19にゃ
……これが魔法であるか。
正直に言うと、吾輩はがっかりしていた。
あの「犬」の魔物を一撃で倒せるようなものを期待していたのだが。
「もちろん、強力な魔法を放つことができる魔法具も存在しますよ」
ティムが腕輪について説明を補足する。
「ただ、当然価値が全く違います。行商には持ってきませんよ」
まあ、それもそうであるな。
田舎の村の人間がそんなものを買う金など持っているわけがないからな。
吾輩は納得し、そして別のことを考える。
ということは、強力な魔法具を手に入れれば、吾輩は天才魔法猫になれるのか。
さすが異世界、わくわくするであるな!
「ねぇ、ティムさん。これってクロマルも使えるの?」
レベッカがティムに話しかける。
「多分無理ですよ」
ティムがあっさりと答える。
「魔法具は体内の魔力を魔法陣に流して発動します。魔力がないと無理です」
吾輩の希望は一瞬で砕かれた。
さようなら、天才魔法猫クロマル。
少し悩んだ後、レベッカがティムに声をかける。
「ティムさん、これほしいです!」
「かまわないけど、何か交換できるものを持っているのかい?」
ティムは首をかしげながら、レベッカに尋ねる。
「回復草なら持ってます!どのくらいあればいいですか?」
「回復草だって!レベッカ、お前なんでそんなものを持っているんだ?」
ダニエルがレベッカの言葉を聞いて驚く。
「まあ、レベッカちゃんのお願いですので、5束でいいですよ」
「本当!わかった。じゃあ、今から家から持ってくるね!」
そう言って、レベッカは家の方へ走っていった。
「ちょっと待て、レベッカ!おにいちゃんの質問に答えなさい!」
ダニエルは少し遅れて、レベッカを追いかけていった。
あわただしい奴らだ。
吾輩は走り去っていく2人の後ろ姿の見送った。
「それにしても、魔力のない魔物ですか。おもしろいですね」
ティムが吾輩を見ながら、そうつぶやく。
後でいろいろと世話になるからな、あいさつをしておこうか。
そう思い、吾輩はあいさつの意味を込めたニャーをする。
「なかなか、かわいいな。あいつが見たら喜びそうだ」
近くにいたランドが吾輩を自分の目線にまで持ち上げる。
あいつとはだれであろうか。
まあ、だれであろうと吾輩の魅力には勝てないだろうな。
吾輩はティムから干した肉のようなものをかじっていた。
これはかじりがいがあるのはいいが、少し味が濃いであるな。
健康にはよくなさそうである。
そんなことを考えていると、ようやくレベッカが戻ってきた。
「はぁはぁ、ティムさん。お待たせしました」
レベッカが膝に手をつきながら、息を整える。
「これでお願いします!」
手には回復草らしきものが5束握られていた。
「本当に持ってたんだね。はい、ではご希望の『火の腕輪』をどうぞ」
「ありがとうございます、ティムさん!よかったね、クロマル!」
レベッカはなぜか吾輩に向かってそう言った。
首をかしげる吾輩にレベッカが近づいてくる。
「クロマル、これ付けてあげるからここに座って!」
レベッカはそう言って、自分の近くの地面を指さす。
「レベッカちゃん、さっきも言ったけどこの子に付けても……」
「魔法は関係ないの。かわいいからつけてあげる!」
レベッカは魔法の有無ではなく、腕輪の赤色が気にいったようである。
レベッカに指示された吾輩はとりあえず言われたとおりにする。
そして、吾輩の首にその「火の腕輪」が付けられた。
ひもで結ぶタイプだったので、サイズ的にも問題はなかった。
クロマルは「火の腕輪」を手に入れた!
クロマルのかわいさが少し上がった!
次は12/22の17:00に更新予定です。
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