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明るみの密談 

掲載日:2019/03/10

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共に、この場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 あー、面白かった!

 今のゴールデンタイムのアニメの中じゃ、一番のできなんじゃない、これ? 最初の3話あたりがあまりにダメダメで、切っちゃおうかなあと思ったのに、化けたなあ。ネットでも1から3話までは我慢、と評価されているだけあるよ、これ。

 こーちゃんは、誰かに評価されたいと思う? て、愚問だったか。

 創作の世界しかり、仕事の世界もしかり。評価されなきゃ、まともな扱いを受けられない可能性も出てくるもんね。正当に評されるっていうのは、いつの時代でも達成しがたい難題だよね。

 その報われない事実に耐え、歩んでいくのか。それとも道を逸れ、楽な邪道に手を染めてしまうのか……。世の中、すべてがつまびらかになることがあれば、どれだけの人が正しい道を歩んでいるのが、分かるだろうかね。

 そういえば最近も、人の評価に対する少し興味深い昔話を聞いたんだけど、耳に入れておかないかい?

 

 むかしむかしのこと。

 とある男が引っ捕らえられ、市中引き回しの刑に遭っていた。罪状は不敬罪。

 その領地では領主の指示により、市内に不穏分子の種が芽を出していないか、常に見張る間諜の役割を担う者が多く存在していた。これまでも幾人か、男と同じようなことで検挙されている。

 ただ他の連中と男が違う点は、白昼堂々、大路で領主の館への潜入と暗殺について、大声でわめいた点だ。

 たいてい、このような大それたことは、物陰や家の中といった誰にも聞かれない場所で密談し、実行に移すもの。間諜たちもそう考えていたから、隠れ蓑となりそうな建物、挙動不審な人物に関して、常日頃、目を光らせていた。

 それが露店立ち並ぶ大路で、声を張り上げるものだから、目立つのなんの。たちまち引っ捕らえられて棒で何度も打たれた男。けれども領主からの評価は、そこまで低くなかった。


「皆が恐れ、こそこそと不満を垂れるところを、なんとも剛毅な心意気よ。いつまでその舌を回すことができるか、試してやろうではないか」


 引き回しの際にも、集まる人々の顔を見やっては、時々、「お前さんの家に、近々、お邪魔をするぞ」などと、脅迫めいた言葉を漏らす始末。そのために住民たちの男への悪感情は、一日の間でみるみるうちに高まっていった。

 領主の指示により、彼は檻付きの車の中へ入れられ、見世物動物のごとき扱いを受けることに。そばには監視の者がつけられ、通りかかる者は格子越しにその様子を見ることができたらしい。


 しかし、事態はそれだけで終わらなかった。

 同じように領主の館への侵入と、暗殺についてわめく者が現れ始めたんだ。そいつらもたちまち同じように引っ捕らえられ、引き回しにされて、檻の中へ。


「なあ、領主の館へは正面から入った方がいいか?」


「いや、それじゃあ気づかれるかもしれない。屋根裏からお邪魔というのはどうだ?」


「いやいや、いずれも目立ちすぎる。いっそ土の中から入り込むというのは?」


 三人が揃うと、それはそれはうるさくて仕方なかった。

 当初は、町外れの三方に配置されていた3人だが、揃いも揃って、とてつもない大声。町の端から端まで届く音量で会話をするものだから、他の住民たちにとっては騒がしいことこの上ない。やむなく、三人を一カ所に集めたところ、どうにか人並みの声にとどまってくれたとのことだ。


「てめえら、うるさすぎるんだよ!」


 さんざん耳を悩ませてくれた三人に、住民たちは腹立ち紛れに、石を投げつけることがあった。それに対し、彼らはそれらが何でもないかのように会話に興じ続け、ほとんどの者は反応のなさに飽きたそうなんだ。

 しかし、負けん気を露わにし、更に石をぶつけんとする者もいた。かの耳障りなおしゃべりをやめさせてやる、と。


 狙うとしたら、目やのど。どうせ罪人なんだから、何をしても文句は言わないだろうと思い、めいめいがよく狙った上で、彼らに石を投擲した。

 だが、そのことごとくが外れてしまう。目にぶつかるよう、のどにぶつかるよう、しっかりと調整しながら狙っているのに、一向に命中しない。

 それならと、座っている彼らの足を目がけた時には、自分がよほどのへまをしない限り、ぶつけることができた。しかし、あざをこさえさせ、血を流させることはできても、彼らの会話を止めるには至らない。

 されど、いざ急所を狙う段になると、百発零中。彼らの身体をわずかに逸れて、檻の奥にある壁にぶつかるばかりなんだ。


「……投げすぎて、疲れた。今日はこれくらいにしておく」


 一人がやや顔を青くしながら、去って行く。だが、その顔色の悪さは本当に疲労から来ているのか。

 それから続いて、二人、三人とその場を離れていき、他の通行人たちも彼ら三人のそばで足を止めることなく、気味悪そうに一瞥していくだけになっていく。


 ――悟らせないようにかわしているのか、それとも単なる偶然なのか。いずれにしても、やるじゃないか。


 檻の見張りに立っている兵の中には、感心する者もいた。伊達に領主の屋敷に乗り込んでの、暗殺計画を立てているわけではなさそうだ。

 今すぐにでも始末した方がいい、という声も上がりかけたが、領主からの許可が下りない。おそらく、こいつらの底が知れないうちは、この扱いが続くとみていいだろう。

 夕食の水とわずかばかりの肉を、格子越しに中へ入れていく兵たち。いよいよ辺りは、薄暗さを増し始めていた。


 辺りの暗さが目立ち始めると、これまで饒舌だった彼らは、とたんに一切しゃべらなくなってしまう。

 さすがに疲れたかとか、この程度で黙り込んでしまうようでは、実のところたいした胆力も持っていなかったようだ、とか口々に噂をし始める兵たち。

 檻の中をのぞき込んでみると、彼らは正座をしたままうなだれて、ぴくりとも動かない。それも全員が同じ姿勢。三者同様となると、なんとも気味が悪いものを感じざるを得なかった。


「なあ、昼間の連中みたいに石を投げてみるか?」


 兵のひとりが提案する。

 眠っているのであれば、石を当てられれば起きるだろう。だが、昼間に見せた異様な事実を見せる力。それを夜に蓄えているのだとしたら、彼らに当てることができるかもしれない。

 一度、そう思ってしまうと、とどまることを知らないのが人間。言い出しっぺの兵はだしぬけにそばへ転がっていた石を拾い、格子越しに彼らの身体へ投げつけてみた。


 次の瞬間、石をぶつけられていたのは、投げたはずの兵だった。

 確かに彼の投げた石は、ひとりのうなだれた頭部を捉えたんだ。けれども「かーん」と甲高い音がしたかと思うと、石がまっすぐに跳ね返った。

 まさかこのようになるとは考えていなかった兵は、かわすことができず、石は彼の脳天に直撃。もんどりうって、倒れてしまう。

 他の兵たちが心配して駆け寄ったところ、ひどいけがではなかった。ただ、あの跳ね返った音からして、肉を相手にしていたとは思えない。鉄の塊のようだったとは、その場に居合わせた誰もが思ったこと。

 試しに持っている槍の穂先を格子の間から通し、彼らの身体に触れてみると、やはり人のものとは思えない頑健さ。ちょっと触れただけで柄を伝い、握る両手にしびれが走る。

 もう少し力を入れて突いてみよう。そう思う者は現れないまま、彼らは交代を挟んで夜通し彼らを見守り続けたんだ。


 翌朝の日の出頃。彼らはほぼ同時に、むくりと顔を上げると、早くも声を出し始めた。


「昨日は、なんとも手強かったな」


「そうだな。ここのところ、ほぼ毎日だ。そろそろ手に負えなくなってきたかもしれん」


「まったく。昨日、余計なことをしてくれなければ、もっと力を出せたものを」


 愚痴混じりの会話に、見張りの兵たちはどきりとする。自分たちの所業を、暗に責められているかのような気がしたからだ。そしてあたかも、昨日から口にしていた計画が進んだかのような口ぶり。

 すぐに兵のひとりが領主の屋敷へとって返し、あらましを告げたものの、特に屋敷に異状は見られず、ますます首をかしげてしまう事態に。

 昨日のこともあり、日が高くなって人の往来が見られるようになっても、誰も彼らを構おうとはしなかった。兵たちもあくまで見張りの任務を全うし、三人はそのいずれも関せずと言わんばかりに、また「どこそこへ行こう」「こんな目に遭わせてやろう」と、大きな声で触れ回る。

 不気味ながらも、時間と共に興味を惹かれたひとりの兵が、彼らに話を聞いてみたところ、彼らはこれを「密談」と言ったそうだ。

「そんなに声が大きくては、密談も何もないだろう」という兵の突っ込みに、三人は哀れむような視線を送る。


「明るみに出る、とはよく申すことだが、その逆をそなたは考えたことがあるか? 我らが日の世界を生きているように、暗がりに住まう者は大勢居る。そいつらは夜に、影の中に潜み、常に機会を狙っているのだ。

 我らはそこに住まう者どもの悪さを、とっちめる。先に挙げた者たちも、その影が夜に悪さをしようとするでな。食い止めに言ったまで。

 その企み、闇の中、影の中では、文字通り『暗がりに出る』やもしれぬ。だからわざわざ日の当たるところ、きゃつらの耳目の及ばぬところで相談をしておるのよ」


 彼らはそれからも、毎晩、じっと動かなくなり、明けると相談事をし続けたらしい。

 しかし、数ヶ月後。彼らを面白がっていた領主が急病に倒れてしまい、後を継いだ領主は彼らを不気味な存在とみなし、遠方へ放逐してしまったのだとか。

 そして、彼らを失いし、その晩。町に住む者の半数が、原因の分からない怪死を遂げる。次の日には、生き残った者の半数。その次の日も、生き残った者の半数……。

 すでにそこは人が暮らせる場所ではなくなっており、生存者はほうぼうへと散っていき、この出来事を語り継いだとか。




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― 新着の感想 ―
[一言] これは、かなり面白かったです! なるほど! だからこそより明るみの場所と大声で相談する必要があったのですね。 この発想には驚かされました。 領主様は面白がっていただけかもしれませんが、彼らを…
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