準備完了
「こちらベント!マナリン応答せよ!」
わたしがたえさん……見た目20代の不老不死のおばあさんから桃太郎が実在したと衝撃の事実の聞いたところで源蔵さん……不老不死のおじいさんを連れて行ったベントから通信が入る。
「どうしたベント?」
「こっちの準備はだいたいいいよ!」
モニターにはドアップのベントと後ろでブツブツと何かをずっとつぶやいて手を動かいている源蔵が映っていた。その顔は少し引きつっているように見える。
「そうか。源蔵さんは大丈夫そうか?」
わたしの声に源蔵さんは気付いたのか通信をしているこっちに目線を向ける。
「急すぎて心の準備がまだじゃ。普通こういうのって考える時間をもらえるんじゃないのか?」
どんどんカメラに迫ってくる。源蔵さんには悪いがそんな時間はない。それを伝えようとすると、少し、カメラから離れ、源蔵さんは言葉を続ける。
「けどまぁ……ここまできたら、やってやるわ!」
断られるもんだと思っていたわたしは、帰ってきた言葉に安堵した。
「ゲンちゃん……。」
そんな私の隣で不安そうなたえさんが源蔵さんに向けて声をかけている。それはそうだろう。私たちの勝手でこんな危険なことに巻き込んでしまったのだから。そんなたえさんに源蔵さんは不安をぬぐい去ろうと声を発した。
「タエタエ大丈夫じゃ。どうせわしが行かなきゃ、日本は救えんのだろ!こうなったらわしがヒーローになってやるわ!」
力強い言葉にわたしは胸の奥からこみあげてくるものがあった。
「源蔵さんありがとうございます。」
わたしは源蔵さんが映るモニターに向かって頭を下げた。すると指示したわけではないが、そこにいた私の部下が全員、座っていたものは立ち上がり私と同じようにモニターに向けて頭を下げた。ベントと源蔵さんがいる部屋でも皆、源蔵さんに向けて頭を下げたらしい。その状況にびっくりしたのかモニターに映る源蔵さんは焦った様子でキョロキョロしていた。
「それとタイムトラベルするにあたって気をつけてほしい事が1つ……。」
これだけは伝えなければいけない。タイムトラベルによくあるアレである。
「これから連れてくる息子さんについて、たえさんから話は聞きました。それで、過去を変えないよう息子さんを連れてくるのは鬼を倒し、財宝をお2人に渡した後にしましょう。」
「なんでじゃ?」
源蔵さんは着いたらすぐに桃太郎を連れて帰ってくるつもりだったようだ。しかし、そうすると現在に伝わる桃太郎の話はなかったことになる可能性がある。もしかしたらそれ以上に何か影響があるかもしれない。それを源蔵に伝える。
「過去が変わると今のこの時代が大きく変わってしまうかもしれないからです。鬼が桃太郎に倒されなかった未来を想像してみてください。」
「それは……大変じゃな!そもそも桃太郎を連れてきて大丈夫なのか?」
確かに。でも現代に人間以外のものに勝てる人間を知らない。鬼にも勝った桃太郎なら人間ではないかもしれないやつらを相手にしても勝利してくれるだろう。こんな適任は他にはいないが……わたしは現代だけでなく、過去までも変えようとしている。それはやってもいいことなのか……
「大丈夫よ。」
そう言ってレイモンドが私の背中をポンと叩く。
「鬼退治後の桃太郎の話は残ってないということは、それ以降はそこまで歴史に影響を与えたことをしてない。ということは連れてきても問題ないはずよ。」
そう言ってレイモンドがモニターに向けて親指を立て、腕をビシッと伸ばした。
「……そういうもんか?」
少し考えて源蔵がつぶやく。
「どっちにしろ連れてきていただけなければ、1年後世界は滅びてしまうんです!」
そう。考えている暇などない。タイムトラベルできるらと言っても残された時間は1年しかない。源蔵さんにはやってもらうしかない。源蔵さんは納得したのか、小さくうなずく。
「では、お願いします!」
「おう!ちょっくら我が子に会いに行ってくるわい!」
源蔵さんは親指で鼻を触りながら力強く言う。これが江戸っ子ってやつか。