小山評定 一六〇〇年
一六〇〇年、小山の地にて二人の大名が陣幕の中、向かい合って座っていた。
一人は後に征夷大将軍となる関東を収める徳川家康、
もう一人は上杉景勝転封後、越後一帯を治める杉田義正である。
「信長公亡き後、天下を納めた太閤が亡くなり、天下を治めるべきお方はもはやおらぬ。秀頼殿はまだ幼く天下を納めることはできん」
「家康殿は天下をお取りになるおつもりか?」
「始めはその気はなかったが、もはやわしが立つしかなかろうて。義正殿はいかがなさる?」
私は家康殿の言葉にすぐに答えることができなかった。
「・・・私は信長公の天下を見たくここまで生きてきたが、もはやそれもかなわぬ。だからと言って下手に天下を乱す気もないのでな、家康殿に従うとしよう」
「わしが負けるかも知れんぞ」
「小早川がこちらに通じている限り負けることはないと思うのだが?」
家康殿は驚いたような表情をしていたがすぐに顔を戻し立ち上がり、頭を下げながら言った。
「これより先はわしに、いや徳川に尽くしていただきたい。信長公の頃からの付き合いの義正殿だからこそお頼み申す」
私も立ち上がり家康殿に頭を上げるように言った。
「家康殿、これから貴殿は天下に号令するお方。私などに頭を下げてはいけませぬ」
「では」
「はい。これより杉田家は徳川に忠誠を誓いまする」
二人は固く手を交し合った。
そこに―――
「伝令、伝令。
申し上げます、石田三成が毛利輝元を総大将にし挙兵いたしました。
三成方の大名は―――」
家康殿は伝令の内容を聞き終えると、小姓を呼び従軍している諸将を呼び寄せるように言った。
「義正殿、時が来たようだ」
「この一戦にて天下は定まりましょう」
「うむ」
そう言うと家康殿は陣幕の外へと出て行った。
私は、家康殿の背を見つつあの頃のことを思い出していた―――