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1.その筋肉に一目惚れ

(何て素晴らしい筋肉なのっ!!)


 その方との出会いは、私がデビュタントとして出席した王宮主催のパーティーだった。

 服の上からでも分かる、丸太のような太い腕にぶ厚い胸板、他の殿方よりも一回りも二回りも大きな体躯で、がっしりとした筋骨隆々の身体つきをされた、赤髪に琥珀色の目を持つ凛々しい青年。私はその方に……正確に言うとその方の筋肉に、一目惚れしてしまったのだ。


(こんなにも理想的な筋肉を持つ殿方がいらしたなんて……!!)

 感動に打ち震えながらも、私は冷静になるよう、自分に言い聞かせる。


「お父様、あの方はどなたですの?」


 逸る気持ちを抑えて何食わぬ顔で父に訊いた私は、その方が第一騎士団長、ブライアン・ゴードン伯爵令息である事を知ったのだった。


 ***


 私の名はアリシア・モラレス。由緒正しいモラレス公爵家の長女として生まれた私は、幼い頃から厳しい淑女教育を受けてきた。

 勉強やダンスや乗馬は勿論の事、領地に港を多数持ち、代々優れた外交官を輩出し、外交の要として名高い名門公爵家の名に恥じぬよう、女性では王族でもない限り必要としない外国語も学んできた。

 そんな勉強漬けの日々ばかり送ってきた私の唯一の趣味は、読書だった。好んで読んでいたのは、恋物語。お姫様や聖女が騎士様に守られたり、王子様に助け出されたり、勇者様に救われたりするもの等が大好きで、そして心から憧れた。何時か私も、何からも私を守ってくれるような、強くて素敵な殿方と、恋をしてみたいと。

 だけど悲しいかな。私の身の回りには、そんな男性はいなかった。先祖代々似たような体型と言う例に漏れず、父は背は高いが細身で、時折重い物を持つとぎっくり腰になってしまう。弟二人も、同年代の少年達と比べても線が細い。まあ、成長期なので将来はどうなるか分からないが……。そして使用人達も、中肉中背の者や、力持ちでもふくよかな体型の者が多く、物語に出てくる騎士様や王子様や勇者様のように、しっかりとした筋肉の鎧を身に纏った男性はいなかったのだ。


 その為だろうか? 何時の間にか私の憧ればかりが強くなり、理想だけがどんどん高くなり……。気が付いた時には、私の好みの男性は、筋骨隆々な逞しい身体を持つ男性になっていたのだった。


 ***


(はあ……。何とかして、ブライアン様とお近付きになりたいものだわ……)


 あの王宮でのパーティー以降、何とかお近付きになれる機会はないものかと、私は様々な夜会に出席していた。だがどの夜会でも、ブライアン様をお見掛けする事すらできなかった。どうやら今はお仕事がお忙しいそうで、夜会のお誘いは全てお断りされているらしい。


 父は私を王太子妃にしたがっていて、このままだと私はルーカス・ヴァイスロイヤル王太子殿下と婚約させられてしまいかねない。私よりも三歳年下のルーカス殿下は、金髪碧眼のとても美しい少年だけど、元々病弱であられた為か、体型はどちらかと言うと細身で、正直に言うとタイプではない。

 私のタイプはブライアン様のような方なのだ。そう、筋肉が素晴らしいばかりではなく、どんなにお仕事がお忙しくても、毎朝の鍛練を怠られない真面目な方で、暇さえあれば身体を鍛えておられる為に、女性との浮いた噂の一つも無く、ルーカス殿下の指導係を務められる程王族からの覚えもめでたく、部下からも慕われ周囲から一目置かれているような、文句の付けようが無いお人柄であるブライアン様のような方が……!!

 お会いできないのが悲しくて、せめて情報だけでもと、夜会でそれと無く聞き込みを重ねた結果、新たなブライアン様の一面を知っていく度に、私はどんどんと想いを募らせ続け、何時しかすっかりブライアン様をお慕いするようになってしまったのである。

 誰だ、ストーカーとか呟いたのは。


 そんな風に少々拗らせ気味になっていた私に、転機が訪れた。あの出会いから丁度丸一年が経った、同じ王宮主催のパーティーで、漸く私はブライアン様を再びお見掛けできたのである。


(あああああっ!! 何て素晴らしいのっ!!)


 この日、ブライアン様はお父君の騎士団総帥、オースティン・ゴードン伯爵と共に、デビュタントである妹君、ルナ・ゴードン伯爵令嬢を守るようにしてエスコートされていた。

 ゴードン伯爵もブライアン様に負けず劣らずのご立派な体躯をお持ちなのだ。隻眼の強面であられる為、お顔を拝見するだけで怯えられるご令嬢もいらっしゃるが、私にとっては眼福でしかない。


(ブライアン様も相変わらず素敵だわ……!! ああ、ルナ様が羨ましい……!! ヴァイスロイヤル国でも一二を争う筋肉美を誇るお二人にエスコートされているだなんて、もし可能なら私と代わっていただきたいものだわ……!!)


 勿論、内心を表情に出さないよう取り繕うのは、長年の淑女教育のお蔭で朝飯前である。これでも私は、白銀の髪に緑の目の華やかな顔立ちで、家柄と合わさって、社交界でも高嶺の花と噂されているくらいなのだ。きちんと猫を被って、内面を誰にも悟られていない証拠である。

 ……まあ、そのせいで、ルーカス殿下の婚約者候補の筆頭に挙げられてしまっているのだが……。


 そしてこのパーティーで、事件が起こった。


「ルナ・ゴードン伯爵令嬢! どうか、俺と結婚してくれませんか!?」


 ルーカス殿下がルナ様に求婚された事をきっかけに、私の運命が大きく変わる事になったのだ。

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