8にゃ
なんて男だ、あやつは!吾輩を売り物にするとは!
吾輩はダニエルの姿が完全に見えなくなったところで息を整えていた。
やはり、人間は油断できぬな。
奴らは金の為ならなんでもする奴らだからな。
吾輩も少し油断をしすぎておったな。気を引き締めねば。
さて、ここはどこであろうかな?
吾輩は一心不乱に逃げてきたせいで、自分の位置が全く分からない。
それほど長い時間走ったわけではないはずである。
そこまで森の深くに来たわけではないと思うのだが。
吾輩は注意深く辺りを見回した。
噂の魔獣とやらに出くわさないように気をつけねばならぬな。
警戒を最大限にしながら、吾輩は森の中を歩み始めた。
歩き始めて、しばらくすると辺りに生き物の気配を感じた。
吾輩は即座に茂みに隠れて、気配を感じた方向を見つめる。
そこには一匹の「犬」がいた。
ただし、明らかに普通の犬でない。あまりにもでかすぎる。
吾輩を一口で食べれそうなぐらいでかい。
なるほど、あれがおそらく魔物であろう。
確かにあれと戦うのはあまりにも危険すぎる。
しかし、逃げても絶対に追いつかれてしまうだろう。
あやつがいなくなるのを待つしかないな。
そう思い、吾輩がその「犬」から視線を外そうとした。
その瞬間、突然「犬」がこちらの方を振り向いた。
そして、完全に吾輩と目が合ってしまった。
吾輩をじーっと見つめる「犬」。
「犬」をじーっと見つめる吾輩。
そして次の瞬間、その「犬」が吾輩の方に近づいてきた。
吾輩はあまりの恐怖に体が固まり、動けなくなってしまった。
そしてその「犬」は吾輩に顔を近づけてきた。
やめろ!吾輩は食べてもおいしくないぞ!
吾輩は心の中で叫ぶ。
そしてその犬は吾輩のにおいをかぐと……
興味を失ったかのように去っていった。
なんだ……?助かったのか?
吾輩はそのまま去っていく「犬」を見つめる。
もしかして腹が一杯だったのだろうか?
まあいい、理由は何でもいい。どちらにせよ助かったのだ。
こんな窮地を乗り越えるなんて、やはり吾輩は天才だな!
吾輩は周りに魔物がいないかを念入りに確認し、今後の作戦を練り始めた。
やはり、この森は危険である。一刻も早くおさらばしよう。
そして、ダニエルが言っていた村に来るという行商人の荷物にうまく忍び込む。
そうすれば、おそらくほかの村か町に行けるはずである。
そしてそこで吾輩はうまいものにありつける。
完璧な作戦だな!!さすが吾輩。
そして森の出口だが、さっきの魔物とダニエルのおかげで見当がついている。
ダニエルのやつはこう言っていた。
「魔物は【森の中】に住んでいる」と。
そしてダニエルは森の入り口付近で回復草をとっていた。
吾輩の天才的頭脳がある答えを導き出す。
それは魔物は森の中心にいるが、入り口付近にはいないということである。
つまり、先ほどの魔物が戻った方向と逆の方向に進めば森から出られるのである!
やはり吾輩は天才であるな!!
……それにしてもやつはなぜ吾輩を食わなかったのだろうか?