Case 18-4-1
2020年8月16日 完成
2021年3月12日 ノベルアップ+版と内容同期
Case18-3の最後にて①の選択肢を選んだ人はこちらからお読みください
……いや、何が冒涜だ。
最初から侵犯したのは俺の方だ。
『メモの記述が気になって』って言えずに、好意で誤魔化した。
今更被害者振るわけにはいかない。
『成程ね、後ろ向きだ
でもそれで向き合えるのなら改めてキミに託そう』
『涼音を幸せにしておくれ』
◆◆◆◆◆◆
目を覚まし、端末は然程時間経過していないことを告げる。
エリスからの心配を他所に八朝は駆けだす。
人込みを掻き分け、反対側の出口へと急ぐ。
そして異変はすぐに訪れた。
(……何だ、何人かが何もない所を避けて通ってる)
それは化物の仕掛けた沈降帯、異能力者を辰之中に閉じ込める空間の歪みであった。
こんな町中に現れるのも珍しい上に、場所が場所である。
(……入ってみよう)
八朝が沈降帯に突入する。
エリスもいない状態で辰之中の明るすぎる星月夜が出迎える。
『Ghmkv!』
一気に二つのイメージを流し込む。
一つは隠密用として輪を
もう一つは退魔師たちに使ったもう一つの『形』の始動となる待針。
建物の陰を進んでいくと遠くから剣戟が聞こえ始める。
更に近づいていくと、素早い化物に襲われている槍を持ったある人影が見え始める。
そして二人は囮の存在に気付く
「な……!?
来ちゃ駄目!!」
すると柚月が囮に急速接近する。
気が付くと薙刀が囮の身体を貫いていた。
「ねえ、ふうちゃん?
今まで『偽物』扱いされて辛かったでしょ、でももう大丈夫」
「私がそのままの『ふうちゃん』を愛してあげるから!!」
一気に薙刀を引き抜く柚月。
だが、刃に『何も』付いていない様子を見て顔を歪ませる。
そして数秒もしないうちに目線が合う。
「そんな所に隠れてないで
言ったでしょ、愛してあげるって」
「お前にとっては『殺す』事も愛なのか?」
「そうじゃないよ
これは過程……私も辛いけど、これで愛せるようになるの」
警戒する八朝と、両者の間に立ち塞がる三刀坂。
もう既にこの場の誰一人信じることは出来ないが、それでも刃を収める訳にはいかない。
「大丈夫、キミは私が守るから」
「本当にそう言っても良いの?
彼、あなたの事も『メモ』で知っただけなのに」
今度は三刀坂まで反応してしまう。
よく見ると、殺した筈の囮が未だに消えていない。
投げ渡された手帳を三刀坂が黙読する。
「……これ、本当の事なの?」
心臓が凍り付きそうであった。
一度、自分の深層まで分かり合った相手に否定されるのがここまで怖い事なのか?
普段からクラスメイトに『転生者としての自分』を否定されるのに慣れている筈なのに?
「……ああ、本当の事だ」
「ええそうでしょ、失望したでしょ
あなたの事なんか只の『記憶遡行』の道具にしか思ってない!」
「こんな矛盾を抱えたままじゃ誰も幸せにならない!
だからさ聖堂ちゃん……あの時の約束を果たそうよ?」
振り向いた三刀坂の表情が読めない。
それでも、何故か泣き腫らした彼女の目をしっかりと見続ける。
そして固有名と共に膝を屈したのは……
「な……!?
聖堂ちゃん!?」
「言ったでしょ、私は信じるって
こんな見ず知らずの人の為に頑張ってくれた『偽物』を見捨てないって!」
必死に過重を振り切り、三刀坂の攻撃を躱す。
今度は異能力を発動する余裕がなく、騎士槍が曲がっていない。
連続突きを薙刀でいなしていく。
「どうしてメモがあるのに……ッ!」
「あれに書かれてる字は八朝君のものなの!」
「だから何なのよ!
道具にしている事には変わりないでしょ!!」
「『偽物』は約束してくれたの
いつか必ず『本物』に会わせてくれるって!!」
三刀坂の過重の籠った一撃が柚月を捉える。
薙刀で防ぎぎったとはいえ反動で飛ばされ、衝突点に痛々しい白化が見られる。
「だったら何なのよ
私にだって譲れないものはあるの!!」
そうして柚月が尋常ではない動きで八朝に近づく。
全ての災難を『見切った』ような、そんな仮想の世界でしか見た事のない奇跡。
そして間合外から突きを放ち、だが斬撃だけが異様に伸びる。
……どうやら。彼女は見落としに気付けなかったらしい。
『悪魔よ、悉く消え失せよ!』
囮の口から迸ったのは存在しない詠唱。
それは『退魔師』との鍛錬の成果たる連鎖発動。
即ち、『対象』の摘出という新しい状態異常が波動となって全員を捉える。
そして、柚月の斬撃が接触直前で砕け散った。
「くっ……!?」
そうしてまたも不可思議な動きで柚月が消え失せた。
後には八朝と三刀坂と、辰之中が消えて戻ってきた数多の雑踏が残された。
◆◇◆◇◆◇
DATA_LOST
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■■■■■■■ 18-a 急襲 - The Raid
CONTINUE
続きます(これ以上は何も言うまい)




