第五話 やっぱり世界が違う
「賑やかな街だなぁ」
露店やお店が立ち並ぶエリアを散策している。
名産品の小麦を加工した小麦粉やそれを加工した食品やお菓子を販売するお店が多く、
それらのお店や露店からは、美味しそうな食欲をそそる匂いが漂ってくる。
「見たことがある感じの食べ物はあるけど。」
麺類やパン、クッキー、ビスケットみたいなものは見えるから
なんとなくで、味や風味やらは想像できる。
「だが、記憶にある色や形となんか違う。」
記憶にあるクッキーやビスケットって、
片手で手軽に食べられたり、非常食的に持ち歩けるサイズ感だったはず。
が、この世界のはサイズがでかい。普通に顔のサイズくらいある。
さらに色も知っている色味でなく、青や赤が主張する色合いである。
「オレンジ色とか赤色っていうのはまだしも、青色っていうのは。」
果物にありそうな色味や色合いならば、想像も可能なんだが、
青とかになると、どういった方法で色付けしていて、味は果たして。となってしまう。
「そこの坊ちゃん、どうだい一つ。」
そんなことを考えながら、散策していると露店から声がかけられる。
「ねえ、これってこのサイズしかないの?」
呼びかけられた露店に近づき、
商品と思われるクッキーぽいものを指さして聞いてみる。
見てきたほかの露店やお店と違って、
見た目は普通の見た目で、知っているクッキーやビスケットが並んでいる。
まあ、サイズはデカいので、もし知っているサイズ感のがあったら、
非常食的なもので、買おうかと思ったのだ。
「いや、これが普通だろ。」
そんな質問に露店のおっちゃんがそう返す。
「そうなんだ。田舎から出てきたから、これが普通って知らなかったんだ。」
変な疑いを持たれる前に、そう返事をする。
「坊ちゃんの田舎じゃあ、もっと小さいのかい?」
露店のおっちゃんは興味があるのか、聞いてくる。
違和感が出ない程度に、
ビスケットとクッキーを小さいサイズで作ると
携行食や非常食としてもって歩けるし、小腹を満たすにもちょうどいい。
この大きいサイズだと、その場で食べるにはいいかもだけど、
持ち歩くという点では、不便である。
そんな話とサイズ感を身振り手振りで説明する。
「ほうほう。確かにそのサイズ感だと持ち歩くにはいいな。」
おっちゃんは話を聞いて、
「ちょっと待ってろ。試作品作ってみるから。」
といい、露店の下の方から生地を出し始める。
手際の良い感じで生地を身分証サイズで切り出して、
露店の下の部分にオーブンがあるのか、そこへ入れていく。
前世界と違うのか、オーブンに入れるとすぐに焼きあがる。
焼きあがったのを見ると、試作品だからもあるが、少し角ばった感じであるけど
自分が見慣れたサイズのビスケットが出来上がった。
「坊ちゃん、どうだい?サイズはこんなもんか?」
焼きあがったビスケットを差し出しながら、
露店のおっちゃんが聞いてくる。
見慣れたサイズ感のビスケットだな。
少し角ばった感じだけど、このサイズならば
持ち歩きにはちょうどよさそうなサイズだ。
「いい感じですね、これなら持ち歩きに最適ですね。」
「まあ、試作品だからな。改良は必要だが。」
露店のおっちゃんはそういいつつ、
「こりゃあ、新しい発見だわ。ありがとうな。」
と頭を下げてきた。
「いえいえ、頭を上げてください。それでなんですけど、その試作品でいいので、10枚いただけますか。」
頭を下げている露店のおっちゃんにそう告げて、
試作品のビスケットを譲ってもらえるように頼んでみる。
「こんなんでいいのか?明日まで待ってくれれば、ちゃんとしたの作れるが。」
「いや、明日にはもう王都へ向かうんです。」
そんなおっちゃんの言葉に、そう返す。
「そうなんか。じゃあ今、用意するな。ちょっと待ってろ。」
おっちゃんがそういうと生地を切り始めて、次々とオーブンに入れていく。
露店でここまでの早業と技術、対応力を持っているのが不思議な感じだ。
普通に店舗持っていてもおかしくないはず。
そんな疑問を持ちつつ、焼きあがるのを待った。
「なんだ。何で露店でって顔してんな。」
焼きあがったビスケットをまとめながら、聞いてくる。
やっぱり顔に出てるんだな。
そんなことを思いながら、うなずく。
「簡単だよ。うちのはシンプルすぎるんだよ。」
おっちゃんは軽く手を止めて、話始める。
「ほかの店のを見ただろ。ああいうカラフルな奴が人気なんだよ。」
どうやらここの世界での流行は、カラフルなものが人気になっているらしい。
それも単色使いより、二色三色と多色使いの方がさらに人気らしい。
「味を度外視してるから、うちでは扱っていない。」
確かにおっちゃんの露店に並ぶのは、本当にごく普通のクッキーやビスケット。
他の店と違ってカラフルなやつは皆無。
ていうか、あのカラフルやつって味、度外視なんだ。
「ははは。まだほかの食べていないのか。」
おっちゃんは笑いながら、出来上がったビスケットを渡してくる。
あれ?枚数が多い気が。
「お礼だ。これだったら、カラフルなやつと戦えるかもしれん。」
そういいながら、頼んだ10枚に合わせてもう10枚を渡される。
「あと、これな。ほれ。」
と言われて、包みを渡される。
中身を見ると、同じ形、サイズのクッキーが入っている。
「味は保証するぞ、自慢のクッキーだ。」
そうおっちゃんは笑う。
思っていたよりも多いビスケットとクッキーを手にいれ、銀貨を1枚渡す。
そして露店のおっちゃんに別れを告げて、散策に戻る。
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王都、謁見の間。
「ベラルーシ領の伝え人よ。顔を上げるがよい。」
謁見の間に王、オリンピアの声が響く。
「んで、何があった。早馬で来るほどの出来事か。」
隣に立つ、政務担当のカーザスが訊ねる。
早馬でやってきた伝え人は、領主マリアード子爵からの手紙を読み上げる。
内容は、ウィラー家の名を持つ少年を保護したこと。
ただ記憶があいまいな様子で、ウィラー家の末裔かどうか判断がつかない。
現在、王都に少年を連れて王都へ向かっている。
そのため、王都到着まで調査をできる限りでお願したい。
そしてステータスが特殊であったこと。
治癒魔法特化ではあったが、攻撃魔法にも長けていて
歴史上で考えても特異だと考えられる。
そしてウィラー家であった場合でもなかった場合でも、
ベラルーシ家として支援していく所存である。
そういった内容の手紙を読み上げると、
「うむ、わかった。エル、お前には調査を命じる!行け!」
エルと呼ばれたものが謁見の間を足早に出ていく。
「モーア、お前も調査に行け!エルとできる限り調べて、2日後に報告を上げろ。」
モーアと呼ばれた魔法使いの服を着た女性にも指示を出す。
「カーザスは、到着に合わせてステータスチェックができるように準備を出すように。」
オリンピア王は、隣に立つカーザスに指示を出す。
「御意。では、準備に入ります。あと…」
何かを続けようとしたカーザスだが、
「言われんでもわかっておる。それはそれでアーサスに言っておく。」
そうオリンピア王はカーザスへ告げる。
「さて、ベラルーシ領の伝え手よ。2日後まではゆっくりとするがよい。」
そう伝え手に向かってオリンピア王は告げ、
「2日後に上がってきた報告をもって、再び領主のもとへ戻るとよい。」
そう言葉を閉めると、目配せをする。
するとほかの執事よりも上等な服を着た執事がやってきて、
「では、お休みいただきますお部屋までご案内いたします。」
と言い、伝え手を案内していく。
そんなかんやで、
謁見の間から伝え手が出ていくと、
「うむ。ウィラー家か。」
とオリンピア王は呟く。
「あのウィラー家であれば、これは由々しき事態ですよ。」
側にいたカーザスも呟く。
「ウィラー家が復権するとなれば、それこそ内乱に繋がりかねませんよ。」
謁見の間がざわつく。
「みな、静まれ。まだウィラー家の復権復興というわけではない。」
オリンピア王はその場の全員に告げる。
「最初の調査が終わり、当人が来るまではこの話は、保留だ。」
全員を見渡し、告げ
「一切の他言は禁止する。」
とオリンピア王は宣言し、謁見の間を出ていく。
「カーザスよ。密偵を出せ。早めに審議の沙汰を調べろ。」
謁見の間を出たオリンピア王は、側近のカーザスにそう指示を出す。
「かしこまりました。」
そうカーザスは返事をすると、自室へ急ぎ足で戻っていく。
「さて、どっちに転ぶのか。上手くいけばいい方向になるんだがな。」
誰もいない、聞いていない廊下で、オリンピア王が呟く。
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