懐かしの過去
【第二章:桃の章~変わらぬ悲劇~】はじまり
「ちょっと待ってぇ~!」
わしのこの声は誰にも届かなかった。後ろに重力がかかったと思ったら、突然白い光に包まれた。眩しさのあまり思いっきり目を閉じた。その眩しさが収まったのでわしはゆっくりと目を開けた。目の前には青く広い空が、下には大きな森が広がっている。あのコンクリートジャングルだった面影は全くない。
「もしもし!マナベルさん?ベント?たえちゃん?おーい、誰かぁ〜?」
通信機で呼びかけても何の反応もない。ベントの言った通り、現代とは連絡は取れなくなったようだ。ということはタイムスリップに成功し、わしは過去へと来たようだ。
「成功したみたいじゃな。タイムスリップ……そうじゃ!まずはこのタイムマシーンを隠すんじゃったな!」
操縦の仕方を学ぶ時にベントに言われていた事があった。まず過去についたらこのタイムマシンを人目につかないように隠すようにと。源蔵は下を覗き込みながら隠す場所を探し始めた。しばらくすると森の中にちょっと広めの木のない場所を見つけた。
「ここにしよう!」
わしはそこにタイムマシーンをゆっくり下ろした。
なぜこんなにも簡単にわしがこの戦闘機型タイムマシーン・ジャックを操縦できるのかというと、ゲーム好きだったことも幸いし、簡単に覚える事が出来た。ただ初めての操縦が本番ということが不安であった。
エンジンのオンオフもパソコンの起動するようにボタンを押すだけで大丈夫だった。
わしはエンジンを止めタイムマシーンから降りた。
「このボタンを押したら……鍵が閉まって……最後にこのボタンを……」
わしは外側についている二つのボタンを押す。最初に押したボタンで鍵がしまった。そして部品が1つ取れた。これがカギになるらしい。
鍵をしまって、もう一つのボタンを押すとタイムマシーンの姿が見えなくなった。
「これがステルス機能ってやつか……」
わしは感心しながら、見えなくなった機体をスリスリしていた。
「っと、そんな事よりまずは自分の村を探さなきゃいけなかったのぉ。えっとここは...」
源蔵は周りを見渡した。とりあえずベントには昔住んでいた辺りを地図で教えてといたけど、ここは見覚えがあるようなないような……。
「ワシの考えが合ってれば……。」
そう独り言を言いながら草木をかき分けて森を進んだ。進み続けると、目の前に大きな大きな大木が現れた。
「やっぱり!ここはワシがよく柴刈りに来ていた山じゃ!」
わしはこの時代では薪を売って生活していた。そのためこの山には柴刈りに来ていて、疲れたらよく目の前にある大木で休憩していた。
そうここは絵本で最初に出てくる『おじいさんは山へ柴刈りに……』のあの山だったのだ。
わしは久々に見た大木が懐かしく、昔休憩していた場所に座って森から聞こえる風や葉がかすれる音、鳥の声など目をつむって聞いていた。
「もうそろそろ行くか。」
わしはよっこいしょと腰を上げた。立ち上がりこの森を出る為に辺りを見渡す。そしてわしは使い慣れたけもの道を進む。身体が覚えているのか、木々の間をもの凄いスピードで駆け抜けてゆく。そして、森を抜けた。そこから遠くの方に民家が数件見えた。
「あそこは……ワシが住んでた村……ホントに、ホントに帰ってきたんじゃな……」
わしの目にはいつの間にか涙を浮かんでいた。
「みんなに会えるんじゃ……みんなに……」
源蔵は久しぶりの村や、村民に会える喜びで自然と足が村に向かって駆け出していた。しかし、突然ピタッと源蔵の足が止まった。
「そうじゃった……。」
わしは出発前にベントに言われていた言葉を思い出していた。
出発前-----
「向こうについたら桃太郎さん以外には見つかんないでね!」
「なんでじゃ?」
わしは懐かしい友人に会えるかもと少しウキウキしていたのに、そんなこと言われて少し口をとがらせた。
「そこにはその時代のゲンさんがいるんだよ!今のゲンさんがそこに行っちゃうと2人になっちゃうじゃん!だからダメ!」
「そうじゃな。わかった。」
ちょっとぐらい……と思ったけど、わしはしぶしぶ納得した。
「それと桃太郎さんに会うのも連れてくる時だけね!」
「分かってる。分かってる。」
わしはあしらうようにベントに返事をした。
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「おっといけねぇ。みんなに会いたかったが……隠れながら行かねば……。」
わしは茂みに隠れながら進んだ。そして、ある一軒の家の前まで来た。