子供達
俺は不意に目を覚ました。
どのくらい寝てたのだろうか。
寝惚けている時間など無かった。
外から悲鳴が聞こえたのだ。
俺は大急ぎで外に出た。
そこに広がったいたのは、一目では規模が全く分からないくらい、広範囲に広がった、真っ赤な炎だった。
「は?」
その言葉しか出なかった。
その次の瞬間、知らないヒトの声がした。
「おいおいそこの兄ちゃん?まだ村人が家の中に潜んでいやがったのか。」
「なんだ…お前は…」
そのヒトは銃のようなものを所持していた。
そして、周りを見渡した時に不意に目に入ってしまったのは、ミルの親の遺体であった。
「これは…どういうことだ……」
「なんだ?兄ちゃん寝てたのか?サッサとお前らの言う天使様を差し出せば済む話なんだよ。」
天使様とは俺の事か?
「何故?」
「お前らの中のある人物がさぁ、口を滑らせてくれたんだよ。『私の村には天使様がいる。天使様のおかげで雨が降った。これで私の村はもう安全だ。』ってな」
つまり、この炎は、俺のせい?
「最初はここまでするつもりじゃ無かったんだよ。ちょっと騒ぎを起こせば天使様は出て来てくれるって思ったんだけどよ。来なくてさ。しかも村人は場所を聞いても、一向に答えやしない。だからさ、ちょっと俺らに楯突いたらどうなるか、教えてやったまでだよ。」
なんで?なんで俺を狙う。
「ん?そう言えば兄ちゃん、住民表に乗ってなかった気が…」
突然、そのヒトは吹っ飛んだ。
いや、俺が吹き飛ばした。
殴っただけで、そのヒトは吹っ飛び、その後瓦礫にあたり、気絶した。
ミルの親は死んだ。
なら他の村人はどこにいる?
でも、俺が最優先させたのは、
チェリーへ行くこと
俺は走った。
そして、チェリーに着いた。
子供達はその時、まだ生きていた。
そう、その時は。
「うえーん」
「おがあさーん!」
「お前ら!大丈夫か!」
「シー様!私は全然大丈夫だけど!」
ミル以外の子供達は泣いている。
こんな時、どうすれば…
なんて考えている内に、子供達が刺された。
ミル以外の、泣いていた子供達が。
アルとミミとベルが。
「あっ矢張りコイツです!コイツ!」
「はあ…妙な手間をかけさせるな。ミルをその他もろもろと同じ様に殺して欲しくなければ、大人しく着いてこい。」
死んだ。のだろうか。
「アル!?ミミ!?ベル!?起きて!」
ミルの悲痛な叫びが聞こえた。
「オマエノセイダ」
なんで…コイツらが死ななきゃならない?
「オマエノセイデ、平和ナコノ村モ」
な…ん…で…
「オマエノセイダ。オマエノセイデ、ミンナ死ヌ」
「お前らだな…?お前らなんだな…?コイツらを…殺したのは」
「そうだな。そうなるな。」と少年は言った。
なんでだよ…俺は何もしてない!
「生キテル事ガ罪ダ」
嫌だ!なんで俺が?
俺が?
俺は何もしてない
ただ、生まれて、ただ、居た、だけ。
なのに…………
「ついでに言うと、そいつの親らしき者も殺しといた。」と少年はミルを指さし言った。
「え………」とミルは言った。
どんな顔をしていたのだろう。
丁度死角になり、分からなかった。
でも、知らなかったということは…
コイツらは、きっと俺が寝てる間も、ずっとここに居たのだろう。
少し離れた、村から見える、炎に怯えながら、
俺が来てくれると、信じて、待っていたのではないか?
でも、俺は来なかった。
今の今まで、来なかった。
俺が、呑気に、寝てたから。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
響く、俺の悲鳴。
それでも、少年は冷静に、ナイフを構える。
「オマエナンカイラナイ。オマエノセイデ皆死ヌ。オマエナンカ……死ンデシマエ!」
「罪人」
「ごめんなさい…」
突如口から溢れた、その言葉。
突如目から溢れた、その涙。
突如降り出した、その雨。
決して降り止まない、その雨が。
「なんで…なんで俺なんだよ!なんで…こんなに苦しまなきゃいけないんだよ!…」
何故、俺が。
何故?その言葉が、ずっと頭にこびり付いて、離れなかった。
「シー様!」
突如、ミルが手を広げ、俺の前に現れた。
その途端、ミルは倒れた。
ミルの胸部から血が出ていた。
少年のナイフにはたっぷり新鮮な血が着いていた。
その時、唐突に理解した。
ミルは、俺を庇い、怪我を負った。
俺が、悲痛を叫んでいる時に、
なんで、救えなかった。
せめてでも、ミルだけなら、救えただろう?
直ぐそこに居たのだろう?
何故、はやく逃げようとしなかった?
「何故……何故だ!」
███の眼は赤く光っていた。
「死ね…………!」
『圧』だろうか。
何かが。
他の者が決して動けない程の、『何か』が。
まるでその場の時間が、
止まったかのように、
少年と男は消えていた。
いや、倒れていた。
音も無く、
倒れていた。
昔からの決まりだったはず。
「鬼ヲ決シテ怒ラセルナ。」
俺は、ミルを抱えて走り出した。
まだ、助かるかもしれない。
そんな希望を抱えて、走り続けた。
「ミル!しっかりしろ!大丈夫だ!村へ行ったらきっと、皆が助けてくれる!」
俺は必死に叫び続けた。
この間も、何故、あのことについてすら気付けなかったんだろう。
「シー様…聞いて……」
「なんだ!」
「私………ね………シー様……大好き………」
「そうか…助けてやるからな!」
「だから………ね………?………生……きて………」
「お前も生きるんだよ!」
「約束……して……」
「ああ!俺は死なない!約束だ!」
「▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒」
「へ?」
「バイバイ………大好き………だよ………スズ様……」
最後に微笑んだミラは、俺を突き飛ばし、俺は、崖から落ちた。
湖か、海かに落ちた時、唐突に理解した。
あぁ、そうか。
ミルは、彼女は、俺を助けたのだ。
ミルは、きっとあの衰弱した体だと、きっと足でまといになると思ったのだろう。
だから、自分を捨て、俺を助けようとした。
自分を捨て、俺を落とした。
「ミ……ル………」
なんで?
本当に、何も返せていないではないか。
「有難う」すら、言えてなかった。
俺のせいでこんな事になったのに。
何故、自分を捨ててまで俺を助けた。
全く、分からない。
ヒトと言う生き物は、全く、理解出来ない。
「ミル……ミル………なんで………」
決して、降り止まないこの雨の意味は、誰も知らない。
ある恨まれ続けた少年の、悲痛な叫びをかき消しているのかどうかも、誰も知らない。
少年は、フラフラと立ち上がり、走り出した。
どこまでも、どこまでも、降り止まない雨の中で。