仲の良い家族
「懐かしいのぉ。今見るとだいぶちっちゃいなぁ……。」
わしは当時おばさんと桃太郎と3人で暮らしていた家が見える位置まで来ていた。
「あの頃は3人で楽しかったなぁ……。」
家の裏にある林に隠れながら、様子をうかがっていると……。
ガラガラ!
突然、家の扉が開いた。わしはバレないように木の陰に隠れる。隠れながら家の方へ聞き耳を立てる。
「じゃあ、この野菜をひでじぃに届けたらそのまま稽古に行ってくるね!」
「ちょっと待ちなさい。わしも柴刈り行くから、途中まで一緒に行こう。」
家から出てきたのは少年の桃太郎とこの時代のわしだった。2人は今から出かける用だ。
「あぁ……桃太郎が……生きておる……。」
わしは鬼退治以降、桃太郎には会っていなかった。金銀財宝をわしらに渡して桃太郎はまたすぐに旅に出たのだ。それ以降村に戻ってくることはなかった。久々に見た桃太郎を抱きしめに今にも飛び出して行ってしまいそうな足をぐっと押さえ、下唇を噛み、こぶしを握って堪えた。
「2人ともちょっと待って!」
出かけようとする当時のわしと桃太郎を呼び止める声が家の中から聞こえる。玄関先に出てきたのはこの時代のおばあさん(たえ)だった。
「たえ……老けてんな……。」
わしはこの姿を久々に見た。現代でのおばあさん(たえ)は整形を繰り返し、20代の姿をしていた。この姿のおばあさん(たえ)も懐かしい。
「いつもの握り飯と……あとこれを持って行きなさい。」
そう言っておばあさん(たえ)が2人に何かを渡した。わしは当時を思い出し、首からかけているネックレスをギュッと握った。今おばあさんから受け取ったのは、今後ずっとお守りにすることとなるキレイな石だった。少し紫がかっていて不気味にも見えるが……。
「キレイだね!母さん!」
その石を受け取った桃太郎は手のひらに乗せて、すごく喜んでいた。
「昨日、洗濯してたら川で見つけてねぇ。すごくキレイだし、桃太郎を授けてくれた川だったから縁起物だと思って拾ってきたんじゃ。元々一つだったみたいなんだけど、ちょうど3つに割れていたから磨いてみたんじゃよ。持ってたら何かいい事があるかもしれないよ!」
そうじゃ。この石のおかげでこうしてまた桃太郎を見ることが出来たんじゃ。大事にせねば。わしは再度ギュッとネックレスを握る。それにしてもおばあさん(たえ)がわしみたいな口調なのに違和感がある。現代ではテレビの影響で普通にしゃべってからな……時々訳の分からないギャル語?ってもしゃべっていたが、わしには理解できんかった。
「ありがとう。大事にするよ!」
桃太郎はその石を袖の中にしまった。わしはここであることを思い出した。
「この石を受け取ったという事は、今日が……。」
わしはこの何気ない様子を見ながら拳を強く握った。その拳は少し汗ばんでいた。
「じゃあ、母さん行ってきます!」
「行ってくる。」
「2人とも気をつけてね。」
桃太郎は野菜の入った籠を背中に背負い、この時代のわしは斧一本が入った籠を背負って元気よく出かけていった。わしは気付かれないように2人の後を追っていく。