地下施設
どのくらい時間は経っただろうか。下に降り始めて数分。今のところこのエレベーターが着く気配は全くない。わしとおばあさん(たえ)は時間が経つにつれてどんどん不安になってきていた。
「私達どこに連れて行かれるのかしら?ちゃんと生きて帰れるわよね?」
おばあさん(たえ)は不安なのか、わしの服をぎゅっと握る。わしも握っている手に汗がにじみ、
少し震えている。
「いや、それは保証できないわ。たとえここから無事に帰れたとしても……」
「え!?ど、どういうことよ!?」
レイモンドは眉間にしわを寄せて、わしたちから目をそらした。そのことが気になったが、一気に変わった周りの景色に度肝を抜かれた。不安だった気持ちが一気に吹き飛ぶぐらいの衝撃だった。
「さっ、着いたわ!外を見てご覧なさい!」
ずっと地下を移動していたから分からなかったが、このエレベーターの壁と天井はガラス張りだった。地下道を抜けたエレベーターから見えたものはこれまた信じられないものだった。そこは東京ドームがまるまる入るのではと思えるほど広い場所に出た。よく見るとそこは駐車場だった。何台あるか分からないほど沢山の車が停まっている。そして壁には、このリムジンが乗っているエレベーターのようなものがいくつもある。同じように車を乗せて上から降りてくるものもあれば、上へと上って行くエレベーターもある。
ガゴン!!
わしらの乗っていたエレベーターが下へと着いた。リムジンは移動を始め、空いている駐車スペースに停まった。車を降りて歩き始める。わしらはキョロキョロと辺りを見ながらレイモンドについて行く。何かロボットでも搬入するのか?ものすごく大きな扉が目に入る。わしらはその扉の方へ向かっているようだ。扉の前には家に来た黒スーツの男達が立っていた。
「あんたらも来てたのか?」
わしはその黒スーツの3人に話しかけた。しかし聞こえなかったのか3人の誰もわしの質問には何も答えない。
「あんたらはリムジンには乗ってなかったが別の車で来たのか?」
これも答えないか。そう言えば家の前に立っていた時も何もしゃべってなかったな。
「おぬしらホントそっくりだな。」
これはもう無視じゃな。何をしたか分からんがわしは嫌われているっぽい。
「その子達はよっぽどの事がない限りしゃべらないわよ。そう訓練して来たからね!ちなみにその3人がそっくりなのは三つ子だからよ。」
3人の代わりにレイモンドが答える。
「三つ子ねぇ……」
そう言いながらわしが男達の顔をまじまじと見ると、少し顔を赤くしてわしから視線をはずした。
「それはそうと、この扉でかいな!飛行機でも入りそうじゃな……」
どっかのSF映画かよ!という言葉が聞こえてきそうな顔でおばあさん(たえ)が扉をにらみつけている。『また無駄なものを作って……』とか思っているんじゃろな。
「ねぇ~スター○ォーズみたいでしょ~!噂じゃジャンボジェット機も入るとか入らないとか……。信じるか信じないかはあなた次第よ!」
レイモンドの顔はたえの目の前にあった。わしはそれを引き離すように間に割って入る。
「ところで、レイモンドさんよ……」
「レイちゃんって呼んで!」
「レ、レイ……ちゃ、ん……あの3人の男達は一緒にいる意味あるのか?」
わしは黙って後ろにいる無口な三つ子を見つつレイモンドに質問する。
「えっ?あぁ、いいのよ。あの子達はあたしの部下だから。私もあなた達を迎えに行くのなんて1人で十分だって言ったんだけどね。訳ありで今は数人でチームを組んで常に一緒に行動しなきゃいけなくて……」
聞く限り普段は1人で行動しているらしいが、今はなんか緊急事態なのか?ここから出るときは常に数人で行動しなきゃいけないらしい。
「さっき車にはいなかったが...」
「あれはあなた達夫婦がS級の重要人物だからト・ク・ベ・ツ♡それにあの子たちがいると威圧感半端ないでしょ!」
そうレイモンドは言いながら源蔵にウィンクをした。
「じゃ行きましょうか!」
目の前にある大きい扉はほぼ使わないらしい。近くには普段使う用の扉があった。それの前に人が立つと近未来的な開き方をしている。普通の自動ドアと何が違うんじゃろか?っていうか人の行き来が多くてほぼ開きっぱなしっぽいな。
「ねぇ、ねぇ。あの服可愛いわね!制服?」
レイモンドについて歩いているとたえがレイモンドに話しかけている。たえが指差す先には制服のような同じ服装で話している女性達がいた。
「やっぱり分かる〜?可愛いわよね!あたしもそう思って、あの制服がもらえるならって、厳しい訓練にも耐えてLFJの職員になったのに制服もらえなかったの~!あたしは男だからって……男じゃなくってオカマなのに~」
レイモンドは頬を膨らませた。お世辞にも可愛いとは言えない。なんせ見た目はスキンヘッドでヒゲが生えたおっさんなのだから。
「え、じゃあ私、言えばもらえちゃうんじゃない?」
おばあさん(たえ)はあの制服が欲しいのか?車の中で抱いていた不安はどうした?わしもいつの間にか不安がなくなっているのか、手のひらににじんでいた汗が引いていて震えもなくなっている。
「えっ、じゃあたしのもお願い!ねっ!ねっ!お願い!」
おばあさん(たえ)とレイモンドは親しく話しているが、いつ仲良くなったんじゃ?そんなタイミングはなかったけど……【カワイイは正義】ってやつか?
そんな話をしながら建物の中を歩いていると後ろから声をかけてきた人物がいた。
「レイモンド!」
その人物はレイモンドを呼び止める。その声にレイモンドが振り返る。
「ん?あ、マナリン!」
そこには独特なオールバックで、もみあげとヒゲが繋がったダンディなおじさんが立っていた。
「マナリンじゃない!総司令と呼べといつも言っているだろう!それに、到着したらまず私の部屋に来いと言っていたはずだが?」
総司令?ということはこの施設内で一番偉い人なのか?レイモンドの上司っぽいしな。
「あぁ……えぇ~っと……ごめんちゃい!」
レイモンドはすごい馴れ馴れしいけど偉い人なんだよな?
「はぁ……まぁよい。ちゃんと無事に連れて来てくれたみたいだからな。」
その男はわしとおばあさん(たえ)の方に顔を向ける。
「はじめまして。山本夫妻。突然お伺いしてすみませんでした。本当なら私が直接行くべきだったんですが、どうしても早急に片付けなければいけない仕事がありまして。」
すごく礼儀正しい。レイモンドからのこの礼儀正しさに戸惑い、こっちの口調までかわっちまう。
「いえいえ。大丈夫です。それで、あなたは?」
「あっ、これは失礼しました。私はこのLFJの日本総司令部最高責任者。そして今回のミッションの総指揮、マナベルと申します。」
「どうも……。」
そう言って頭を下げるマナベルにわしら夫婦も頭を下げる。
「ではこれから私について来て頂けませんか?お2人に見せたいものがあります。」
真剣な眼差しでマナベルはわしら夫婦を見てくる。その目に今まで感じたことのない迫力を感じる。
「マナリン、もしかしてアレが……。」
「あぁ。完成した。」
わしらがマナベルについていくとひと際重工な扉の前についた。
ピッピッピッピ……ピー!ガチャン!
マナベルが扉の横についているキーパッドをいじるとロックが外れ扉が開いた。