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リピーテッドマン  作者: 早川シン
第二章「underground」
36/55

第二章6話 『首輪』

【前回のあらすじ】

──「尸霊人」

── Kはミハルをそう呼んだ。

──「君は半“追放者”。死繋人になりかけた半端者だよ」

 

「じゃあ俺って結局……なんなの? 半端者っていい意味には聞こえないけど」


「言い方は悪いけどそうなるね。ミハルは“尸霊人(バスタード)”、僕はそう結論を出した。エミリの拡視(オーグ)に記録されているデータと彼女の証言から割り出した仮説だが」


 ちらりと視線を送りながらKはそう返事をした。

 気をまわしてトレイを差し出したエミリに「ありがとう」と礼を言いながら空になったカップを預けて、


「“尸霊人”とは追放者の中で稀に出てくる希少な存在なんだ。RLP値を自分の意思でコントロールできるからね。通常の“追放者”が望まずして死人化するのとは訳が違う。生者と死者の中間に位置しているからこそこなせる所業さ」


 ミハルの表情が、わずかに強張る。

 生者でもなければ死者でもない。哲学的な響きがあるが、Kが言っているのはそういうことではないのだろう。

 と、ここまでの話の流れから察して、また一つ気になる点を口にする。


「そのRLP値ってのは? 確かエミリも言っていたよな」


 食事前の急なお触りタイム。

 赤面するワンシーンを思い出しながらそう言った。

 Kは人懐こい色が滲んだ笑みを浮かべると、


「そろそろその質問が来ると思っていた。そこで、さっきの続き。“追放者”の二つ目の特徴の話に繋がる」


「そこまで見越しての講釈なのか。おみそれしやした」


 戯けたように両手を挙げ、降参のポーズ。

 ここまで綺麗に誘導されたら、もう後は乗っかるしかない。裏があるとは考えにくいし、お陰でここまでの事情を短時間ですんなりと飲み込めてもいる。なにより、ミハルにとってもその方が楽だった。


Red(赤い) Lotus(ハス) Particle(粒子)──文字通り、形状が(ハス)の花に似ていることから由来している。この粒子は死繋人特有のもので常に彼らの体表から発せられる物質だ。正確にはRL血液が気化したものだが、この際の説明は後に回そう。それより、勘の鋭いミハルならもう気づいているはずだ。

 ()()()()()()ということは“追放者”にも関係してくるのでは、とね。“追放者”が権能を制御しきれずに暴走の怪物と化したのが死繋人と言ったように、RLP値も深く関わってくる」


 簡単な調子でKは続け、


「僕らが“追放者”を見分けるポイントはRLP値が計測されるか否か。普通の人間にはRL粒子を生成する器官は備わっていないから追放者と一般人を見分けるのは実に簡単さ。で、率直に言うと、ミハルからRLP値が計測された」


「え? でもさっきエミリが俺からRLP値は計測されていないって」


「そう、今はね。そして、その事実がミハルを“尸霊人”と称したなによりの証拠だ。現に君は死繋人と化していない。けれど、その一歩手前までは足を踏み入れかけていたのさ。自覚があるかどうかは定かではないけど、三日目の教会。そこで初めてミハルのRLP値が計測されている」


「はい?」


 ミハルの頭の上に『?』が出現する。

 ここで「へえ、そうなんですね」と頷けるほど物分かりは良くない。教会での一連の出来事を振り返ってみても、特に思い当たることはない。少し運動神経の向上があったぐらい、なのだ。


「あのね、ミハル」と隣に居座るエミリが戸惑いを隠しきれない表情で、


「教会での記憶はどこまで残っているの?」


「それは……怪物(バケモン)に吹っ飛ばされて、腕が取れたとこまでかな。そっからは全く何も……正直死んだと思ってたし。俺なんかマズイことでもした? いやあだとしたら恥ずいな!」


 わざと明るく振る舞うことで、ふつふつと湧き上がる不安をかき消そうとするミハル。

 対して、エミリは形の整った眉を寄せながら、


「何にも覚えていないの? 本当に? これっぽっちも? あの時、あの状況で何を話して何をしたのか」


「お、おう。はい、あの、みたいです」


「……じゃあ、先輩の推測が濃厚ね」


 たじろぐミハルを余所に、エミリはそう呟いた。

 ミハルとエミリの記憶のすれ違い──この場合はミハルが断片的な記憶を失っていて、故に齟齬が生じていると推測できる。ミハルが知らず、エミリだけが知っている空白の時間。己に関係している話だというのに、全く知らないことがもどかしい。

 この間にエミリの中でどんな思惑が渦巻いたかは分からないが、ミハルに対してあんまりな態度だと思ったのだろう。少しトーンを下げて、ぽつりぽつりと話し始めた。


「実はあの直後──つまり、ミハルの意識が飛んだ後のことね。その……なんて言えばいいのか分からないけど、急に口調が変わりだしたの。声帯をまるっきり変えたような口調。まるで別の人格に切り替わったみたいに喋りだして……正直怖かったわ」


「今その事実を突きつけられた俺が一番こえーよ……」


 苦笑やジョークで済ますことなど到底出来ず、真顔で口走った。

 ショックの度を超え過ぎて、まともな反応などできるはずもない。

 驚き、狼狽するミハルに対してなんとか適した言葉をかけてはやりたいが、エミリはありのままの事実を述べる。

 Kに指示された通り、詳細に至るまで、


「女性の声だったかなすご〜く高貴な感じ……あと、自分のことを儂とか、語尾に〜じゃとか、特徴的な喋り方もね。女らしい仕草もしばしば」


「うええマジでか……意味不明なんですけど。まさか俺って(そっち系)……」


「今のミハルと話している限りその可能性は低いと思う……たぶん」


「ゼロだよゼロ! 100%ない。キャラ濃過ぎじゃん。ドクペ並みの個性かよ!」


「ドクペ? なにそれ?」


「引っかかるとこそこおー」


 予想外のところで引っかかるエミリに盛大にズッコケながら、激しいリアクション。

 このテンションで続行すべきか悩んだ挙げ句、エミリが本当に知らないのだと認識し、ドクペ(正式名称/ドクターペッパー)とはなんぞやと語るミハルであった。

 なぜにこのタイミングで最古の炭酸飲料ブランドについて語らなければならないのか、当のミハルが一番混乱していたのは言うまでもなく、

 また「どこかジェネレーションギャップを受けている感じがする」とも思ったが、この時の妙な違和感が後の衝撃的な事実に繋がることなどミハルには分かりようがなかった。


 話は戻る。


 前述の内容は別として、その身に覚えのない空白の時間に動いていた〈ミハル〉の正体は一体何なのか? という疑問は解決しない。

 ミハルにその他人を演じていた自覚が無かったという事実が証明されただけであって、根本的な解決には至らないからだ。だが、しかし、答えに行き着くための道しるべはKが握っていた。


「まあ、予想通りの反応だね。もう一つ付け加えると、ミハルはあの怪物と拮抗していたらしい。僕もまだ半信半疑なんだけど」


 素っ気ないKの一言にミハルの思考がピタリと止まった。

 ひょいと左手を挙手して、


「……ちょい確認オーケー」

「どうぞ」


 やんわりとした笑みを浮かべながら、Kはミハルに向き直る。

 一つ、咳払いを入れて仕切り直し、再度確認。


「俺があのバケモンと」

「そう、死繋人だね」

「渡りあっていたと」

「みたい、君が優勢だったらしいよ。これで十分かい」



「十分じゃねーーっ!」



 項垂れ、ベッドに突っ伏すミハル。


 絶句だった。

 要するにミハルはあの化け物と一対一でタイマンしていたことになるらしい。あの絶体絶命の状況でだ。

 腕を吹っ飛ばされ息も絶え絶えのあの時点でゲームオーバーを覚悟していたというのに、誰かが新たなコインを入れたとでもいうのだろうか。


「大丈夫よミハル。私もあの時は目を疑ったもん」


「……少なくとも、パニックにはなるよね。身に覚えのないことだし」


 動揺するミハルを嗜める二人。

 感情の起伏が激しい野良猫を相手にしているような雰囲気であった。


「ダメだ。頭が理解を拒んでやがる。そんなことって……ありえねえだろ。二重人格じゃん」


「ありそうだよね、そういう設定」Kは極めて適当な調子で呟いた。


「……って事は、何か?」ミハルは顔を青ざめさせて、


「記憶障害を患ったまま、この世界に飛ばされた俺は二重人格者でかつ片方は女の人格を持っていると。おまけに腕は取り外し可能の別物になっていて、覚醒したら怪物を渡り合えるほどの力を持っているだって⁉︎ どんな欲張り設定だよ!」


「そして“追放者”でもあり“尸霊人”という特異体。確かにミハルって……うん、特殊すぎるよね」


 なんとも形容しがたい表情でエミリは呟き、対するミハルは『その設定もありましたね』と茫然たる顔で「フォロープリーズ」と嘆くのだった。


「ま、今まで話してきた事を単純に並べるとそうなるのは当たり前だ。仮説も含めミハルに付随する情報は考えれば考えるほど増えていく。もちろん多岐に渡って推論することも大切だけど、最も重要なのはその一つ一つがどう絡みあっているか。一見複雑なように見えるけど、解いてみれば意外と単純かもしれない。イヤホンコードのようにね」


「そうかもしれないけどさ……」


「いま焦ったってしょうがない。とにかく今は冷静に一つ一つ進めていこう。僕もエミリもそのためにここにいるんだ。一人で抱え込む必要なんてない、だろ?」


 動揺し、ブレていたミハルの視線はKの顔を捉えた。

 表情はあくまで涼しげで、柔和な笑みを浮かべている。


 “ひとりで抱え込む必要なんてない”


 たったその一言が澱んだミハルの思考を澄み渡らせた。

 高ぶっていた感情の熱が彼の瞳に吸い込まれていくようにも感じ、震えた吐息が溢れでる。

 ようやく平常心を取り戻し、


「ああ……うん……はい……だな。お見苦しいところをお見せしました」


「大丈夫? お水飲む?」


 心配そうに覗き込むエミリ。

 彼女の紅蓮の瞳にはミハルの情けない顔が映っていた。

 なんて樣だと自虐の笑みが微かに溢れ、一気に視界が開けた。

 寝癖のついた黒髪を掻き、おどけた様子で手をひらひらと振る。


「ああ、ちょっとパニクってた。気ぃ使ってくれてサンキュ」


「どういたしまして」


 エミリは微かに笑う。懐かしく。

 目にかかった前髪を手で払いのけながら「それで、さっきの話の続きなんだけど」とKは話題を引き戻し、


「ミハルは本当にその意識が消えた後の記憶がない、ということでいいんだよね」


「ああ、何度思い返してみてもその自覚がない」


「となると、その空白の間のミハル──つまり、その別人格の正体はなんだってことになりますね」


「興味深い点はミハルにその別人格が表れた途端、RLP値が計測されたってことだ」


 エミリが推理を進め、そこにKが新たな情報を付け足していく。

 ミハルも置いてけぼりにならないように必死に思考を回転させる。


「RLP値を自由にコントロールできる。だから、“尸霊人”ってことか。ん? でもそれってさ、俺がコントロールしてるわけじゃなくて……その別人格の仕業ってことになるんじゃ?」


「うん、そう考えるのが妥当だろうね。状況証拠を下にすれば」


 わずかな、不自然な間があった。

 Kは眉の間に皺を寄せ、エミリはごくりと唾を飲み込んだ。

 ミハルの中で眠っている〈ミハル〉──つまり、別人格はどうやら厄介な存在であるようだ。

 RLP値を自由にコントロールし、ミハルの体を乗っ取り例の死繋人と呼ばれる怪物と闘った。その結果が今の状況だ。

 良い方向に事は落ち着いたことにはなるが、不気味であることには変わりない。


「そいつの目的はなんだ?」


 ミハルはKの顔色を窺いながら、慎重にそう尋ねる。

 Kは肩をすくめ、首を横に振りながら、


「それは僕らもさっぱり。ただ一つ言えることはある」


「言えること?」


「再びミハルの中からそいつが出てきた時──」


 溜めて、一息に言い切った。


「──君はヒトならざるものになってしまうかもしれない」


 間が空いた。

 底抜けするほど涼やかな一言が室内の空気を蹂躪し、三者三様の反応が浮き彫りになる。

 残酷な事実を告げられたミハルになんて言えばいいのだろうかと困惑するエミリと、謎めいた微笑みを浮かべるK。


 そんな二人の視線の先のミハルの行動は実にゆっくりしたものだった。

 Kから告げられた言葉の意味を飲み込むのにさほど時間はかからず、天井の節目にしばし目をやり、首を捻り、と思えば凝った肩をならし浅く息を吐く。


 溜めに溜めること数秒。

 なるほど、と小さく呟き、こう言った。


「ヘヴィーだ」


「軽すぎない!? 確かに重い話だけど!」


「俺は極めてクールだぜ。“追放者”や“尸霊人”の話が出てきた時点で、楽観的に事が進まないってことは薄々は感づいていたよ。フラグ回収はお決まりだろ?」


 ミハルはそこまで一息に言い切ると、視線をエミリからKへと向ける。

 真っ直ぐに彼の瞳を見つめ、「それに」と前置きをして、


「……こんな危険要素マシマシの俺に対して無策ってのは引っかかる。まだ何かあるんじゃねーの?」


 どうよこの名推理、とでも言いたげに芝居がかって指を鳴らす。

 実際は半分思いつきということもあり、背中は汗ダラダラ。だが、バレなければどうということはない。

 金髪イケメンの真似をするかのようにニヒルに口角を歪め、相手の出方を見極める。

 そんな一人ドラマの中のミハルに対して、Kは肩をすくめ素っ気なく答えた。


「まあね。一応この道のプロなんだ。すでに処置は施してある」


「処置っていうのは?」


 ミハルは食いつくように尋ねる。

 Kは天井を差した人差し指を無意味にくるくると回しながら、


「死人化を防ぐにはどうすればいいと思う?」


「まぁ……単純に……RLP値ってのを下げたら──」


「そうだ」


 Kは頷き、


「極端な話、“追放者”の死人化を阻止するにはそのセオリーが有効だ。が、あくまでそれは其の場凌ぎでしかない。個体差にもよるけど、“追放者”に関しては権能が飲み込むスピードが速い。だから多量の抑制因子を打ち込んだところで無駄な足掻きなんだ。逆に抑制因子が過剰に反応しすぎて当人を死に追いやることもある」


「ほぼ救いようがない話じゃん」


「こんなのザラさ。“追放者”の運命は死を貪る怪物と化すか、自我を失い朽ち果てるか。奇跡的に救えたとしても重い後遺症が残るのが現状だ」


「でも俺の場合は少し違う。なぜだ? “尸霊人”だから?」


「そ、ミハルの場合は稀な“尸霊人”の中でもかなり特殊なケースだけど、対策の仕様は“追放者”よりはいくらか残されている。首元触ってみて」


「首?」


「そう、喉仏の下辺り」


 眉根を寄せ怪訝な表情のミハルに悪戯っぽい笑みを浮かべながらKは返した。

 言われるがままに左手の中指と薬指で指定箇所をおっかなびっくり触るミハル。

 触れてすぐ違和感に気づいた。


「な、ぁ──!?」


 硬いのだ。

 最初は首の血管かと思ったが、それにしては弾力に乏しく、温かみがない。

 首周りを掌で撫でるように触ると、金属片ぽい輪っかにぶつかった。どうやら首元にがっちり取り付けられているようで、簡単に取り外せるような代物ではないことは明らか。

 異質な首輪がまとわりついているようで気味が悪いことこの上ない。


 しかし、ミハルはそれ以上に衝撃的な事実に気付いた。


「ちょっ、あの……コレ……首に埋め込まれてる気がするっつーかマジで埋め込まれてるんですけどっ!」


 薄皮一枚を挟んで感じられる首輪の感触はゴツゴツではなくプニプニ。つまり、首の内側から首輪をつけられているという状態であった。

 道理で、今の今まで首元の違和感に気づかなかったわけだ。

 すでに体の一部として馴染んでいる可能性もあるとすれば、納得できる半面、形容しがたい息苦しさもあって。


「RLB抑制チョーカー。試作品(プロトタイプ)だが、今のところ上手く制御できている。危険なものではない。むしろ君にとっては大事な命綱だ」


 あたふたと首元を触るミハルにKは淡々と語り掛ける。


「いやいや命綱て……いつからこんなモノを」


「三日前。君を保護した時から」


 悪びれる様子もなく肩をすくめてそう答えた。

 呆れたミハルはKとエミリを交互に視線を送る。

 ミハルの視線に僅かながらエミリの瞳が揺らぐが、何かを思い出すように口を噤み、表情を消した。

 その些細な所作が妙にミハルの不安を煽り、 


「また三日前の話か。俺の知らない間に話が進みすぎじゃね」


「ごめんね、ミハル」


 何かと三日前に肝心なことが成されていて、その時のことを知らないミハルにはもどかしさがある。

 過ぎ去ったことを今さら嘆いてもどうしようもないが。


「エミリが謝る必要なんて1ミリもねぇよ。こればかりは運命を呪うね」


 過酷な現実を次から次へと突きつけてくる運命に中指を立てつつ、


「で、どうなってんのコレ?」


「お気付きの通り、そのチョーカーは君の首に埋め込まれている。生活に支障は出ないから安心してくれ。仕組みだけど……体内のRLP濃度を秒単位で計測し、一定値を超えたら抑制因子が首の動脈から注入されるっていう代物。理論上、死繋人への覚醒を阻止できるらしく、現にこの三日は効果が出ているね」


「察するに取らない方がいいみたいだな。ちょっとした囚人気分、いいや首輪だから飼い犬か」


「いい気はしないと思うけど、それがミハルを守ってくれていることは分かっておいてほしい」


「まあこれ以上深くは聞かねえよ。知りすぎるってのも逆に怖い」


 手を軽く泳がせたミハルは、最後にもう一度首元に埋め込まれたチョーカーを摩った。

 機械の冷たさと体の温かみが同居している不思議な感触。意識したせいでしばらく慣れるのに時間がかかりそうだ。

 そんなことを思いながら首をひねると、先程から神妙な顔つきのエミリとふと視線が合う。

 正直、そんな顔をされると気まずいもので、真綿で首を絞められるような気分になった。


 ──俺って面倒くさい性格してんだな。


 気掛かりだが、ズケズケと聞くのも無粋と判断。

 気をとり直し、心配しなくてもいいよという軽快な笑みを浮かべながら、


「オーケー。この首輪に関しては把握した。あーっと、他はないよな? 首だけじゃなく心臓に爆弾セットとかは無しだぜ」


「そんな酷いことはしないさ。今後も変わらず、そのチョーカーがミハルを24時間監視する──こんな感じで」


 微かに背を伸ばしつつ、Kはブレスレット型の端末を掲げ、ミハルにホログラムを示す。

 宙に浮いたモニターには、シンプルなデザインの文字列が秒毎(びょうごと)に変動している。

 体温、脈拍、血圧、脳波などのバイタル・データ。そして、RLP値。


 微細な数値の変動がデータ化され、グラフになり、なだらかなウェーブを描いている。

 青く光る数字をぼんやりと見つめながらミハルは率直に尋ねた。


「これから俺はどうなる?」


「君しだいさ」


 とKは謎めいた微笑みを浮かべつつそう返した。

 いつの間にか仄かに漂っていたコーヒーの香りは消えていた。




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