6にゃ
吾輩の朝はいつも早い。
なぜなら朝が一番食い物が探しやすいからである。
これは吾輩の長年の経験からくる知恵だ。
吾輩はレベッカに気づかれないように寝ていたカゴから静かに抜け出す。
そして、食い物と情報を求めて外に出た。
この村は一言で言うとしょぼい村である。
吾輩は現代社会に慣れてしまっているからそう感じるだけかもしれないが。
しかし、村人たちの表情はそれなりに明るい。
前にいたところの人間よりも楽しそうに暮らしているように見える。
疲れ切った表情でとぼとぼと歩くスーツを着た人間みたいなのはいない。
幸せとは一体何なのであろうか?
吾輩はこの世の難しさについて少し考えてしまった。
朝ごはんにはパンを手に入れた。
レベッカたちが夜に食べていたので、簡単に手に入ると予想していた。
案の定、手に入れること自体はそれほど難しくなかった。
吾輩はレベッカたちがスープしかくれなかったのを疑問に思っていた。
しかし、その理由はこのパンを食べようとしたときに理解した。
とにかくこのパンは硬いのである。
家で飼われている猫どもが食べているあのカリカリするやつの何倍も。
ちなみに吾輩はあのカリカリするやつはあれはあれで好きである。
と言っても吾輩があのカリカリを口にする機会はそれほど多くはなかった。
最後に食べたのは夜の公園で酔っ払ったOLにもらったときであろう。
今となっては懐かしい思い出だな。
その硬いパンを食うのにずいぶんと時間がかかってしまった。
だが、ある程度腹は満たされたので、情報集めを再開しようとする。
「クロマル~!どこ~!」
レベッカが吾輩の名を読んでいるのが聞こえた。
「クロマル~!いたら返事をして~!」
このままでは村の人に迷惑がかかりそうなので、仕方がなくニャーと返事をする。
「あっ、こんなところにいたんだ、お散歩してたの?」
まあ、お散歩と言えばお散歩だ。
「じゃあ、お家に帰るよ、一緒に朝ご飯を食べよ!」
さっき、苦労してパンを食べたのだが……
まあ食えるときには食いだめをしておくか。
レベッカの家に戻り、用意された昨日の残りのような野菜スープを飲む。
そのスープもまずくはないんだが、もっとうまいものが食べたいのである。
吾輩が心の中で贅沢なことを言っていると、ダニエルが話し出した。
「では、こいつが食い終わったら、森に戻してくるぞ」
「えぇ!お母さんかお友達を探してあげるんじゃないの?」
「森の入り口に親や仲間らしきものがいればそいつらに返す」
ダニエルは吾輩の方を見ながらレベッカの問いに答える。
「だが、いなければそのまま森の入り口に置いてくる」
「森の中までは行かないの?」
「行くわけない。森の中心部には魔物も住んでいるんだ。危険すぎる」
魔物……?なんだそれは?
吾輩は食事を止めて、二人の話に耳を傾ける。
「でもだったらクロマルも危険じゃないかな?」
「大丈夫だろう、おそらくそいつは魔物の子どもだからな」
吾輩、魔物ではなく猫なのであるが……
「入り口にでも置いておけば、仲間がやってくるだろう」
「でも……」
ダニエルは一息入れてから、レベッカに語りかける。
「レベッカ。昨日も言ったが、森にこいつの親や仲間ががいるかもしれない」
ダニエルが吾輩を指さしながら話す。
「お前のワガママで離ればなれにするのは、かわいそうだと思わないか?」
「うん……」
「まあ、別れにくいのはわかるから、おれが森に置いてくる」
ダニエルは食事が終わった吾輩を持ち上げる。
そして、寝床に使っていたカゴに吾輩を入れる。
「その間、レベッカはおばさんのお手伝いをしてなさい」
そう言って、ダニエルは吾輩が入ったカゴを持ち上げて、そのまま外に出た。
どうやら異世界転移が正解だったのである。
さすが吾輩、見事な分析と推理だったな!
……喜んでいる場合ではなさそうだが。