第六話 魔法と魔力
ビスケットとクッキーを手に入れたので、
本当の目的のものを探しに戻る。
「本屋みたいのはあるかな。」
前世界から来て、そっちの記憶や知識は十二分にある。
さっきのビスケットもそうだし、一応現ステータスが特筆されるものであることも理解できる。
生活といった名での経験値はそこそこある。まあ、最後の方なんかは健全とは言えないけども。
しかし、今世界となりそれまでの知識や経験値、記憶が当てにならない。
つまり今世界の情報が圧倒的に足りないわけだ。
ましてや魔力や魔法については皆無なわけである。
そこで、魔法書なのか魔導書なのか分からないけども、
本を手に入れて知識を手に入れておきたい。
ほかにも歴史書とか物語とかも読んでおきたいところだ。
「おっ。古本屋かな。」
露店の店先で並んでいる本を手に取ってみる。
”魔法の入門”
”魔力の基礎知識”
”魔法の便利な使い方”
”街ガイド・ガイドの街編”
”食べ歩き。ガイドの街の美味しいお店”
”初級魔法の選び方”
”人によって違う魔力の使い方・10の方法”
なんだか前世界のコンビニで売っていそうなタイトルだな。
そんなことを思いながら、
魔法や魔力に関する本をパラパラと流し読みしてみる。
意外なところだけども、一応、書いてあることも読めている。
そういえば、今更な気もするけども会話も問題なく出来ている。
どういうことなのかは、さっぱり分からない。
文化も世界も違うわけだから、言語が違うはず。
そんな疑問も持ちつつ、他の本屋にも行ってみる。
ちなみに今流し読みしていた本の内容的には、
やっぱり前世界で売っていたコンビニのムック本程度の内容。
”魔力は血液と同じで体内を巡回している。”
”魔力を使うことで、魔法が使える”
”魔力が切れると走って息切れしたみたく疲れる”
”魔法は便利、掃除にも調理にも有効活用”
”生活魔法から、魔法生活を始めよう”
確かに、今の情報が少ない自分としては有効な内容ではあったけども、
それ以上にこの異常なまでのステータスを使いこなせる情報が必要。
とりあえず魔力と魔法の入門的なやつの2冊だけは購入して、次のお店へ。
魔力も魔法も使い方は分からないし、導入的な意味では必要だと思ったしね。
そんなこんなで、ちらりちらりと古本が並ぶ露店を見て歩く。
目に留まるものが置いてありそうな露店では足を止めて、
本を手に取り、パラパラと流し読みをしていく。
”生活魔法全集”
”治癒魔法の心構え”
”魔力増幅のすすめ”
”オリンピア・街ガイド”
4つほど露店で、本を買い、露店のおばちゃんに教わった街一番の本屋に向かう。
「おばちゃん曰く、図書館クラスらしいけど。」
おばちゃんがくれた手書きの地図と話を頼りに、通りを歩いていく。
ていうか、本屋めぐり始めたころから何か視線というか気配を感じる。
何かを仕掛けてくるとか悪意的なものは感じないから、多分監視みたいなものかな。
「まあ、気にしても仕方がないか。今の立場というか身分考えれば。」
そんなこと思い、呟きながら、目的のお店へ向かっていく。
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「おいおい、気づくのかよ。」
冷や汗をかきつつ、物陰に隠れる。
「本当に9歳なのか?普通は気づかないだろ。」
ロメダは呟く。
子爵は、トラブル防止と行動監視として密偵をダイに張り付かせている。
なかでもラインの直属のロメダは随一の能力がある。
そんなロメダでもかなり苦労して追跡し、監視していた。
「本当に気が抜けないわ。」
物陰で水を飲みつつ、ダイの様子を伺う。
「本を買って歩いているということは、知識が欲しいっといったところか。」
ロメダは本屋巡りをするダイを、物陰から伺いつつ観察する。
「大事なのは、知識を得て何をしたいのか。何を知りたいのかってことだけども。」
と手元のメモを見つつ、呟く。
メモにはダイが購入した本のタイトルが書いてある。
まあ当たり前だけども、ガイドの街の中のことなので、すぐに情報を手に入れられる。
「魔法や魔力の本が中心だな。どういうことだ?」
何も知らない、分からないロメダには疑問であった。
ロメダからすれば、ダイのステータスであればそんな初歩の段階なんて必要はない。
むしろ上級魔導書や魔力強化書といった高レベルな専門書が必要なのではないだろうかと思う。
しかし買っているのは、入門編や初級編の本ばかり。
「まああそこの本屋に行くってことは、そこらへんも買うんだろう。」
いろいろ疑問点もあるけど、ロメダは自分なりに結論出して納得した。
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「クソガキが来る店じゃねぇぞ。」
「誰がクソガキだ。客に対する態度か、じじぃ。」
「誰がじじぃだ、これでもまだ30だぞ。」
「若さに嫉妬してるのは、じじぃの証拠だろ。」
さっきからクソガキ扱いする店のじじぃと口論を続けている。
このじじぃ、店に入るなりクソガキ呼ばわりしてきた。
まあ確かに見てくれを考えれば、9歳のガキだがな。
中身は23歳なわけで、大人げなくも口撃をしてしまった。
やったら仕方がない、向こうが折れるまで続けるまでだ。
「それにその見てくれで、30ないわ。サバ読みすぎだろ。」
「あんだと、このガキ。」
よし、乗ってきたな。
「こんな程度の言われようで、怒ってる時点でそっちの方がガキだろ。」
「言わせておけば、このクソガキがぁ。」
そろそろかな。
頃合いを見て、さっきまでの露店で立ち読みと流し読みしてきた中で、
考えていた方法を試してみる。
『ウィンド・ガード』
「お、なんだこれ。おい、クソガキ。何をしやがる。」
成功みたいだな、くそじじぃが風の壁に阻まれてこっちへ出て来れないでいる。
初級魔法を組み合わせれば、それなりの効果を生むことができる。
「魔法書を大量に扱う店の店員だろ。これくらいクソガキに聞かないでも考えてみろよ。」
これ自体、初級魔法の組み合わせ。
風を起こす「ウィンド」と、転んだり倒れた時に守るだけの「ガード」を
組み合わせて唱えただけの複合魔法。
「クソガキ、まだ喧嘩売るのか。覚悟しておけよ。」
このくそじじぃ、力業で「ウィンド・ガード」と突破してこようとする。
そこは魔法書の店員なんだから、魔法で破ってくるんじゃないのかよ。
「おいおい、じゃあもういっちょ行ってみますか。」
『ウィンド・エア・ガード』
まあ見た通り、風のガードに空気の壁を追加した。
これ店探している間、町の中の小動物、まあ猫やネズミに使ってみた。
「ウィンド・ガード」単体より驚くくらいに動きを阻害出来た。
本曰く、「エア」は空気の薄いところとか水の中で呼吸するための魔法。
空気の層や空間を作る魔法らしいので、それを応用した形だ。
やっぱりじじぃは力任せに突破しようとするけども難しいらしく、
「このクソガキ、お前は本棚の支えにしてやる。覚悟しろ。」
と怒鳴っている。というのは、音も声も遮断するので、怒鳴らないと相手に聞こえない。
「突破出来てから、言え。くそじじぃ。」
向こう側へそう怒鳴る。向こう側では、じじぃが顔を真っ赤にして何か言っている。
「そこまでにしな、ラスト。あとそこの坊ちゃんも魔法を解いてくれるかい。」
そんなこんなを続けていたら、声が普通に聞こえてきた。
その声に従い、魔法を解く。
「まったくラスト、お前は普通に店番もできないのかね。」
階段を下りながら、くそじじぃことラストへ声をかける妙齢の女性が下りてくる。
「すまないね、坊ちゃん。こいつがアホなもんで。」
そういいながら、ラストをいつのまにか縛り上げて、口も塞いでいた。
それに対して、モゴモゴとラストは何か言いたげに口を動かすが、
しっかりと口はふさがれているみたいだし、手も縛られているので、
外すこともできない状況。
「ラストは、黙ってな。じゃああっち行ってな。」
と手を振ると、店の奥の方へ飛んでいく。
いやー、すげーわ。ここまで無詠唱で、簡単に魔法を使いこなしているとは。
こりゃ、手に入れたい魔法書なり魔導書なり手に入りそうだ。
そんなことを思っていると、
「坊ちゃんだった、無詠唱だろ。それも複合魔法とはね。」
妙齢の女性は苦笑を浮かべつつ、話しかけてくる。
「さて坊ちゃんは何をお望みだい。」
何をお望みかと言われれば、この先の生活全てである。
現状はなんとなくでやり過ごしている感じではあるが、
そろそろボロが出てきそうでもある。
また魔法や魔力についてもしっかりと知りたいし、学びたい。
治癒魔法特化でもあるけど、攻撃魔法もできるのであれば
自分の身を守るためにも、必要である。
「ほうほう。まあ深く詮索はしないけども、必要そうなものを用意しよう。」
そう妙齢の女性は言い、本棚へと歩いていく。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。私は、レストだよ。さっきのは弟のラストだ。」
どうやら姉弟だったようだ。正反対というか、とてつもなく賢姉愚弟だな。
「言い得て妙だな。確かにその通りだ。」
レストさんが笑いながら言う。
うん、やっぱり考えていることが顔に出ているようようだ。
「いや、それもだけど、魔力もそういう波長が出てる。」
ん?魔力の波長?そんな疑問を浮かべていると、
「さてそこら辺も含めて、説明とレクチャーしよう。」
とレストさんが本を数冊持ってきて、目の前に置く。
「まずは聞こうか、君は何者だい。どういった事情で、そうなったのかな。」
さて、どこまで話していいものか。全て話したところで信じてもらえるのか。
話すことで、トラブルとなりうる可能性は高い。
ステータスについても然りだ。これ自体もかなり信じられるものではないし、
特異なステータスやスキルな訳だ。
「気にしなくていい。外にいた監視者と言うか観察者には見聞きできないようにしてある。」
やっぱり誰か、付いてきて観察というか監視していたんだな。
まあラインさんの発言から誰かしらいるとは思ったけども。
しかし、その後の発言は予想以外でもあった。
「ついでに言ってしまえば、王都から調査を依頼されてもいる。」