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8.初めてのデート

 今日はブライアン様と約束したデートの日だ。

 楽しみ過ぎて、昨日はなかなか寝付けなかったし、夜中に何度か目が覚めてしまった。だけど眠気は全く無く、寧ろ緊張と喜びで覚醒し切っている。


「アリシアお嬢様、ブライアン・ゴードン様が到着されました」

「分かりました。すぐに参りますわ」


 ブライアン様が迎えに来てくださって、私は急いで玄関に向かった。正装や騎士服姿のブライアン様も勿論格好良いが、今日の外出着のブライアン様も新鮮でやはり格好良い。白いシャツにクラバット、黒いズボンと上着と言うシンプルな出で立ちが引き立てる、服の下のはちきれんばかりの筋肉。正に眼福の一言である。


「アリシア嬢、今日は宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願い致しますわ」


 ブライアン様が差し出してくださった手を取って、ゴードン伯爵家の馬車に乗り込む。向かい合わせに座ると馬車が動き始めた。移動中もずっとブライアン様を……正確にはブライアン様の筋肉を見つめていられるなんて、至福でしかない。


「今日は何だかアリシア嬢を巻き込むような形になってしまってすみませんでした」

 何故か開口一番、ブライアン様に謝られてしまった。


「いいえ、元はと言えば、私がブライアン様をお誘いしたのが発端なのですから。どちらかと言うとブライアン様が巻き込まれたと言う方が正しいのでは?」

「そう言ってくださると、助かります。それにしても、ルーカス殿下は普段あまりオペラに興味があるようにはお見受けしなかったのですが……。ガメオ座のオペラとやらは、そんなに有名なのでしょうか? 私はどうも、こういう物には疎くて」


 多分、ルーカス殿下があまりオペラに興味が無いと言うのは本当だろう。今回は私とブライアン様が一緒に見に行けるよう、興味がある振りをして無茶振りしてくださっただけに過ぎないだろうから。


「ガメオ座は昔から演劇で知名度が高いので、新作も話題に上りやすいのですわ。今回のオペラも新作で、まだ公開されたばかりなのですが、一部では非常に評判が良く、私も気になっている次第ですの」

「そうなのですか。アリシア嬢は、よく演劇やオペラを鑑賞されるのですか?」

「よく、と言う訳ではありませんが、お茶会等で評判になるような物は、話題に付いていく為にも、一度見ておきたいのですわ」

「確かにそうですね」


 お茶会で聞いた、今回のオペラの見所等をブライアン様に話しているうちに、目的地に着いた。ブライアン様にエスコートしていただいて、馬車を降りる。


「あの……言い忘れていましたが、そのドレス、とても良くお似合いです」

「あ、ありがとうございます」

 思わぬ所で頂いた褒め言葉に、私は頬を染めた。


 私の今日のドレスは赤だ。ブライアン様の髪色に合わせて選んだのは内緒である。袖口や裾にはフリルが付いているが、全体的に装飾は控えめで動きやすい。髪もハーフアップにして、赤いリボンの髪飾りを付けている。


「すみません、こういう事は、まず初めにお目にかかった時に言うべきだったのですが、緊張してしまっていて」

「私もですわ。ブライアン様と一緒にお出掛けできるのが嬉しくて、今も緊張しておりますの。正装姿や騎士服姿のブライアン様も勿論格好良いですが、今日のブライアン様もとても素敵ですわ」

「アリシア嬢にそう言っていただけて、光栄です」


 お互いに照れながら微笑み合う。また貴重なブライアン様の表情を見る事ができて幸せだ。そしてエスコートの為に触らせていただいている、太くて硬くて弾力のある腕の筋肉の感触も最高だ。願わくば、ずっとこの幸せが続いて欲しい。


 劇場の中に入り、ブライアン様と隣同士の席に座る。オペラは評判通り、劇も歌も演奏も良かった。だけど私としては、隣で眠気と戦いつつも頑張って舞台を観ているブライアン様の横顔の方が、何十倍も何百倍も良かったのだった。


「今日のオペラは如何でしたか?」

 演目が終わり、劇場を出ながらブライアン様に尋ねる。


「アリシア嬢が見所だと教えてくださった通り、歌が良かったなと思いました。あれ程の声量を出せるのは実に羨ましいですね。肺活量の鍛え方を是非伺って、部下達にも見習わせたいくらいです」

(そこですか!)

 如何にも騎士団長らしい視点からの感想に、私は思わず笑ってしまった。


「アリシア嬢は、如何でしたか? 楽しめましたか?」

 少し不安そうに尋ねてきたブライアン様に、私は笑顔で即答する。


「勿論ですわ! 評判の通り良い作品で、劇にも歌にも感動しましたけれども、何よりもブライアン様とご一緒できてとても嬉しかったですわ!」

「……それなら良かったです」


 一瞬戸惑ったように目を丸くしたブライアン様は、安堵した様子で照れ臭そうに微笑んでくださった。その表情に、心臓が大きく高鳴る。


(どうしましょう……。やっぱり私、ブライアン様の事が好きだわ……)


 今日の目的であるオペラはもう見終わった。後は帰るだけなのだろうか。でもできればもう少し一緒に居たい。何か良い口実は無いだろうかと、頭の中でぐるぐると考えていると、ブライアン様が口を開いた。


「あの、アリシア嬢。実は今日、母からカスター堂のタルトをお土産に買って来て欲しいと頼まれておりまして。もし宜しければ、もう少しお付き合いいただいても構いませんでしょうか?」

「ええ、勿論ですわ!」

 降って湧いたような話に、私はすぐさま飛び付いた。


(ありがとうございますゴードン伯爵夫人!! 心から感謝致しますわ!!)


 因みに、ゴードン伯爵夫妻には、先日ルナ様にご紹介いただいた際に、ルナ様の友人である上に強面のゴードン伯爵にも臆せず笑顔で会話していた事で、既に好感を持っていただけており、実はこの時も私とブライアン様の仲を応援するべく、わざとブライアン様にお土産を頼まれていたのだが、当然私は知る由も無かった。

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