第九話 人助けしたけど
少々遅くなりましたが、第九話の投稿です。
お店というか、
魔法師団の本部から出てくると、
入るまでとあまり変わらない空が広がっていた。
「レストさんの結界魔法って、時間も遮断していた?!」
出てきて驚いておもわず呟いてしまったけど、
外と内とで時間差があるなんて思わなかったわけだし。
まあ周りにいた人からは、「?」って顔で見られていたけども。
「さて、時間は分からないし。商店が並んでいる方に戻ってみるか。」
と商店が立ち並ぶ方へ、元々来た方向へ足を向ける。
「さすがに交易の交わる点の街だから大きいよな。てか、広い。」
さきほどまで見ていたお店が並ぶ通りとは違うところを通って見る。
茶葉や果物が並ぶお店があったりと、
先ほどの通りとは違い、彩に富んでいる。
お店を見て歩く中で、
紅茶ぽい茶葉を数種類と何店舗かで購入し、ほかの店でもイチゴジャムっぽいものを購入した。
「意外と前世界と変わらないものって手に入るんだな。」
そう言いながら中央の交差点にある噴水広場に到達した。
広場自体も相当大きなサイズ感あるけども、広場の広さは、えらく広い。
普通に荷馬車がすれ違い出来るし、混乱が起きることもない。
「こりゃ、凄いわ。」
見渡しながらついついつぶやく。
人の流れも多く、噴水近くでたむろう人もいれば、
あわただしく走り回る人も見られる。
そんな人の往来を眺めながら、作ってもらったビスケットとジャムをほおばっていると、
「きゃああああああ」
噴水近くで悲鳴が上がる。
何事かと走ってその声がする方へ駆け寄ってみる。
悲鳴が上がったあたりには人だかりができ、
「ありゃ、やべぇだろ」「命に関わるんじゃねの」「いや、もう助からないんじゃないか。」
という声がささやかれている。
そんな声を聴きつつ、人ごみをかき分けるように輪の中心へ入っていく。
輪の中心では、荷馬車の小麦粉の袋が荷崩れして、大量に崩れ落ちている。
そしてその崩れ落ちた小麦袋の山から人の手が見える。
荷馬車の脇では、荷主なのか男性があわあわしている。
またわずかに見える手の方へ一生懸命声を掛けているメイド服の女性もいる。
「お嬢様、返事してください。お嬢様。」
メイドは必死に声を掛けているが、その手の持ち主からは返事は聞こえてこない。
そんな中で周りにいる冒険者みたいな人や衛兵たちが総出で、崩れ落ちた小麦袋を撤去し救出作業へと力を振るっている。
「僕も手伝います。」
そういい、自分自身に身体強化魔法をかけて
救出作業に合流する。
小麦袋はかなり大きく、重さがある。
冒険者や衛兵に交じり、撤去作業に集中していると、
手以外の体が見えてくる。
気合を入れ直し、次々と小麦袋を撤去していく。
すると、
「坊主、すげーな。」
近くにいた冒険者らしき男が声を掛けてくる。
しばらく撤去作業をしていると、小麦袋に埋まっていた人が見えてくる。
なので撤去作業でなく、自分は治癒作業に入ろうと思い、すぐに
「治癒魔法使います!そばに行きますね!」
と周りの冒険者や衛兵に告げる。
小麦袋に埋まっていたのは、自分と同じくらいの女子だった。
近くに駆け寄り、呼吸の確認をする。
「うん、かすかにだけど呼吸はある。でも急いだほうがいいな。」
呼吸の確認をしつつ、首に指をあてて脈の確認を行う。
「うーん、微弱だな。見た通り重傷yだろう。よし、診断から行こう。」
そう呟いてから、魔法を唱える。
『エコー(超音波診断)』
超音波診断をイメージした魔法をかけて、腹部の方から診断していく。
「うわぁ、臓器も骨もめちゃめちゃじゃん、まあこれだけの重量が一気にかかればな。」
そう見えた診断結果と同時に、
「よし、まずは血管の出血から止めていこう。」
『オペレーション(修復治癒)』
心臓や肺や肝臓につながる太い血管から、
血管を薄い膜で覆うイメージで修復治療魔法をかけて治療していく。
続いて、肺や心臓はダメージが少ないので、
『エコー(超音波診断)』で観察しつつ、
肝臓や腎臓の修復治療へと行く。
元の臓器のイメージをしながら、
修復治療魔法でダメージのあった部分を
修復治療を進めていく。
同時に修復治療の終わったところから血流を流していく。
特に頭への血流をしっかり行う。
頭がやられたら、命が助かってもその後は絶望的な結果しかない。
順次、ダメージが深刻だった臓器から元の臓器のイメージで修復治療を施していき、
生命維持に必要な心臓と肺へ修復治癒をシフトしていく。
そんなこんなで、内臓修復治療を済ませて、全身の血流を確認していく。
出血箇所も見られないので、骨折箇所を修復治癒していく。
「よし、あとは普通の治癒魔法と安静でいける。」
そう呟き、普通の治癒魔法に魔法を切り替えて、
首筋に指先あてて、脈の確認と呼吸の確認をする。
「うん。呼吸も脈も安定してきてる。ちょっと血色悪いけど、安静と食事で回復するだろう。」
見るからに、始めと今では容態も安定している。
もう大丈夫だなと思い魔法を解いて、顔を上げると周りにいる大人たちが唖然と眺めている。
そんな一部から、
「いったい何してたんだかさっぱり分からないけど、助かったことは分かる。」
「いや、謎すぎるだろ。あんなんなったら、普通はあきらめるレベルだろ。」
「助かったからいいという問題じゃないけども、とりあえずよかったな。」
とささやく声がする、聞こえてるんだよな。
唖然とする大人の中で、多分この女子の付き人であろうメイドさんへ、
「一応、深刻なダメージを受けたところは、治癒しました。」
と伝える。そして
「ただこれだけの事故で、即死レベルのけがを負っていたので、しっかりと安静休養させてください。」
と続けて説明する。
するとメイドは唖然としながらも頷き、「あ、ありがとうございます」と一言返事を返してきた。
その様子を見て、大丈夫だろうと思い、その場を立ち去ろうとすると、
「ちょっと待ちたまえ。こっち来てくれるかな。」
と衛兵から声を掛けられる。
なんかまずいことしたっけ。
ただ治癒というか救命しただけなんだけど。
まあ、逆らうと面倒くさい気がするし、
おとなしく従うかな。
「はぁ、わかりました。」
と、衛兵のほうへと歩いていく。
衛兵がいるところまで近づくと、
「そこの衛所まで同行してくれるかな。」
と衛兵の一人が言ってきた。
ここまで来て断るあれもないので、
おとなしく衛兵とともに衛所へ向かう。
広場の隅に衛所が見えてきた。
そのまま衛兵について行き、衛所の中へ入っていく。
衛所の中は、まあ交番です。
そんな交番みたいな衛所の椅子に腰かけると、
「すまぬな。一応、身分証の提示をしてくれるか。」
二人いた衛兵のうち、年齢が上そうな人が声を掛けてくる。
「その着衣であれば、疑う必要はないんだが、あの魔法を見せてもらうと、一応確認だけでもしておかないと、こっちとしても今後の対応や報告が難しいのでな。申し訳ない。」
確かに今着ている服自体は、マリアード子爵が用意してくれた平服である。
平服といっても、貴族用のではあるので、要所要所での縫製や布地がいいものになっている。
衛兵ともなれば、貴族が使用する服飾の素材を一目で見抜け判別できなくては、
万が一の時に大ごととなってしまう。
「わかりました。身分証です。」
素直に身分証を提示する。
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【名前】ダイ=フォン=ウィラー 【年齢】9歳 【性別】男
【種族】人間族 【レベル】Lv14
【称号】男爵 特異治癒魔術師 【出生】アース出生 亥月15日
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うん、いつの間にやらレベルが上がっているのはどういうことだろうか。
さっきの救命活動での魔法行使が、関係してそうだけど。
もう一つ、いつのまにやら男爵位が付与されてるけど、どういうことだ。
男爵位があるということは、これ当主になってるよな。
そんなことを思っていると、
「お手数をおかけしました、ウィラー男爵。また、この度は民を守る活動へ自ら参加いただき、感謝を述べさせていただきます。」
と身分証を返されつつ、頭を下げられた。
正直なところ、貴族位がある世界なんてよくわからないし、まだ理解が進まないんだけど
さっきの渡された本の中に、貴族位や貴族社会やらのことも書いてあった。
まあ、内容なんて碌に読んでないけど。
そういったなかで考えれば、多分貴族当主が直接、事件や出来事に関わることは普通にない。
周りにいるお付きのものや、私兵などに命令して行わせるのが、一般的なのであろう。
そういった点で、今回の自分がとった行動は、衛兵から頭を下げられ、
謝辞を述べられる事態ということだ。
人として、人を助けることに上も下もないと思うんだけど。
そう思っても口には出さず、
「いえいえ、たまたま通りかかって、目撃したら身体が動いちゃったんで。」
率直に思ったことを口にする。
それにまだ今世界では9歳の子供でもある、当主とはいえ。
前世界で20歳以上は年を食ったていたとはいえ、そこらへんは考えた。
「お手数をお取らせいたしました。」
そう衛兵に言われて、衛所を出ていくと
先ほどのメイドさんが立って待っていた。
「先ほどはありがとうございました。おかげさまでお嬢様が救われました。」
そうメイドさんは言い、深々と頭を下げる。
「気にしないでください。たまたま通りかかって、目撃したら身体が動いちゃっただけのことですから。」
そうメイドさんへ伝えて、その場を去ろうとする。
すると、
「お待ちくださいませ。何かお礼をさせていただきたく。」
とメイドさんが去ろうとする自分を留めようとする。
いや、お嬢様って言ってたし、さっき思ったんだけど、
あの助けた女の子もそれなりの服を着ていた。というか、自分のより上等なものだった。
と考えれば、多分遺族でも上の方、そのお嬢様だとなんか起こりそうな気がする。
予感と想像力からの警報がビンビン言っている。なので、
「お礼とかも大丈夫ですので、気になさらず。あの、お嬢様にはしっかりと療養と栄養補給をさせてください。あれだけのダメージを負われていますし、治癒でも残っていた無傷の細胞や組織を使わせていただいているので。」
と予後についてもしっかりとメイドさんに伝えて、その場を急いで去った。