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10.一緒に夜会へ

(うん、完璧だわ!)


 ブライアン様に誘われた夜会の日、私は鏡の前で最後のチェックを行っていた。

 今日のドレスはやはり赤。胸元や袖口を始めとした各所に白のフリルが施されており、派手過ぎずに清楚感が加わった上品なデザインになっている。アクセサリーは私の目と髪の色に合わせた、エメラルドに銀細工の物にした。ルビーにしようか迷ったのだけど、流石にそれは主張し過ぎて、ブライアン様に過度なプレッシャーを与えてしまうのではないかと思って止めた。その代わり、髪飾りはドレスと同じ生地の赤のリボンを使っている。


 迎えに来てくださったブライアン様は、黒に銀の刺繍が入った正装だった。もし私の髪色に合わせてくれていたのなら、これ程嬉しい事は無い。


「ア、アリシア嬢。とても良くお似合いで、凄く美しいです」

 何処か緊張した様子のブライアン様に、私もつられて緊張してきてしまった。


「ブライアン様こそ、とても素敵ですわ」

 正装姿がより筋肉を引き立てていて……と、うっかり喉元まで出掛かって、慌てて呑み込んだのは内緒だ。


 ブライアン様にエスコートしていただいて、馬車に乗り込む。ルーカス殿下とルナ様の事や、最近知った隣国の珍しい品の事等、他愛の無い話をしつつブライアン様と筋肉に見惚れていると、今日の目的地であるランドール侯爵家にあっと言う間に着いてしまった。


「本日はお招きいただきありがとうございます、ランドール侯爵」

「よ……ようこそお越しくださいました」


 二人揃ってランドール侯爵に挨拶に行くと、ランドール侯爵は歓迎の言葉を口にしながらも、口元を引き攣らせていた。その様子を目にして、私は今日の夜会の目的を悟る。おそらく同じ元王太子妃候補だったブリアンナ様のお相手を見付ける為なのだろう。


(この様子からすると、ブライアン様は、ブリアンナ様のお相手の有力候補だったのかしら?)


 有り得ない事ではない。ブライアン様は栄えある第一騎士団長で、次期ゴードン伯爵。そして間もなく王太子妃になられるルナ様の兄と言う肩書が加わっているのだ。優良物件だと目を付けられてもおかしくはない。


(こんな事なら、アクセサリーもルビーにしておけば良かったわね)


 ブライアン様は渡さない、という意思を込めて、にこやかに微笑みながらも、エスコートしてくださっているブライアン様の腕に、もう片方の手を添えて力を込めた。硬くて太くて弾力のある腕の感触は、つい撫で回したくなってしまう。

 よし、今日はランドール侯爵に諦めていただく為にも、ブライアン様のパートナーという特権を利用して、心行くまでブライアン様にくっついていようそうしよう。


 ファーストダンスは、勿論ブライアン様と踊った。ブライアン様とダンスを踊るのはこれが二回目だ。初めての時よりも少しは打ち解けているせいか、今度はあまり緊張せずにダンスを楽しむ事ができた。


「ブライアン様も、ダンスがお上手ですのね」

「身体を動かす事は好きですから」


 ブライアン様のリードも、前回のような硬さが取れて、流れるような滑らかな動きになっている。とても楽しくて、一曲がこれ程短く感じた事は無かった。


「お久し振りですね、アリシア嬢。相変わらず素晴らしいダンスでしたよ」


 曲が終わった所で話し掛けて来たのは、アイザック・ノリス侯爵令息だ。妹であるシャーロット様と同じプラチナブロンドの髪に、鳶色の目をしている。お顔も整っている上に身長も高く、次期ノリス侯爵という事もあって、女性からもとても人気のある方だ。


「今宵のドレス姿もとても素敵ですが、何よりも貴女の髪と瞳の色に合わせたその首飾りと耳飾りが、素晴らしく貴方の美しさを引き立てていますね。流石は社交界の高嶺の花だ」

「まあ、ありがとうございます。ですが少々大袈裟ですわ」

「とんでもない。貴女の美しさを褒めたたえる言葉は、これくらいでは到底足りませんよ。失礼ですがブライアン殿、暫しアリシア嬢をお借りしても?」

「……はい、構いません」

「ではアリシア嬢、貴女と踊る栄誉を是非頂きたい」

 相変わらず口上手な方だな、と私は苦笑する。


 本当はブライアン様ともっと一緒に居たかったけれども、社交を疎かにする訳には行かないし、以前からの顔見知りを、それも新しく出来た友人のお兄様を無下にする事もできない。私は淑女の微笑みを作って、アイザック様の手を取った。


「先日は、妹がお世話になりました」

 踊り始めてすぐに、アイザック様は真面目な目をして微笑まれた。


「妹は人見知りする為、あまり親しい友人がいませんでした。ですがアリシア嬢とルナ嬢が友達になってくださったとの事で、以前よりも明るくなり、不安だった社交界デビューにも前向きになったようなのです。兄として、どうしても感謝の言葉を申し上げたかったのですよ」

「そうだったんですの。それはとても良かったですわ。私の方こそ、可愛らしいお友達ができて、とても嬉しく思っておりますの」


 アイザック様は妹思いなのだな、と微笑ましく思いながら踊っていると、視界の端にブリアンナ様と踊るブライアン様が映った。今日の夜会のランドール侯爵の思惑もあって、私は不安を抱いてしまう。


(ブライアン様が、気に入られていないと良いのだけれど……)


 先程よりも長く感じられた曲が終わり、私はアイザック様と別れて、ブライアン様の元へと急いだ。ブリアンナ様に軽く頭を下げたブライアン様が、私に気付いて振り返る。

 そのお顔の色は、何故か先程よりも優れないように見えて、私はますます不安になってしまった。

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