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2.心からの応援

 王宮のパーティーから、約一ヶ月後。私は、王太子妃選抜試験に参加する為に登城していた。


(全く……。人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られてしまえば良いのだわ)


 パーティーでの劇的なルーカス殿下のプロポーズ。だけど、それに反対する者達が、アーサー・ヴァイスロイヤル国王陛下に奏上したのである。王太子殿下の正妃には、もっと相応しいご令嬢がいらっしゃるのではないかと。

 確かに、ゴードン伯爵家は優秀な武官を何人も輩出している名門貴族ではあるが、ルナ様ご自身はゴードン伯爵の養女で元平民だ。ヴァイスロイヤル国では身分云々よりも恋愛結婚の方が持て囃されているのが実情で、過去にも国王陛下が下位貴族や平民出身の娘を、高位貴族の養女にして娶った前例もあるとは言え、まだ身分や血統を気にする頭のお固い貴族達も、一部根強く残っている。そしてその中には便乗して、自分の娘を王太子妃にしようと目論む不届き者が混ざっているのだ。私の父のように。

 一部国の重鎮達も混ざる反対派の訴えを、国王陛下は無視できなかったのだろうか。ルナ様と年頃の高位貴族の令嬢を含む、王太子妃選抜試験が開催される事になったのだ。ああもう全く以て面倒臭い。


(とは言え、王太子妃……行く行くはこの国の王妃となられる方が、その地位に相応しくない方では困るものね)


 いくらルーカス殿下が望まれても、ルナ様がその器でなければ、私とて貴族として反対する義務はあるし、公爵令嬢であるからにはルーカス殿下に嫁がなければならない場合も有り得ると理解している。この試験期間内で、私はルナ様のお人柄を見定めようと考えていた。


 王宮の一室に集められた私達は、これから約一ヶ月に渡る試験の簡単な説明を受け、そのまま顔合わせを兼ねたお茶会に参加する事になった。


「アリシア・モラレスと申します。皆様、どうぞ宜しくお願い致します」

 この中では唯一の公爵令嬢である私から挨拶が始まった。


 青色の髪と目を持つブリアンナ・ランドール侯爵令嬢は、浮かべた微笑みからその勝気さが窺い知れる。シャーロット・ノリス侯爵令嬢は、プラチナブロンドの髪に茶色の目をした、小動物のような可愛らしいご令嬢だ。緊張されているのか、自己紹介も少しつっかえておられた。

 そして肝心のルナ・ゴードン伯爵令嬢。黒髪黒目の彼女は、落ち着いた淑女の微笑みを浮かべられているが、その表情が完璧すぎて底が見えない。だけどそれは、王太子妃として必要不可欠な要素だ。流石だと私は口角を上げた。

 早々に口を開いたのは、ブリアンナ様だった。


「早速ですが、ルナ様がゴードン伯爵の養女になられた経緯について、是非お伺いしたいですわ」


 ブリアンナ様は淑女らしくにこやかに微笑んではいるが、ルナ様を見る目は全く笑っていなかった。その声色からも、ルナ様を嘲笑しようとする気配が見え隠れしている。

 さて、ルナ様はどうされるのか。


「私が十歳の時に、偶々ゴードン伯爵とお会いしたのですが、その時の環境があまりにも酷く、同情のあまり引き取っていただける事になったのです」

 ルナ様は微笑みを保ったまま淡々と述べる。


「まあ! それまではどのような環境でお育ちになられていたんですの? とても興味がありますわぁ」

「とてもこのような場でお話しできるような環境ではありませんわ。ご気分を悪くされるだけかと」

 顔色一つ変えないルナ様の返答に、ブリアンナ様の眉間に皺が寄った。


 見事だ。王太子妃となる者なら、これくらいの悪意はさらりとあしらえなければ話にならない。簡単に予測できる事態ではあるものの、全く隙を見せないルナ様の完璧な対応に、私は感心した。


「ルナ様は大変な思いをされてきたのですね。ゴードン伯爵家の皆様とは、仲良くされておられるのですか?」


 このまま口を挟まずに、ルナ様を観察し続けていても良かったのだが、ルナ様に好感を抱いた私は、さり気なく話題を変える事にした。たとえ血は繋がっていなくても、想い人の妹君なのだ。あまり悪意に晒し続けたくはない。


「はい。父も母も兄も、私を本当の家族のように思ってくださっていて、勿体無いくらいですわ」

「そうですの。それは何よりですわ」

(流石ブライアン様! 血の繋がりが無くとも、ルナ様を可愛がっておられるのですね!)


 先日のパーティーで、ルナ様を丁寧にエスコートされていたブライアン様を思い出しながら、私はルナ様に微笑んだ。私は敵ではありませんよ、という思いを込めて。


「ゴードン伯爵家は、優秀な武官を何人も輩出している名門伯爵家。ご当主の騎士団総帥、オースティン様は勿論の事、ご嫡男のブライアン様も、若くして騎士団長を務めていらっしゃる、ご立派な方々ばかりですわね。最近もルーカス殿下と共に大きな事件を解決されて、王宮でのその地位は侯爵にも匹敵すると囁かれていますわ」


 ブライアン様について少しでも語りたい、あわよくば情報を得たいと言う邪な気持ちを抱きながら、ゴードン伯爵家を持ち上げる。因みに噂で聞いただけだが、ここ一年ブライアン様が夜会どころでは無かったのは、その事件のせいらしい。腹が立つが、一件落着したのなら何よりだ。


「そのように言っていただけるなんて、畏れ多い事ですわ」

 私に敵意は無いと分かっていただけたのか、ルナ様はにこやかに返答してくださる。


「モラレス公爵家も、外交の要と国王陛下から頼りにされておられますわね。ヴァイスロイヤル国の交易を担う港を領地に多数お持ちの名門公爵家は、代々優れた外交官を輩出しておられて、アリシア様ご自身も、数ヶ国語を勉強されておられるとか」

「まあ。良くご存知ですのね。嬉しい限りですわ」


 ルナ様に褒めていただいて、私は思わず笑みを浮かべた。モラレス公爵家の事は勿論、私の事まで良くご存知だとは。もしかしたら、ブライアン様も私の事を、名前くらいは存じていただけていないかしら……なんて事を思ってしまった。

 その間に、ルナ様はこれまでずっと緊張した様子で無口でおられたシャーロット様に話し掛けている。ノリス侯爵領の事も良くご存知で、領地の事を褒められてシャーロット様は可愛らしくはにかんでおられた。ルナ様の気遣いに感銘を受けながら、私は決意する。


(この短時間でもこの完璧な振る舞い。ルナ様は間違いなく王太子妃に相応しい器をお持ちの方だわ。私はルナ様とルーカス殿下の恋路を、心から応援しよう!)

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