11にゃ
レベッカが森に来た理由はやはり吾輩のようだった。
レベッカの話をまとめるとこうである。
・吾輩を探しに森の入り口に来る
・見当たらないので、どんどん森の中に進む
・気づくと森の深いところに来てしまう
・あわてて帰ろうとしたら、足をひねって歩けなくなる
ダニエルがぎろりと吾輩をにらみつける。
吾輩は悪いことをしてないと思うのだが……
「まあいい、すぐに村に戻ろう」
ダニエルはレベッカを背負いながら言った。
「魔物に出くわしたら大変だからな」
そして来た方向に戻ろうとしたとき、吾輩は背中に気配を感じた。
嫌な予感がして、振り向くとそこには「犬」がいた。
前に出会ったものと全く同じ「犬」かは分からない。
だが見た目で考えると同じ種類ではあるだろう。
吾輩に少し遅れて、ダニエル達も「犬」の存在に気が付く。
「お兄ちゃん、あれってもしかして……」
「まずいな、フォレストウルフだ」
どうやら「犬」ではなく「狼」だったらしい。
「奴は生き物の魔力を感じ取ることができる。逃げ切るのは難しいかもしれん」
魔力?この世界には魔法でもあるのか?
「おにいちゃん、私を置いて逃げて!」
レベッカがダニエルに言う。
「バカか!そんなことができるわけないだろう!」
素晴らしい兄弟愛である。
確かにこの状況は非常にピンチである。
この状況で2人とも無事に逃げる方法は天才の吾輩でも1つしか思いつかない。
吾輩はダニエルたちとフォレストウルフの間にゆっくりと移動する。
「クロマル!」
「お前、まさかフォレストウルフと戦うっていうのか?」
戦えるわけなかろう。だが、時間稼ぎぐらいはできるはずだ。
「クロマルにそんなことできるわけ……」
「いや、わからない。もしかしたらこいつは強い魔物かもしれない」
こいつには吾輩がどう見えているのか?
どう見てもただのかわいくて頭のよさそうな猫であろう。
「どちらにせよ、こいつに任せるしか方法はない」
ダニエルは吾輩の背を見て声をかける。
「すまない、逃げさせてもらう。恨んでくれてもかまわない」
吾輩は気にするなという意味を込めてニャーと鳴く。
その返事を聞いたダニエルは、レベッカを背負ったまま村の方へ駆け出した。
「クロマル!死んじゃだめだよ!」
レベッカの声が遠ざかって聞こえる。
さて、カッコつけてはみたものの、正直勝てる方法はまるで思いつかない。
サイズが違いすぎるし、そもそも吾輩には攻撃手段というものがほとんどない。
ネズミだったら倒せなくもないが、あんなのにはかすり傷にも与えられない。
唯一の救いが、奴が吾輩に襲ってくる様子がないことである。
というより、なにか戸惑っているように見える。
まるで今まで見たことない生き物に出会ったような態度である。
そこまで考えて、吾輩は気づいた。
やつは警戒をしているのだと。吾輩という未知の生物に。
おそらくこの森には吾輩に似た生き物がいないのであろう。
だからこそ吾輩がどのような攻撃をしてくるのかわからないのだ。
であれば、吾輩はとる方法は一つである。
それは奇襲からの即離脱である。
作戦はこうである。
まず、吾輩がやつに攻撃を仕掛けるふりをする。
するとやつは吾輩の攻撃を躱すか防ぐだろう姿勢をとるだろう。
そしてやつがその姿勢をとった瞬間、吾輩は全力で逃げるのである。
そうすれば、奴はあっけにとられ、気づいたときには吾輩はもういない。
名付けて「猫だまし」作戦である!!
さすが吾輩、天才であるな!!