71にゃ
その黒い針は吾輩の体に刺さると、そのまま体の中に侵入していく。
何なのであるか、これは!
吾輩が針が刺さった部分を見るが、そこにはもう針も傷跡もなかった。
「では、諸君。またどこかで会おう」
アンドラスはそう言って、光とともに消え去った。
アンドラスが消え去ったのを確認した学院長たちは胸をなでおろす。
「ふう、なんとかなりましたね」
「不完全で助かりました。完全だったら大変なことになっていました」
「やはり、あれは本来の力ではないのですね」
「伝承では悪魔は一晩にして、街一つを滅ぼせると言われていますから」
「学院長でも倒すのは難しいのですか?」
「今回のように簡単にはいかないでしょう。それ相応の準備があれば別ですが」
とりあえず、目の前の危機が去ってよかったのである。
だいぶボロボロになってしまったが何とか生き延びたのである。
「さてと、まずはソフィアさんとクロマルちゃんの様子を見ましょう」
「そうですね。ではまず、怪我が酷そうなクロマル君の治療をします」
「よろしくお願いします、ザイン。ソフィアさんの様子は私が見ておきます」
そう言ったザインが吾輩の方に近づいてくる。
その瞬間、吾輩は気が付く。
そういえば、こいつはウィルコットと手を組んでいたのではなかったのか?
なぜ、学院長と一緒にいるのである!
敵かもしれないのである!
吾輩は渾身の力を絞って、ザインを威嚇する。
そんな吾輩を見ても気にせず、ザインはへらへらした顔で話しかけてくる。
「まあまあ、そんなに怒らないでください。あとでちゃんと説明しますよ。それより、まずは傷を治した方がいいでしょう」
そう言ってザインは威嚇している吾輩の身体を両手でつかむ。
そして、回復魔法らしきものを唱えた。
吾輩の身体が光に包まれると、徐々にだが傷が消えていった。
そして光がなくなるころには、傷はすっかりなくなっていた。
やはり回復魔法は便利であるな。
吾輩の様子を確認したザインはソフィアの様子を見ていた学院長に声をかける。
「こちらは大丈夫です。そちらはいかがですか?」
「どうやら魔力をだいぶ消耗しているけど、傷はないみたい」
「傷がない?」
「えぇ、服は傷だらけだけど、体は回復魔法で治してあるみたい」
学院長はそう言うと、吾輩の方を向き、じっと見つめる。
あのまま放置したら、血が流れすぎて死んでしまうところだったのである。
吾輩のナイスな判断だったのである。
学院長はそのまま吾輩のところに来て、吾輩を両手で持ち上げ尋ねる。
「もしかしてクロマルちゃんがソフィアさんの傷を治したの?」
吾輩は肯定のニャーを返す。
そう思い、胸を張って学院長を見ると驚きの表情でこちらを見ていた。
「クロマルちゃんは回復魔法も使えるの?本当にすごいのね」
回復魔法を使えるのはすごいのであるか?
ザインも普通に使っていたと思うのであるが?
そう思い、吾輩はザインの方をじっと見つめる。
すると、ザインは吾輩の視線に気づき、何かに気づいたような態度をとった。
「あぁ、もしかして私が回復魔法を使っているので誤解しましたか」
「なるほど。実は彼みたいに回復魔法が使える人はかなり少ないのよ」
「私は天才ですからね」
「そうでなければ、生徒も持たない変人を学院に置いておくわけありません」
「誉め言葉として受け取っておきましょう」
なるほど、こんな変人が学院にいるのはそれなりに理由があったのであるな。
確かに魔法使いがみんな回復魔法を使えれば、医者はいらないのである。
「それにしてもあなたが魔物に回復魔法を使っているのは初めて見たわ」
「そうでしたかね?確かに仕事で人間を治療させられてることの方が多いですが」
「魔物は殺してばらばらにしている印象しかなかったわ」
「いやですね。殺してしているのは用済みになったものだけですよ」
吾輩はその言葉を聞き、さっとザインから距離をとる。
やはりこいつは危険人物なのである。
ザインはそんな吾輩の様子を見て、優しく声をかける。
「安心してください、クロマル君。あなたは殺す予定はしばらくありませんよ」
「そのセリフでクロマルちゃんが安心するわけないでしょう」
「……そうなんですか?」
「まぁ、いいわ。それよりまずソフィアさんを自室に運びます」
「わかりました」
「話そのあとにじっくりと聞かせてもらうわよ」
「……わかりました」
学院長は身体強化の魔法を使うと、ソフィアを両手で持ち上げる。
そして、そのまま部屋を出て、ソフィアとリンの部屋に向かっていく。
その後ろを吾輩とザインは付いて行った。
そういえば結局あの黒い針は何だったのであろうか?
次回の更新は日曜日または月曜日の予定です。




