名前・秘密の場所
「名…………前……………」
名など無かった。
いつも鬼の子や、忌み子、罪人と呼ばれてきたから。
忌み子には、罪人には名は要らないと、言われ続けたから。
名は、1人の立派な生き物という証拠。
俺には、要らない。
「無いよ」
「え?」
「俺に名前は、無いよ」
「なんで?」
「俺は………馬鹿だからかな………」
「よくわかんない」
「だろうな」
「じゃあ、お名前付けてあげる!」
「え?本当か?」
「うん!」
「じゃあ、頼む」
「えっとねぇ…じゃあ…………███!███だ!」
名前を付ける。
それは動作もない事だ。
名付けられた人物は、その名前を名乗れば済む話でもある。
しかし、俺はその名前が、どうしても、
ありがたくてたまらなかった。
「ありがとう」その一言が、口から出なかった。
「シー様!おはよう!」
「ん…あぁ……ミルか……おはよう」
この子はミル。
俺の名付け親とか言うやつでもある。
年齢は確か8歳。
ちびっ子組では最年長と時々偉そうにしていた。
俺が1番気に言ってる奴。
俺に1番接してくれる奴。
「あっミル!また抜け駆けしてる!俺たちもシー様と遊びたいのに!」
「そうだそうだー!」
「ミルはいっつもおいしいとこだけを持っていくんだァ!」
6歳のアルと、5歳のミミと、6歳のべナ。
ミルと一緒に、俺にひたすらまとわりついて来る奴ら。
「あーもう。全員遊べば問題無いだろ?いつもんとこ行くぞ」
いつものところとは、子供4人と、俺との秘密の場所。
いつもそこで遊んでる。
「あら、いってらっしゃい。私にも秘密の場所を教えてくれないかしら?」
「だーめ!」
「ラベ様と私達の秘密!」
微笑む、村人。
笑う、子供達。
この時は知らなかった。こんなに楽しい生活が、崩れ落ちるということを、それも、忌み子せいだなんて。
「オマエノセイダ」
「ハァハァ………………はっ!」
「あっシー様やっと起きたァ!」
「シー様ったら昼寝長すぎ!」
「皆もう起きたよ!」
あぁ、そうか。
俺は秘密の場所に来て、昼寝をした。
秘密の場所
俺らはここの事をチェリーと呼んでいる。
村から少し離れた、大きな桜の木の下。
この桜の木は、季節など関係なく、毎日咲き誇っていた。
何故こんなに綺麗な場所に、大人達は来ないのだろうかと不思議に思うほど、とてもとても、美しい桜の木だった。
「シー様、顔色悪いよ?」
「………そうか?」
その時、ある事に俺は気付いた。
気持ちが悪かった。
ヒトは具合が悪くなるという。
以前の俺なら、俺は気持ち悪いという事にすら気付かなかっただろう。
俺は子供達の顔を見て、こう言った。
「今日はなんか、具合が悪いから、遊ぶのはまた今度な」
何故かは分からない。
少し躊躇ってしまった。
躊躇った理由さえも、俺は分からなかった。
キョトンとした子供達の口から出てきた言葉は、思ったものと違った。
「そうなの!?大丈夫!?」
「シー様しっかり休んでね!」
「俺も最近風邪にかかったんだよ。移っちゃったかな…」
心配。
それは昔から俺には無縁だったと言うのに。
ほんと、この村に来てから毎日が楽しくてしょうがない。
「んじゃ帰るか!」
「えーー!」
「私達もうちょっと遊んでから帰るよ!」
「でもなぁ…」
俺と子供達が争っていると、ミルが任せて!という顔で
「心配は要らないよ!私はもうすぐ8歳だもん!皆を守るよ!」と言った。
「……分かったよ。何かあったら直ぐに帰ってこいよ。あとあまり遅くならないように!分かったか!」
「うん!」
家に帰った俺は、布団に包まり眠りに着いた。