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13.父との対峙

「……どう言う事ですの? お父様……?」


 呆然としながらも、何とかその質問だけは絞り出したのだが、詳しくは夕食の席で改めて話すとの事で、父は自室に引き上げてしまった。


 一旦自室に引き下がった私は、後悔に苛まれていた。

 何故、さっさと想い人がいる事を父に打ち明けておかなかったのか。私を王太子妃にしたがっていた父の望みが潰えた時点で、私が父に話をしていれば、きっとこんな事にはならなかっただろう。長年の夢が叶わなかった父がショックから立ち直るまでには暫く時間を要するだろうと勝手に思い込み、追い打ちになってしまいかねない父への根回しよりも、ブライアン様を振り向かせる方を優先してしまった私のミスだ。まさかこの短期間の出張中に、隣国の王子との縁談を纏めてくるとは思わなかった。


(漸くブライアン様が振り向いてくださったというのに、冗談じゃないわ! 何としてでもお父様を説得して、縁談を白紙に戻してもらわなくては!)


 並々ならぬ決意を胸に夕食の席に臨んだ私に、父は嬉々として詳細を語った。

 曰く、出張時に開催された夜会でゴールディー王国の国王陛下に私を売り込み、『そこまで言うのなら一度連れて来ると良い』と言うお答えを引き出したのだとか。


(つまり、縁談と言ってもまだ本当に話だけの段階で、正式なものではないと言う事ね? 良かった……)

 胸を撫で下ろしつつも、余計な事を、と父を睨まずにはいられない。


「お父様、折角ですが、そのお話はどうかお断りしてくださいませ」

 父に懇願すると共に、ゴードン伯爵の手紙を取り出し、父に渡す。


「私はゴードン伯爵家嫡男、ブライアン様をお慕いしています。ブライアン様と、是非一緒にさせてください!」

「なっ……!?」


 暫くの間、愕然とした表情で、私と手紙を見比べていた父は、やがて手紙に目を通したかと思うと、いきなりグシャグシャに丸めて床に投げ付けた。


「よりにもよって、私の積年の夢を奪った、ゴードン伯爵家だと……!?」

「お父様!!」


 乱暴に席を立った父は、追い掛ける私を無視して無言で自室に戻ってしまった。残された私は、深く溜息をつきながら、何か良い手は無いかと必死で考えていた。


 部屋に戻った私は、急いで手紙を二通書いた。夜が明けるのを待って、使用人に届けてもらう。

 一通はすぐに返事が来て、午後にゴードン伯爵とブライアン様が、急遽父を訪ねて来てくださる事になった。今日は休暇を取っている父に伝えると、渋い顔をしていたものの、たとえ急な事であっても、今を時めく名門伯爵家の訪問は流石に無視できない。

 もう一通の返事が来たのは、ゴードン伯爵とブライアン様が我が家に到着する直前だった。ギリギリで最強のカードを手に入れた私は、応接間でお二人と共に、父と対峙する事になった。

 ……こんな事態でなければ、折角の親子二代に渡る筋肉美の来訪を、心行くまで堪能していただろうに。


「モラレス公爵。この度は突然の訪問をお許しいただき、誠にありがとうございます」

「……それで、ご用件は何ですかな?」


 分かっている筈なのに、父はゴードン伯爵を睨み付けながら尋ねる。ゴードン伯爵にはそのつもりは無いのだろうが、如何せん強面でいらっしゃるので、お互い睨み合っているようにしか見えず、応接間には険悪な空気が流れている。


「本日は、アリシア嬢に結婚を申し込みたく参上致しました」

 その中でも堂々と宣言してくださるブライアン様に、私は改めて惚れ直す。


「私はアリシア嬢を愛しています。必ず幸せにして差し上げるとお約束致しますので、何卒お認めいただきたく、心よりお願い申し上げます」

「お父様、私からもお願いしますわ。私はブライアン様をお慕いしているのです!」

 ブライアン様のお言葉に内心で舞い上がりながらも、私も父に懸命に訴える。


「……アリシア。私がお前にゴールディー王国の王子殿下との縁談を持ち帰って来た事は昨日話したな。恐らくお前の相手はギルバート・ゴールディー第二王子殿下になるだろう。頭脳明晰、文武両道、眉目秀麗と名高いギルバート殿下よりも、この青二才の方が良いと言うのか?」

「当然ですわ!」

 私は即答する。


「どのような方との縁談を持って来られようと、私はブライアン様一筋ですわ! と言うかお父様、青二才と言う言葉は取り消してくださいませ! ブライアン様は第一騎士団長としてもご立派な方ですし、国王陛下やルーカス殿下からの信頼も厚いお方ですのよ!」

「む……、確かにそうだな。失礼した。だがアリシア、冷静に考えろ。隣国とは言え、王子妃になれる機会をみすみす逃してしまうのだぞ」


 尚も言い募る父に嫌気が差す。

(この前は王太子妃、今度は隣国の王子妃。お父様が私を利用して王族との繋がりを作りたいだけじゃないの!?)


「私、王子妃になど興味ありませんわ」

 ツンとそっぽを向いて言い放つと、父は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


「え? お前は小さい頃から王子様と結婚したいって言っていたじゃないか」

「ええ? そんな事言っていませんけれど?」

「えええ?」


 どう言う事だ。私が小さい頃から憧れていたのは筋肉であって、断じて王子様などでは無い。


「だってほら、小さい頃読み終わった本を持って来て、『こんな王子様みたいな人と結婚したい!』って……」


 父に言われて、私は昔の記憶を引っ張り出す。

(……あ、もしかして……)


「私が言いたかったのは、『何があっても絶対に守ってくれる強くて頼もしい』こんな王子様みたいな人と結婚したい、と言う事であって、本物の王子様と結婚したいと思った事はありませんわ」

「え、ええ……?」

 私が説明すると、父は急にがっくりと項垂れてしまった。


(もしかして、お父様がやたらと私を王太子妃にしたがっていたのは、それが原因だったの……?)


 誤解していたとは言え、今までの父の言動が全て私の為だったのならば、何だか父には悪い事をしてしまったような気になってきた。


「……お父様。ブライアン様は、私が幼い頃から憧れてきた、物語のヒーロー……それこそ私にとって王子様のような方なのです。どうか、ブライアン様との結婚を、認めていただけませんか?」

「お願い致します、モラレス公爵」

「私からも、どうかお願い致します」


 ブライアン様とゴードン伯爵も、頭を下げてくださった。そのまま、応接間を長い沈黙が支配する。


「……分かりました。不束な娘ですが、何卒宜しくお願いします」

「ありがとう、お父様!!」

「ありがとうございます、モラレス公爵!!」


 すっかり疲れ果てたような声色の父の言葉に、私は満面の笑みでお礼を言うと、ブライアン様と手を取り合って喜んだのだった。

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