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リピーテッドマン  作者: 早川シン
第一章「Hello,world!」
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第一章16話 『再会』

 

「──魔術結社──Libraライブラ構成員ーミシェルと申します」


 確かに彼女はそう言った。


 ──魔術結社Libra?


 聞きなれない組織名にエミリは困惑していた。

 今一度、この空間に介入してきたミシェルという女性を観察するが、服装以外には何も分からない。

 魔術という割にはその類いの格好には程遠く、彼女の背景が見えてこないことに焦りを覚える。


 ──顔見えない……怖い


 黒いベールに包まれた素顔は未知の恐怖を彷彿させ、その無機質な声色は彼女を不気味にさせている。

 未知や無知というものは何よりも恐ろしい事なのかもしれない。


「フライデー:同調──解除」


 エミリの傍に立つKが再び自動書記(フライデー)に命令を下した。

 彼の鋭い目つきは一向に緩んでいない。


 例の右腕が領域を展開した時と逆の動作をすると、次の瞬間にはエミリの目の前に広がる暗黒の世界は消えた。

 あのどす黒い黒雲もじっとり漂う灰色の霧も消失し、死者の幻影や透明な構造物も存在しない。

 代わりに瞳に移り込んだのは──


「まぶしっ」


 爛々と水溜りに反射する陽光。

 聞こえるのは生者の賑やかな喧騒。

 つまり現世。


 異なる次元に干渉していたエミリにはこの世界が天国のように思えた。

 黒い粒子で構成されていたあの気が狂いそうになる世界は存在しない。

 死者との同調を切ったことにより、別の世界に転移したようにも感じられる不思議な感覚は、Kが呟いていたようにあまり心地いいものではなかった。


 ──先輩、本気(マジ)


 人生初の死霊同調を体験し、一息つくエミリだったが、事態はかなりの緊迫状態だった。

 というのも依然として先輩監察官Kの表情は緩みを見せず、ただならぬ雰囲気が感じられたからだ。


「私があの次元だけに干渉していると思ったのでしょうが、残念ながらこの次元にも存在していますよ。物理的に、実体として」


 顔を黒いベールで覆ったミシェルは丁寧にエミリとKに申し立てた。

 彼女の話すトーンはどこか親しみやすさがあり、その隠された素顔は微笑んでいるように思えた。

 しかし、素性の分からない彼女はやはり不気味なことに変わりない。


「先輩、この状況は……」


 Kは半歩後ずさりすると、ミシェルを注視したまま口を開けた。


「魔術結社Libraの存在は知っているかい?」


「いえ、初めて聞きます」


「世間一般には公表されていないからね。それに僕ら公安の中でもその存在を知っている人間は限られている」


「先輩は知っているんですよね」


「俺はこう見えて結構偉いんだぜ」


 肩をすくめニヒルに笑みを浮かべるKに、エミリは「はぁ」と曖昧な相槌を打った。


 ──そもそも……


 100年前に起きた大終焉(ジ・エルフィナル)を節目に国連が設立した世界保安機構は二つある。

 異間帯捜査局国家公安部=異間公安、異間帯刑事警察機構(Lostbelt Criminal Police Organization)=LCPOの二大異間機関。

 現世と異界の均衡を保ち、平和のために暗躍する組織。


 ──公に公表されているのはこの二つの機関だけ。ということは……


「世界政府直轄の秘密組織ってとこですか」


「飲み込み早いね」


 頭の回転が早いエミリに相槌を打つと、今度はKの方からミシェルと名乗る女性に話しかけた。


「Libra所属のあなたがなぜこんなところにいるのか理由を聞いても?」


 世界政府直轄の裏の組織の一部ー魔術結社Libra。

 その一人が目の前に現れたという事実は喜ばしくない。そして、彼女の強引な接触からは嫌な雰囲気が感じられた。

 踏み込んではならない事件に関わってしまったような、そんな気がするのだ。


 Kとエミリが警戒しているのを察したたのか、そのミシェルという女は両手でなだめるような仕草を取りながら、


「そう焦らずに、Mr.K上等監察官にMs.エミリ一等監察官。辺りには人払いの術を掛けているのでご心配なく」


「名前のみならず階級までバレているとは。さすが政府直轄。恐ろしいね」


「なに弱腰になっているんですかっ」


 とエミリはKの弱気な態度に怒りを覚えたが、同時に冷静に状況を整理していた。


 ──向こうから素性を明かしてきたんだから、私と先輩の素性を知っていてもおかしくない。それに私たちの素性を完璧に把握していた。そんなことは並みの組織ではできない。

 なら、彼女が政府直轄機関の構成員であるというの可能性は極めて高い。よってなりすましの線はほぼ無し。

 情報においてはこちらが劣勢。武力行使の場合はこちらに数的な利はあるけれど……正直言って自信がない。


 背中に不快な寒気がする。

 ミシェルという女性はエミリにそう感じさせるほどの底知れない雰囲気を漂わせていた。


「会って早々、申しわけないのですが……」


 そう言うと、ミシェルは懐に手を伸ばした。このような場面で懐から出すものなど限られている。


 例えば、光針銃(レイ・ニードル)とか……


 相対するKもエミリもすぐさま臨戦態勢に入った。

 さすが公安という職に就いているだけあってこの手の対処は二人とも早い。

 エミリは腰に刺してある装備を握り、Kは自動書記(フライデー)の手首を刀の柄を持つようにして構えた。


 ──殺る気なの……ここで……


 が、ミシェルの手に握られて出てきたのは二枚の写真だった。

 Kもエミリも一旦、警戒態勢を解く。

 ミシェルはそんなことは気にもせず淡々と話を続けた。


「この写真(キャプチャー)に写っている標的を探しています。二枚目に映るオブジェクトに関してもですが……この二点に関して何かご存知ではありませんか?」


「それは、情報提供をしろと?」


「ええ、そうです」


「なるほど」


 冷静に答えるKの隣でエミリはかなり焦っていた。

 というのもミシェルの掲げた二枚の内、片方の写真。


 そこに写っていたのは、Kとエミリの監察対象キリエ・ミハル本人だったからだ。

 遠目でも特徴的な髪型ですぐに特定できる。


 ──なんでここでミハル君が出てくるの?! しかもLibraが捜索している対象ってことでしょ。これって……


 ようやく、エミリもKと同じように事態の危険性を知った。


「どうでしょう?」


 ミシェルと名乗る女は首をカクリと傾ける。

 その様は魂の無い人形が首を傾げているようで気味が悪い。


 ──どうすればいい? ミハル君に会わせるべき? でもミハル君の監察は私と先輩の任務だし、それをする事は任務放棄だし……


 すがるように先輩監察官Kに目配せをするエミリ。この返答で事態は急変する。

 正直に答えるべきか虚偽の申告をすべきかで180度局面は変わってくるのだ。

 焦るエミリとは対称的に澄ました顔のKは一旦間を置くと丁寧に返答した。


「残念ながらその二点に関しての情報は持ち合わせていないです。お力になれず申し訳ない。もし今後何か拾えたらお伝えしますよ」


 Kはにこやかに微笑みながら、嘘をついた。


 《いいんですか先輩? 相手は政府直轄ですよ》


 エミリは拡現を使ってKに話しかける。


 《任務優先。もし何かあれば任務優先でしたで済むだろ。彼女らに関わると面倒だし。それにね……》


 《それに?》


 Kは冷静にこう言った。


 《すでに囲まれている》


 慌てて周りを確認しようとするエミリを憐れむ声が鼓膜を叩いた。


「気づきましたか。かなり慎重に行動するように命じていたというのに、まったく……使えない部下を持つと困ります」


 ベールの下で深い溜息を吐き、額に手をやり項垂れるミシェル。

 Kはエミリを庇うように左手で後ろへ後退させた。


「最初からそのつもりですか」


「ええ、すみませんが」


 ミシェルはそう言うと、指で軽く音を鳴らした。



 パチンッ



 乾いた音が辺りの残骸に当たってはね返る。

 気づけばKとエミリは五人の人影に囲まれていた。


 みなミシェルと同じ赤褐色のポンチョコートを羽織り、顔は黒いベールで隠している。

 体型から判断して男が三人、女が二人だろうか。

 亡霊のように二人を取り囲む五人は等間隔に3メートル程開けて佇んでいる。

 彼らとの距離はおよそ8メートル弱。

 まさに一触触発の状況である。


 思い出せばミシェルが二人の前に現れてから辺りには人気が無くなっていた。

 なぜその時の違和感を見逃したのだと己を悔む。


 ──二対六、数的なアドバンテージもなくなった。マズイ、マズイ、マズイ、マズイ!!


 《エミリ、落ち着いて》


 脳内に響く聞きなれた声と共に、ぽんと優しく肩を叩かれた。

 ビクリと肩を仰け反らせたが、いち早く冷静さを取り戻す。


 《取り乱してしまいすみません。で、どうします? これ完全に殺りに来ていますよ》


 エミリは手首を鳴らしながら、腰に刺してある対人武器の柄を再び握り込む。

 何度も扱ってきた武器を生身の人間に向けるのには緊張する。

 訓練生時代の時とは違う実戦という場の恐怖が、彼女をじわじわとのみこむ。


 《だね。向こうの思惑としては有益な情報を得られたらラッキーみたいな感じかな。要は僕らが情報を知っていても知らなくても後始末する気なんだろうね。この事件に介入した時点で僕らは彼女達の標的だった》


 《笑えないですよ。こんな事をして許されるんですか。裏の組織だから……》


 Kも肩をコキリと鳴らすと自動書記(フライデー)の腕の切断面を下にして構える。

 彼の武器はそれだった。


 《魔術結社Libra──世界政府の直轄機関。その素性も活動内容も謎。何をしても揉み消すつもりなんだろ》


 亡霊のように佇むミシェルは一歩足を前に踏み出す。

 彼女は臨戦体制を整えたエミリとKを嘲笑するように、


「まだ何も申し上げていないのですが……」


 また一歩と二人に近づく。

 エミリは周りからの殺気を感じていた。


 ──敵の武器は不明。飛び道具なら、こっちが不利。


「この状況でよく言えますね、先を伺っても?」


 Kは若干ため息混じりに言い放った。



「では、遠慮なく──」



 ミシェルはそこで一拍開け、はっきりと宣告した。



「──死んでください」




 キンッ!! と、空気が弛緩した。




 快音。


 それは鋼と鋼が交差する音に近かった。


 エミリの目前で火花が散る。


「なっ……!?」


 瞼を閉じる暇なく目前で起こった事態を把握するのに数秒遅れるエミリ。


 まず目に入ってきたのは鮮血の糸と刃だった。


 しなやかな刃が蜘蛛糸ほどの細さの糸をエミリの頭部ギリギリで受け止めている、そんな構図だった。



「おや、この一撃で仕留めるつもりだったのですが」



 ミシェルが意外な展開に感心したような声をあげた。


 彼女がいつの間にか前に差し出していた右手の指先からは鮮やかな赤色の糸のようなものが伸びていた。

 それはまさしくエミリの命を刈り取ろうとしていた死の糸であり、ミシェルの攻撃だった。


 しかし、その攻撃はKによって絶たれていた。


「あいにく、こちらもそう簡単に消される気はないですよ」


 彼の手に握られているのは自動書記(フライデー)

 包帯で覆われた片腕の被造物には一つの変化があった。


 切断され露わになった前腕骨から伸びるのは鮮血の刃。

 刃先は等間隔に紅色の波紋が浮かび上がり、反りを際立たせる深赤色の棟がその刃を優美にしている。

 正しくそれは古来から伝わる刀と呼ばれる武器に酷似していた。


 異なる点といえば、刀の柄が人間の片腕であることだろう。

 茎(柄に刺す内部のこと)をそのまま腕の切断面にぶっ刺したそれは、立派な武器として機能していた。


「大丈夫かい。エミリ?」


「は、ヒャい」


 エミリは圧倒的な力の差を認めざるを得なかった。


 ヒュッと、空気を切るかすかな音がした。

 火花を散らしながらしのぎを削っていた糸と刃が一旦離れる。

 Kはエミリをひょいと抱えると軽く跳躍し、数メートル下がった。


 きらりと光る鮮血の糸は、まるで生き物のようにうねり、宙を舞う。

 その糸は刀と互角に渡りあい、糸ながらかなりの強度を見せていた。


「血操術だろ。それ」


「色々とこちら側に詳しいですね。少しあなたに興味が湧いてきました」


「それはあまり嬉しくない返事だね」


 命の奪い合いをしている両者とは思えないほどの軽い会話にエミリはついていくことが出来なかった。


「血操術……?」


「血を操る死霊術。僕の血宿刀に近い類かな」


 ゴクリと唾を飲み込むエミリ。


「向こうは6人ですよ。撤退して応援を呼んだ方が……」


「もちろんそうしたいんだけど。そうもいかっ!!」


 ない──と、Kの声は途切れ、代わりに乾いた軽快な音が響き渡る。

 次々と変幻自在の鋭利な糸の攻撃をKは鮮血の刃で巧みに捌いていく。


 身軽にステップを踏み、身を回し、ときには辺りに散らかった残骸を足場にして重力を無視した回避行動をとる。


 体捌きはもちろんであるが、その刀技は異常なほどの素早さと正確さを兼ね備えていた。

 そして何よりエミリを抱えながらという大きなハンデを患ってこの芸当をなしているのだから、それは人の域を超えているといえるだろう。


 《エミリっ!! 提案があるんだけど》


 拡視を通してエミリに声がかかった。


 《分かってます! 私も援護します!》


 エミリは萎縮していた闘志を燃やす。

 これ以上、彼の足を引っ張るわけにはいかない。


 《ありがとう。けど、提案はそれじゃない》


 ぐっと足を踏み込み鋭利な斬撃を寸前の所で躱す。


 《二手に分かれよう。僕はLibraの連中を相手する。エミリはミハルとアインを守ってくれ》


 またもやKの頭部めがけてきらりと光る鋭利な糸が降りかかったがKは最小限の動きで回避した。

 獲物を見失った死の糸は近くの木の残骸に直撃し、残骸は綺麗に真っ二つに割れた。

 その光景を見てエミリは喉が干上がった。


 《分かりました。……え、でもそれじゃあ、ひとりで全員を相手にすることになりますよ》


 現時点でLibra構成員は六人。

 攻撃しているのはミシェル一人だけだが、他の五人がこれからどう動くのかが分からないのだ。

 既にキリエ・ミハルのいる場所を特定しているかもしれない。そうなれば最悪の事態だ。

 こんな常軌を逸した連中が彼に何をするか大方の悪い予想はつく。


 何より任務が最優先。監察対象の保護は監察官の役目。だからKの判断は正しいのだろう。


 だが、


 1VS6……どう考えても不利である。

 いくら彼が強いといっても、この圧倒的な数の差には対抗できないのではないか。

 そんな不穏な推測がエミリをよぎった。


 が、そんなエミリの不安をかき消すようにKは答えた。


 《心配するな。きっと上手くいく。君は君のやるべきことを。僕は僕のやるべきことを。適材適所ってやつだ。頼めるかな? エミリ》


「中々、粘りますね」


 ミシェルの声に苛立ちが混ざった。

 それに呼応するように鮮血の糸の威力が俊敏さが勢いを増す。


 ──不安はある。


 ──自信も100%ない。


 ──それに怖い。


 ──でもっ


 ──私は監察官の一人なんだ。


 ──だから、なすべきことは決まっている。


「了解しました」


「その意気だ。エミリ一等監察官」


 爽やかにKは微笑むと抱えていたエミリを降ろした。直後、凄まじい勢いで空気を切り裂きながらしなる鮮血の糸をいなし続ける。


 《でもどうやって二分するんですか?》


 《座標飛ばしを使う。今から数秒後、僕は奴らを引きづりこむからエミリはその間にミハルとアインを連れて逃げろ》


 把握出来ない箇所はあったが、今はそんなことはどうでもいい。


 《了解。任務は必ず全うします》


 《頼もしいね》


 やるべきことは定まった。


「先程から密かに会話されているようですが、いい加減諦めては?」


 哀れむようなミシェルの声が聞こえる。

 絶対的優位な立場の者の余裕の合間。

 しかし、それはミシェルの攻撃が止まった隙でもあった。


 二人はその瞬間を見逃さない。


 Kは手に持つ自動書記から伸びる刃を地面に突き立て、エミリは彼に背を向け全速力で駆け出した。



「フライデー:座標──解除(アンロック)



 突如青いプラズマの球体が出現した。


 自動書記(フライデー)を中心とした半径10メートルの球体。

 それはKとLibra構成員6名を囲む領域であった。

 そして、エミリは既にその領域から離脱している。


「まずい──ッ!?」


 何かを察したのか、焦るミシェル。

 彼女はすぐさまその異変に気付き、周りを取り囲む部下に命令を下す。



「各員、今すぐこの場から離──」



 が、その先が聞こえることはなかった。



 消えたのだ。


 きれいさっぱりと。


 Kもミシェル含むLibra六人の姿はその場から消えていた。


 後に残っているのは半径10メートルのクレーターが一つ。地下に埋もれた残骸の山の真ん中にぽっくり開いていた。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「アインさん。こっち」


「イリアさん……どうしたんですか? 急にそんな血相で」


「いいから来て!」


 エミリは離脱した後、キリエ・ミハルが寝かされていたテントに向かい、状況が飲み込めないアインの手を引きながら、すぐさまその場から離れた。

 手荒だが、今も意識を失っているミハルを担いでいる状態だ。


 辺りを見渡した。

 尾行はされていない。


 足早に人混みの中を掻き分けながら、出来るだけ爆破現場から離れていくことに専念する。

 Kに課せられた任務は二人を守ること。

 そのためには身を隠す場所を見つけるのが最優先。


 エミリは後ろを振り返るとアインに尋ねた。


「この辺りに身を隠せそうな場所ってある?」


「え、ええっ!? そんな急に言われても」


「状況が危うくなっているの。事情は後で話すから、お願い!」


 真摯な姿勢のエミリを信じたのかアインはおずおずと答えた。


「あ、あります……一つだけですけど心当たりが」


「ホント! どこ?」


「街の中心部から離れた貧民街にある教会です。老朽化が進んで今は無人の廃墟だったような……そこであれば……」


「教会……か」


 人混みがある所が敵の目を撒くにはうってつけではあるが、エミリのようにこちら側の人間に扮して襲撃する輩も無きにしも非ず。

 そんな状況で複数人で来られた場合、2人を守れる自信がない。

 であれば、まだその教会の方が安全だとエミリは判断する。


 焦る思考を落ち着かせるように浅く息を引き継ぎ、


「そこまで案内出来る?」


「はい。出来ます」


 なら……とエミリが答えようとするよりも前に第三者の声が聞こえた。


「あ、あの。何かお困りのことでもあるんですか?」



 ──もう追いつかれた?!



 ミハルとKを庇うようにして振り向き、声をかけてきた人物を見据えるエミリ。

 腰に添えられたナイフの柄を握り締め、渾身の一撃を繰り出す体勢に入った。


 しかし、見据えた先に立っていたのはエミリの予想外の人物だった。



「あ、あれ? すごい不審がられているっ!?」


「もうっ! ダメでしょ! こういう時はそうやっておどおどしていたら逆効果なの。堂々とよ! 堂々と!!」



 エミリより少しばかり年下の少年と少女が並んで立っていた。


 アホ毛が特徴的な少年と雪のように儚げで美しい白髪をそよ風になびかせる少女の二人。


 ──この子たち、誰?


 


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