2人の思い出
わしら2人が住んでいるのはリバーサイドの30階建てマンションの最上階。この大きさのマンションは今の時代では中規模マンションで、周りには大きいもので50階建てや70階建てのビル、マンションが建ち並び、その中でもひと際目立ち、この部屋の窓からも見える建造物がこの町のシンボルである『浅草スカイタワー』じゃ。
なぜ金銀財宝やギャンブルで稼いだ財力のあるわしら2人が高級マンションでなく、この場所に住んでいるかというと、そばを流れている川が理由だ。やはり川はその昔、子供のいなかったわしらに子を授けてくれたのだ。その時の川とは違うが、やはり近くに川があると安心する。とある理由でいろいろな場所を転々としてきたわしらじゃが、やはり川の近くがいいと数十年前からこの場所に住んでいる。
わしら2人は家に帰り着き、ゆっくりお茶を飲んでいた。
「もう何年たったんだろうかねぇ……」
わしはお茶を一口飲んで、ため息交じりに言葉を発した。
「何がですか?」
向かいに座り、机の上のお煎餅を食べながらおばあさん(たえ)が答える。
「いやぁ……このまま生きててもなぁ……なんて」
わしはまた一口のんだお茶の湯呑を握ったまま、何かを見るわけでもなく窓の外の遠くを見て少し笑いながら答えた。
「またですか?それ百数十年前ぐらいからことあるごとに口にしてますよね。」
あきれた感じでおばあさん(たえ)は服に落ちたお煎餅のカスを払いながら言った。
「今回は本気じゃ!!」
わしはおばあさんをまっすぐ見て、声に力を込めて本気なことをアピールした。
「それも数十年ぐらい前から言ってますよ。」
いつものことだろというようにおばあさん(たえ)は目線を合わさず、下を見たまんまお茶をすすった。
「このやりとりも飽きたなぁ……」
おばあさん(たえ)とは何百何千とこのやり取りを行っていた。これだけ生きてると話すことはほとんど無くなるんじゃよ。
「「はぁ……」」
わしとおばあさん(たえ)はため息をつき、お茶をゆっくりすすった。
「おっ、そうじゃ!」
わしは席を立ち、奥の部屋へと行った。わしはすぐにお茶を飲んでいたリビングへと戻った。手には一冊の本を手にして。
「なんですか、それは?」
おばあさん(たえ)はコレをもう覚えていないらしい。わしも見つけたのは久しぶりだったしな。
「これじゃよ!これ!久しぶりに見つけてのぉ〜!」
わしは手でホコリを払いながら笑顔で答えた。
「あっ、アルバムじゃないですか!」
おばあさん(たえ)も思い出したらしくテンションが上がっていた。
わしが持ってきたのはアルバムだった。かなり古いものであったが、わしら2人にとってはとても大切な思い出が詰まった宝物じゃ。
「どこにあったんですか!よく見つかりましたね!」
「この前、大掃除した時に出てきたんじゃ!2人で見ようと思ってな!」
「1世紀ぶりぐらいじゃないですか?引越の時にも見つからなかったから、もう捨てたのかと思いましたよ。」
「ワシもじゃよ!早速開けるぞ!」
わしらは久しぶりのアルバムに胸おどらせていた。わしはアルバムに手をかけめくった。
ヒューーー
そのとき、開いていた窓から風が入ってきた。その瞬間アルバムはすべて崩れ粉々になり、風に運ばれ家を出て行ってしまった。
「しょ、しょうがないわよ。あの時代、写真なんてなかったし、絵師に描いてもらったものだから紙自体が風化してたんでしょうね。」
「すまん。」
わしはめくったときの手の動きのまま固まっていた。
「それに今はこれがあるじゃない!」
そう言っておばあさん(たえ)が本棚から取り出したのは絵本だった。
「ほら!まぁ顔は全然似てないけど、だいたいこの話あってるじゃない。昔を思い出すわぁ。桃太郎にかぐや……まさかあの子達がこんなに有名になるとはね。」
おばあさん(たえ)は少し目に涙を浮かべながらその絵本の顔を優しく撫でた。
「お前もそれを見るたびに泣くんじゃないよ。ただの絵本じゃないか。」
そうわしらの子供たちは絵本にもなっている「桃太郎」や「かぐや姫」である。物語が終わったあと子供たちには会えていなかったし、もう何百年も前のことだから亡くなっているのは間違いないだろう。
「それにほとんどの人が作り話だと思っている。本当にあった話だなんて誰も信じちゃくれんしのぉ。」
「分かってるわよ。でも思い出すくらいいじゃない!私たちあの子達の死に目にも……」
ピンポーン
その時、家のチャイムがなった。