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7.援護射撃からの約束

 翌日、私はルナ様に昨日のお礼を言う為に、王宮を訪れていた。ルーカス殿下とのご結婚を控えている上に、既に王太子妃としての公務を担われつつあるルナ様は、大変お忙しい筈なのに、私と会う時間を作ってくださったのだ。大変有り難い。


「ルナ様のお蔭で、漸く長年の夢が一つ叶いましたわ! もう昨夜は凄く幸せでしたの……!!」


 間近で見たブライアン様の筋肉の素晴らしさ、逞しい男性にリードしてもらえる絶対的な安心感をつらつらと語っていた私が、もう一つ大切な目的があって来た事をハッと思い出した頃には、優に一時間は経過していた。


「それでルナ様、一つご相談が。ルナ様も仰っていた通り、ブライアン様は少々女心に鈍感な所がありますの。昨夜も『第一騎士団長として』私がお話ししたい事があるのだと誤解されかけていたようなので、もっと私の事を意識していただけるようにしたいのですが、何か良い方法はないものでしょうか?」


 私の話を苦笑しながらもずっと聞いてくださっていたルナ様は、落ち着いた仕草で、手に持たれていた紅茶のカップをテーブルに戻した。


「それでしたら、暫くは間を空けずに、兄に会いに行かれるのが良いと思いますわ。間が空いてしまうと、折角アリシア様が想いを寄せてくださっていると言うのに、兄は社交辞令だと思い直してしまいかねませんから。丁度今は、騎士団の訓練所でルーカス殿下に稽古をつけている筈ですわ。私と一緒に見学に参ると言うのは如何でしょう?」

「ええっ!? 訓練中のブライアン様を拝見する事ができますの!?」

 目を輝かせて身を乗り出した私に、ルナ様はにっこりと笑って頷いてくださった。


(ルナ様は天使、いいえ女神だわ!! 訓練に励むブライアン様の勇姿を、こんなに早くこの目で見る事ができる日がくるなんて思わなかった!!)


 気を抜くと飛び上がって喜んでしまいそうになる衝動を抑えて、ルナ様の後を淑女らしい楚々とした足取りで付いて行く。

 訓練所に着くと、何処を見ても逞しい身体をした騎士の方々が訓練に励んでいて、私は狂喜乱舞しそうになった。その中でもやはり目が行くのは、一段と体格の良いブライアン様だ。ルーカス殿下に指導をしていらっしゃる所も見惚れるくらいに格好良い。服の上からでも分かる、振り下ろされた剣を余裕を持って受け止める際に強調される腕の筋肉、時折隙ができた場所を狙って剣を繰り出す時の素早い足の動き、それを支えるがっしりとした太腿やふくらはぎの筋肉等を少しでも目に焼き付けておきたくて、つい食い入るように見つめてしまう。


「ルーカス殿下、一度休憩にしましょうか」


 私達の到着に気付いたブライアン様の号令で、騎士達は一時休息を取る事になった。誠に残念である。もっと見ていたかったのに、と思いながら、ルーカス殿下を労わるルナ様を尻目に、私はブライアン様に歩み寄った。


「お疲れ様です、ブライアン様。お邪魔致しておりますわ」

「これはアリシア嬢。このようなむさ苦しい所に何故……ああ、妹に付き合わされたのですね。申し訳ありません」


 ルナ様の代わりにと、いきなり私に謝ってくるブライアン様。昨夜私がずっとブライアン様に想いを寄せていた事を遠回しに打ち明けたと言うのに、私が会いに来たという発想は微塵も浮かばないのだろうか。


「いいえ。寧ろ私がブライアン様にお会いしたくて、ルナ様に案内していただいたのですわ」

「……え? わ、私に、ですか?」

 私が少し唇を尖らせながら明かすと、ブライアン様は一瞬硬直した後、顔を真っ赤にして狼狽え始めた。


「はい。ルーカス殿下にご指導なさるブライアン様も、とっても格好良かったですわ」

「え、いや、そのような事は……。えっと、恐縮です……」


 耳まで赤く染まったお顔を片手で覆い、視線を逸らしながら答えるブライアン様は、何だか可愛らしい。新たなブライアン様の一面を、間近で見る事ができる幸せを噛み締める。だけどここは人の目があって落ち着いてお話しする事もできないし、休憩中とは言え、ブライアン様のお仕事を邪魔してしまうのは本意ではない。


「あの……ブライアン様、もし宜しければなのですけれども、最近評判になっているオペラが、私気になっておりますの。もしブライアン様のご都合が合うのであれば、一緒に見に行くと言うのは如何でしょうか?」

 思い切ってデートに誘ってみると、ブライアン様は目に見えて動揺し始めた。


「わ、私とですか!? ア、アリシア嬢さえ良ければ勿論構わないのですが。その……正直に申し上げますと、無骨者の私にオペラの良さが分かるかどうか、自信が無く……。他の方を誘われた方が、アリシア嬢も楽しめるのではないかと……」

(……これは、断られてしまったのかしら……?)


 ブライアン様が嫌がっておられるのならば無理強いする訳にも行かず、眉を下げて落ち込んでいると、横から助け船が現れた。


「最近評判になっているオペラと言うと、ガメオ座の物か? 実は俺も気になっていたんだ」

 驚いて振り向いた私と目が合ったルーカス殿下は、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「お兄様の次のお休みの予定は、確か明後日でしたわよね」

 ルナ様が微笑みを浮かべて、ブライアン様に確認される。


「丁度良い。ブライアンが見に行くのなら、良かったかどうか後で教えてくれ。それを聞いてから、俺もルナとお忍びで行くかどうか決める事にしよう」

「あら大変。責任重大ですわね、お兄様」

「……そのような責任重大な役目であれば、オペラに詳しい者が行くべきではないでしょうか。私のようなど素人の意見など、参考になるとは思えませんが」

「もし、ど素人のお前でも感動する程のオペラであれば、俺達がお忍びで見に行く価値があるとすぐに分かるじゃないか」

「そうですわね。そう言う意味では、お兄様はピッタリの人選ですわ」


 息の合ったタッグを組んで説得を仕掛けるルーカス殿下とルナ様に、反論していたブライアン様も折れたようだ。


「畏まりました、私で良ければ……。アリシア嬢、申し訳ありませんが、明後日私にお付き合いしていただけますでしょうか?」

「ええ……ええ、勿論ですわ!」


 目を輝かせてブライアン様に即答し、お二人に感謝の視線を向けると、ルーカス殿下は満足気に、ルナ様は苦笑しながら微笑んでくださったのだった。

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