明るみの密談
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共に、この場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
あー、面白かった!
今のゴールデンタイムのアニメの中じゃ、一番のできなんじゃない、これ? 最初の3話あたりがあまりにダメダメで、切っちゃおうかなあと思ったのに、化けたなあ。ネットでも1から3話までは我慢、と評価されているだけあるよ、これ。
こーちゃんは、誰かに評価されたいと思う? て、愚問だったか。
創作の世界しかり、仕事の世界もしかり。評価されなきゃ、まともな扱いを受けられない可能性も出てくるもんね。正当に評されるっていうのは、いつの時代でも達成しがたい難題だよね。
その報われない事実に耐え、歩んでいくのか。それとも道を逸れ、楽な邪道に手を染めてしまうのか……。世の中、すべてがつまびらかになることがあれば、どれだけの人が正しい道を歩んでいるのが、分かるだろうかね。
そういえば最近も、人の評価に対する少し興味深い昔話を聞いたんだけど、耳に入れておかないかい?
むかしむかしのこと。
とある男が引っ捕らえられ、市中引き回しの刑に遭っていた。罪状は不敬罪。
その領地では領主の指示により、市内に不穏分子の種が芽を出していないか、常に見張る間諜の役割を担う者が多く存在していた。これまでも幾人か、男と同じようなことで検挙されている。
ただ他の連中と男が違う点は、白昼堂々、大路で領主の館への潜入と暗殺について、大声でわめいた点だ。
たいてい、このような大それたことは、物陰や家の中といった誰にも聞かれない場所で密談し、実行に移すもの。間諜たちもそう考えていたから、隠れ蓑となりそうな建物、挙動不審な人物に関して、常日頃、目を光らせていた。
それが露店立ち並ぶ大路で、声を張り上げるものだから、目立つのなんの。たちまち引っ捕らえられて棒で何度も打たれた男。けれども領主からの評価は、そこまで低くなかった。
「皆が恐れ、こそこそと不満を垂れるところを、なんとも剛毅な心意気よ。いつまでその舌を回すことができるか、試してやろうではないか」
引き回しの際にも、集まる人々の顔を見やっては、時々、「お前さんの家に、近々、お邪魔をするぞ」などと、脅迫めいた言葉を漏らす始末。そのために住民たちの男への悪感情は、一日の間でみるみるうちに高まっていった。
領主の指示により、彼は檻付きの車の中へ入れられ、見世物動物のごとき扱いを受けることに。そばには監視の者がつけられ、通りかかる者は格子越しにその様子を見ることができたらしい。
しかし、事態はそれだけで終わらなかった。
同じように領主の館への侵入と、暗殺についてわめく者が現れ始めたんだ。そいつらもたちまち同じように引っ捕らえられ、引き回しにされて、檻の中へ。
「なあ、領主の館へは正面から入った方がいいか?」
「いや、それじゃあ気づかれるかもしれない。屋根裏からお邪魔というのはどうだ?」
「いやいや、いずれも目立ちすぎる。いっそ土の中から入り込むというのは?」
三人が揃うと、それはそれはうるさくて仕方なかった。
当初は、町外れの三方に配置されていた3人だが、揃いも揃って、とてつもない大声。町の端から端まで届く音量で会話をするものだから、他の住民たちにとっては騒がしいことこの上ない。やむなく、三人を一カ所に集めたところ、どうにか人並みの声にとどまってくれたとのことだ。
「てめえら、うるさすぎるんだよ!」
さんざん耳を悩ませてくれた三人に、住民たちは腹立ち紛れに、石を投げつけることがあった。それに対し、彼らはそれらが何でもないかのように会話に興じ続け、ほとんどの者は反応のなさに飽きたそうなんだ。
しかし、負けん気を露わにし、更に石をぶつけんとする者もいた。かの耳障りなおしゃべりをやめさせてやる、と。
狙うとしたら、目やのど。どうせ罪人なんだから、何をしても文句は言わないだろうと思い、めいめいがよく狙った上で、彼らに石を投擲した。
だが、そのことごとくが外れてしまう。目にぶつかるよう、のどにぶつかるよう、しっかりと調整しながら狙っているのに、一向に命中しない。
それならと、座っている彼らの足を目がけた時には、自分がよほどのへまをしない限り、ぶつけることができた。しかし、あざをこさえさせ、血を流させることはできても、彼らの会話を止めるには至らない。
されど、いざ急所を狙う段になると、百発零中。彼らの身体をわずかに逸れて、檻の奥にある壁にぶつかるばかりなんだ。
「……投げすぎて、疲れた。今日はこれくらいにしておく」
一人がやや顔を青くしながら、去って行く。だが、その顔色の悪さは本当に疲労から来ているのか。
それから続いて、二人、三人とその場を離れていき、他の通行人たちも彼ら三人のそばで足を止めることなく、気味悪そうに一瞥していくだけになっていく。
――悟らせないようにかわしているのか、それとも単なる偶然なのか。いずれにしても、やるじゃないか。
檻の見張りに立っている兵の中には、感心する者もいた。伊達に領主の屋敷に乗り込んでの、暗殺計画を立てているわけではなさそうだ。
今すぐにでも始末した方がいい、という声も上がりかけたが、領主からの許可が下りない。おそらく、こいつらの底が知れないうちは、この扱いが続くとみていいだろう。
夕食の水とわずかばかりの肉を、格子越しに中へ入れていく兵たち。いよいよ辺りは、薄暗さを増し始めていた。
辺りの暗さが目立ち始めると、これまで饒舌だった彼らは、とたんに一切しゃべらなくなってしまう。
さすがに疲れたかとか、この程度で黙り込んでしまうようでは、実のところたいした胆力も持っていなかったようだ、とか口々に噂をし始める兵たち。
檻の中をのぞき込んでみると、彼らは正座をしたままうなだれて、ぴくりとも動かない。それも全員が同じ姿勢。三者同様となると、なんとも気味が悪いものを感じざるを得なかった。
「なあ、昼間の連中みたいに石を投げてみるか?」
兵のひとりが提案する。
眠っているのであれば、石を当てられれば起きるだろう。だが、昼間に見せた異様な事実を見せる力。それを夜に蓄えているのだとしたら、彼らに当てることができるかもしれない。
一度、そう思ってしまうと、とどまることを知らないのが人間。言い出しっぺの兵はだしぬけにそばへ転がっていた石を拾い、格子越しに彼らの身体へ投げつけてみた。
次の瞬間、石をぶつけられていたのは、投げたはずの兵だった。
確かに彼の投げた石は、ひとりのうなだれた頭部を捉えたんだ。けれども「かーん」と甲高い音がしたかと思うと、石がまっすぐに跳ね返った。
まさかこのようになるとは考えていなかった兵は、かわすことができず、石は彼の脳天に直撃。もんどりうって、倒れてしまう。
他の兵たちが心配して駆け寄ったところ、ひどいけがではなかった。ただ、あの跳ね返った音からして、肉を相手にしていたとは思えない。鉄の塊のようだったとは、その場に居合わせた誰もが思ったこと。
試しに持っている槍の穂先を格子の間から通し、彼らの身体に触れてみると、やはり人のものとは思えない頑健さ。ちょっと触れただけで柄を伝い、握る両手にしびれが走る。
もう少し力を入れて突いてみよう。そう思う者は現れないまま、彼らは交代を挟んで夜通し彼らを見守り続けたんだ。
翌朝の日の出頃。彼らはほぼ同時に、むくりと顔を上げると、早くも声を出し始めた。
「昨日は、なんとも手強かったな」
「そうだな。ここのところ、ほぼ毎日だ。そろそろ手に負えなくなってきたかもしれん」
「まったく。昨日、余計なことをしてくれなければ、もっと力を出せたものを」
愚痴混じりの会話に、見張りの兵たちはどきりとする。自分たちの所業を、暗に責められているかのような気がしたからだ。そしてあたかも、昨日から口にしていた計画が進んだかのような口ぶり。
すぐに兵のひとりが領主の屋敷へとって返し、あらましを告げたものの、特に屋敷に異状は見られず、ますます首をかしげてしまう事態に。
昨日のこともあり、日が高くなって人の往来が見られるようになっても、誰も彼らを構おうとはしなかった。兵たちもあくまで見張りの任務を全うし、三人はそのいずれも関せずと言わんばかりに、また「どこそこへ行こう」「こんな目に遭わせてやろう」と、大きな声で触れ回る。
不気味ながらも、時間と共に興味を惹かれたひとりの兵が、彼らに話を聞いてみたところ、彼らはこれを「密談」と言ったそうだ。
「そんなに声が大きくては、密談も何もないだろう」という兵の突っ込みに、三人は哀れむような視線を送る。
「明るみに出る、とはよく申すことだが、その逆をそなたは考えたことがあるか? 我らが日の世界を生きているように、暗がりに住まう者は大勢居る。そいつらは夜に、影の中に潜み、常に機会を狙っているのだ。
我らはそこに住まう者どもの悪さを、とっちめる。先に挙げた者たちも、その影が夜に悪さをしようとするでな。食い止めに言ったまで。
その企み、闇の中、影の中では、文字通り『暗がりに出る』やもしれぬ。だからわざわざ日の当たるところ、きゃつらの耳目の及ばぬところで相談をしておるのよ」
彼らはそれからも、毎晩、じっと動かなくなり、明けると相談事をし続けたらしい。
しかし、数ヶ月後。彼らを面白がっていた領主が急病に倒れてしまい、後を継いだ領主は彼らを不気味な存在とみなし、遠方へ放逐してしまったのだとか。
そして、彼らを失いし、その晩。町に住む者の半数が、原因の分からない怪死を遂げる。次の日には、生き残った者の半数。その次の日も、生き残った者の半数……。
すでにそこは人が暮らせる場所ではなくなっており、生存者はほうぼうへと散っていき、この出来事を語り継いだとか。




