に入ってしまったら大変よ!もうすぐ日が暮れるわ!」
たしかに日が沈みつつあった。吾輩は意外と寝ていたようだな。
ダニエルは何かを決心したように、森に向かって走り始めた。
「ダニエル!一人では危険よ!」
ダニエルはおばさんの静止を無視し、そのまま走って森に向かった。
そして、吾輩はそんなダニエルの背中を全速力で追いかけていった。