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5.協力関係

「宜しければ、アリシア様のご都合とやらを、是非お伺いしたいのですが」


 ルナ様の口調が私を問い詰めるものに変わった。私もブリアンナ様のように、私欲でルーカス殿下に近付いたとでも思われたのだろうか。

 ルナ様には絶対に敵認定されたくない私は、今まで誰にも明かしてこなかった腹の内を全て曝け出すつもりで臨んだ。


「シャーロット様が辞退なされたので、残る王太子妃候補は三人。ですがブリアンナ様は私が見る限りでは、王太子妃に相応しい方だとは思えませんの。となると、王太子妃になるべき候補者は私かルナ様の二択に絞られますわ。私の目から見ても、ルナ様は十二分に王太子妃に相応しい器をお持ちですし、ルーカス殿下もルナ様を気に入られているようですので、後はルナ様にそのお気持ちがあるのならば、私は是非、ルナ様に王太子妃になっていただきたいと思っておりますの」

「アリシア様は、王太子妃になりたいとは思っておられないのですか?」

「ええ。私が王太子妃候補になったのは、父の一存です。実は私、他にお慕い申し上げている殿方がおりますの」

「そうなのですか?」

 私の告白に、ルナ様は目を丸くされた。


「ええ。父の一存とは言え、私も貴族令嬢ですから、他に誰も相応しい方がいらっしゃらないようであれば、私が王太子妃になるのも止む無しと思っておりました。ですが、この三週間程、一緒に試験を受けさせていただいて、ルナ様こそ王太子妃になるべきお方だと確信致しましたの。ですから私、勝手ながら、ルナ様が王太子妃になられるよう、全力で協力させていただきますわ。そして無事にルナ様が王太子妃になられた暁には、今度はルナ様に、私の恋が成就するよう、お力添えをお願いしたいのです」


 とは言っても、正直ルナ様が王太子妃に決定するのは時間の問題で、私の助力があろうとなかろうと関係ないだろう。この申し出をルナ様が受けてくれるかどうかは、正直賭けだ。固唾を呑んで見守っていると、戸惑った様子のルナ様が口を開いた。


「……私にご協力いただけるのは嬉しい限りなのですが、アリシア様の恋路につきましては、私如きがお役に立てるかどうか分からないのですが……。アリシア様に想いを寄せられている、その幸運な殿方はどなたですの?」


(良かった!)

 どうやらルナ様は私に協力してくださる気はあるようだ。嬉しくてはにかみながら打ち明ける。


「貴女のお兄様であり、次期ゴードン伯爵でもある、ブライアン・ゴードン第一騎士団長ですわ」

「お兄様ですか!?」

 予想外だったのか、ルナ様が分かりやすく驚かれた。


「ええ。通常ならばいくらブライアン様が次期伯爵になられるとは言え、モラレス公爵家の娘の嫁ぎ先としては見劣りがして相応しくないと、プライドだけは無駄に高い父は認めてくれないでしょう。ですが、ゴードン伯爵家から王太子妃が出れば話は別ですわ。父の理想は私を王太子妃にして、王家と直接縁を結ぶ事ですが、それが叶わなかった場合、多少縁が遠くなろうとも、私とブライアン様の婚姻が、王族と縁続きになれる手段になるとあらば、きっと父は婚姻を認めざるを得なくなる筈。後はブライアン様のお心を射止める為に、妹であるルナ様に是非ご助力いただきたいのですが……、どうかお願いできないでしょうか?」


 両手を胸の前で組んで懇願し、ルナ様の答えを祈るように待つ。果たして私は、身内に紹介しても良いと思っていただける程度には、ルナ様のお眼鏡に適っているのだろうか。


「……ご事情は分かりましたが、アリシア様は、兄の何処が良いのですか?」

 その質問に、私は思わず食いついてしまった。


「筋肉ですわ!!」

(ブライアン様の良い所なんて、一日中でも語っていられる!)


「誰よりも鍛え抜かれたあのお身体は、眼福そのものですわ! ブライアン様の逞しくてぶ厚い胸板に頬を押し付けながら、あのがっしりした太い腕で優しく包み込んでいただけたら、さぞかし幸せな一時を過ごせるに違いありません! 自分に厳しく、日夜鍛練に明け暮れているお方ですから、お年を召されてもきっとお父様であるゴードン伯爵のように、筋骨隆々な素晴らしい体型を保たれ続けるに決まっていますわ! 理想的な筋肉の付いたブライアン様のあのお身体で、毎日抱き締めていただけたなら……ああ、考えただけで幸せですわー!! やはり私は、ヒョロヒョロとした体型の殿方よりも、分厚い筋肉を鎧のように身に纏った殿方の方が、魅力的だと思いますの! いざという時に絶対に守ってもらえそうな安心感があると思いません? ルナ様もそう思われるでしょう!?」

「え、え……?」

「ああ、ルナ様が羨ましいですわ! お父様もお兄様もあれだけご立派な筋肉をお持ちだなんて……! 私も是非、あの素晴らしい体躯をされた方々を、毎日目の保養にできる至福の生活を送ってみたいものですわ!!」

「……はぁ……」


 今まで絶対に外す事が無かった理想的な令嬢の仮面をかなぐり捨てて、私は誰にも悟らせずにきた素の自分をここぞとばかりに曝け出した。気付いた時には小一時間程、ほぼ筋肉の話ばかりしてしまっていた為、最後の方は筋肉だけでなく、ブライアン様のお人柄にも惹かれた事をちゃんとアピールしておいた。

 それが功を奏したのかどうかは分からないが、私の熱量に呆気に取られた様子だったルナ様は、その後、協力してくださると約束してくださり、私は想い人の妹と言う、強力な味方を手に入れたのだった。

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