表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/582

Case 18-3

2020年8月15日 完成

2021年3月12日 ノベルアップ+版と内容同期


 今日は三刀坂(みとさか)と買い物(という名の気分転換)の予定である。

 だが、肝心の三刀坂(みとさか)の様子が少々おかしい……




【5月10日(日)・朝(10:00) 篠鶴地区・篠鶴駅】




 この日は三刀坂(みとさか)と買い物をする約束があった。

 先に着いていた三刀坂(みとさか)に挨拶と謝罪をする。


「おはよう、遅れて済まなかった」

「……おはよ」


 今日の三刀坂(みとさか)はいつになく様子がおかしかった。

 まるで4月ぐらいの頃に戻ったかのような印象であった。


『み、みーちゃん

 一体全体どうしたの?』

「何でもないよ……ね、キミ?」


 いつになく視線が痛い。

 何かをしたわけでもないのに、責められている感じがして全く落ち着かない。


 嫌な予感が募る八朝(やとも)に、更に別の声が飛び込んでくる。


「おーい! ふうちゃーん!」

柚月(ゆづき)!?」


 天ヶ井柚月(あまがいゆづき)がこちらへとぱたぱたと駆けてくる。

 思わずエリスとばったりと目が合ってしまう。


『え、どうしてここを……』

「当たり前でしょ

 ふうちゃんの事なら何でも知っていますから!」


 何故か柚月(ゆづき)から恐ろしい気配を感じてしまった。


「へぇ……柚月(ゆづき)ちゃんの事は名前呼びなんだね」


 更にささやかで棘のある言葉で苦しめられる。

 早速心労で死にそうになっている八朝(やとも)には気づくことが出来なかった。


 三刀坂(みとさか)が冷や汗を拭い、必死で誤魔化しながら催促した。


 結論から言うと、正午に至るまでの2時間の間一触即発の空気となっていた。

 浮気・バッティングの類、普通であれば万死に値する愚行なのであるが何故か破綻に至っていない。


 その理由の一端が以下にある。




「ねぇ、ふうちゃん

 これおいしいよね!」

「ああ、そうだな」


 元々の予定にあった雪代屋の新作スイーツを食べている。

 最早味すら分からず、辛うじて感じた冷感しか味わえない程に憔悴しきっている。


 そんな八朝(やとも)の様子を心配してなのか腕を抱いてくる柚月(ゆづき)

 三刀坂(みとさか)からの敵意が更に倍加した。


 冷や汗を拭って笑顔を取り繕うとすると、柚月(ゆづき)から切り取ったクレープのひと塊が突っ込まれる。

 火に油を注ぐとはこのことである。


「……」

「ん、やーねぇみーちゃん

 そんな羨ましそうな顔して、どうしたの?」

「は? そんな訳ないでしょ、私が好きなのは別のだし」

「だよねぇ」


「おい、ちょっと待て

 今さっき何かとんでもない事を……」


「キミは黙ってて」

「ふうちゃんは黙ってて」


 思わず記憶の手掛かりになりそうなことを聞いた瞬間、二人からの同時言撃を食らう。

 撃沈寸前に見た二人の様子はラブコメ特有の剣呑な修羅場の雰囲気ではなかった。


 まるで三刀坂(みとさか)の方が八朝(やとも)達二人を怪異か何かと見るような、そんな緊張感が伝わって来た。


「じゃ、次どこ行く?」

「ここの近くに可愛いお店あったよね」

「それじゃそうしよ」




 これに似たようなやり取りが何回か続き、正午過ぎに至ってようやく二人の意見が分かれた。

 八朝(やとも)はずるずると引きずられるように柚月(ゆづき)に手を引かれていった。


「どう?」

「ああ、可愛いな」

「えへへ……ありがと!」


 柚月(ゆづき)が試着室で着替え、出てくるなりくるりと一回転してみせる。

 素直な感想を言うのに余計なリソースは必要ないが、それを押しのけてほぼ喧嘩別れとなった三刀坂(みとさか)の事が気になる。


「どうしたの、もしかしてみーちゃんの事?」


 会計が終わり、ぶらぶらと歩いていると不意に柚月(ゆづき)からそんな指摘が飛んでくる。

 無言かつ無反応、図星を表す反応にこれ以上のものは無い。


「正直に言うと、みーちゃんと仲良くなるのはオススメできないよ」

「……どういう事だ?」

「わたし、みーちゃんの秘密知ってるの」


 驚愕でその場から一歩も動けなくなる八朝(やとも)

 所属組織、本心以外に更なる隠し事があるとは勘づいていたが、それを柚月(ゆづき)が知っているとは想定外であった。


「……秘密?」

「そ、秘密

 みーちゃんってFFなんだよね」


 FFとは十死の諸力フォーティーンフォーセスを表す隠語である。

 初めて八朝(やとも)が表情らしい表情を見せた。


「ん、何その反応……知ってたの?」

「まぁな」

「じゃあみーちゃんの両親が篠鶴機関の事件(イムム・コエリ)に殺されたのも?」


 初耳であるが、反応してはならない。

 その情報は三刀坂(みとさか)以外が軽はずみに語ってはいけない内容であるからだ。


「ふーん、じゃあさ……」

「ついでに俺じゃなくて『転生前の俺』が好きなのもな」


 それだけで柚月(ゆづき)を振り切れると思っていた。

 だが、当の本人はまるで今までの雰囲気を破却するような妖しい笑みに歪んでいた。


「へぇ……だったら話は早いじゃん

 わたしなら『今のふうちゃん』が好きだから、この際乗り換えてみない?」

「何の事だ?」


「わたし、ふうちゃんの為なら何でもしてあげられるよ」


 握られた手が胸へと引っ張られていく。

 多少強引であるが、その手を引っぱたくように無理矢理離す。


「何か勘違いしているようだが、俺と三刀坂(みとさか)はそういう仲ではない」

「だからじゃん、わたしと……」

三刀坂(みとさか)とは『約束』があるからな」


 今度は柚月(ゆづき)の顔が険しい物へと変わっていった。

 このまま言いくるめられると思い、二の句を継ごうとした所に柚月(ゆづき)が更に割って入る。


「ふうちゃん!

 もしかして、みーちゃんの事と左海(さかい)ちゃんの事重ねてない?」

「な!?」


 八朝(やとも)の驚愕を二者二様に捉えた。

 柚月(ゆづき)は図星の合図として、八朝(やとも)は『何故それを知っている』という純粋な驚きとして。


「図星だよね?

 わたしは今のふうちゃんが好きだよ、だから記憶を取り戻すなんて実らない努力を……」

「それでも、三刀坂(みとさか)には悲しい顔をさせたくない」


 八朝(やとも)がそう言い捨てて|立ち尽くす柚月(ゆづき)から去っていった。

 諦めないから、と聞こえた気がしたが気のせいだろう。




【5月10日(日)・昼(13:21) 篠鶴地区・篠鶴駅構内1F】




 数分歩いても三刀坂(みとさか)の行方が掴めない。

 そうしているうちに、またあの頭痛(・・・・)が襲ってきた。




◆◆◆◆◆◆




 蘇ったのは、笑う卵ヴィヒテルドライヴィヒテルドライの時に見た『謎の記憶』。

 自分が三刀坂(みとさか)から血を採取して眺める場面。


 瓶に映る『GRAMUMBRA(グラムアンブラ)』の文字。


『これで最後だ、よく耐えたね涼音(すずね)

『今の涼音(すずね)闇属性電子魔術(グラムアンブラ)はその他構成員とほぼ変わりがない』

『まずは第一歩だ』


 どうやら満足そうに笑っていたらしい。

 だが、課せられた難題は多い……


 『人格剥落』の後遺症が不可避な異能力完治。

 そして『この場を覗いている誰か』への重要なメッセージ……


(この場……?)


 気が付くと意識はTPSゲームの如く実体から離れ

 その『実体』と目が合ってしまう。




『やあ、ようやく会えたね『偽物』さん

 君には色々と知らなくてはいけないことがあるんだ』




 天地がひっくり返りそうな程の衝撃を受ける。

 だがそれを『本物』は穏やかに見ていた。


『ご覧の通り涼音(すずね)十死の諸力フォーティンフォーセズ

 至天の座の十四席『聖堂(レサト)』、全てを圧する祭壇にして……』


闇属性電子魔術(グラムアンブラ)の生みの親だ』


 それは何となく気付いてはいた。

 記憶もそうだが、まず闇属性電子魔術(グラムアンブラ)の出所が分からなかった。


 十死の諸力フォーティンフォーセズが持っている、という乱暴な理解で済まされるような問題ではない。


『その通り

 僕が……極夜のアンタレスが、こうして必死に弱めた物を『誰か』が持ち出した』


『それが今の14席(かんぶ)となった』


 そして極夜(アンタレス)は物陰に身を潜める。

 その真意を問いただそうとしても『静かに』『この場に居るんだ』と返してくる。


『君の求めているものが見れる』


 そう言って数秒後に目を覚ます三刀坂(みとさか)

 周囲を見渡しているが、どうやら俺に気付いている様子はないらしい。




『始めまして、聖堂(センパイ)




 ドアから現れたのは柚月(ゆづき)と瓜二つの少女。

 だが、言動は事件後の変容した彼女のものとなっている。


『誰なの?』

『私は柚月(ゆづき)

 ううん……■■■■■、■■■■■■■・■■の■■■■■■』

『嘘言わないで

 柚月(ゆづき)ちゃんはそんな流暢に話さない』

『そう言わないでよ……これでも7つの世界を渡ったんだから』


 そう言って柚月(ゆづき)が困った顔をする。

 彼女はどうやら本当に親しげに会いに来たのだろうか。


『もう私は十死の諸力フォーティンフォーセズじゃない

 必死に異能力と戦うただの三刀坂涼音(みとさかすずね)よ』

『ええ、知ってるわ

 想い人(八朝)の為に必死で部活で頑張る普通の少女』


『でも長くは続かないわ』


 その言葉に怒った三刀坂(みとさか)騎士槍(アーム)を構える。

 それでも柚月(ゆづき)は無抵抗のまま困惑する。


『その口を閉じて』

八朝(やとも)君は今年の年末に殺されて『転生者』と入れ替わる』

『冗談にも言っていいのと悪いのがあるわ』

『事実だもの

 それじゃあもっと続けるわ』


 三刀坂(みとさか)が大きく踏み込み、騎士槍(アーム)で突きを放つ。

 柚月(ゆづき)を穿つはずだった一撃が、何故か不自然に捻じ曲がった。


 構え直した騎士槍(アーム)はまるで死神の鎌の如き有様となった。


『私はね、その転生者に用があるの

 だからこれが『本当』になった時、私と取引しない?』

『黙って』

『貴方には『身体』をあげる

 勿論、適切な処置を行えば目が覚めてくれるわ』

『黙って!!』

『その代わり私には魂を頂戴な

 大丈夫……その身体にとって異物なのだから取り除いても』


『黙れ!!!』


 三刀坂(みとさか)騎士槍(アーム)を霧に戻して再構築、そして攻撃を繰り返す。

 最後の方は騎士槍(アーム)の構造を無視した叩きつけとなったが、それも一切当たってくれない。


『それじゃあ約束したから退散するね』


 一方的に柚月(ゆづき)が切り上げて、部屋から退散する。

 一人残された部屋の中で三刀坂(みとさか)がへたり込み、涙を流す。


『どうして……どうして二人(・・)して……

 嫌……もう離れないでよ八朝(やとも)君……』


 一連の会話を聞いた俺は胸が締め付けられる思いだった。


 彼女の感情は最初から自分に向いていないことは直感していた。

 それも悲しい事だが、構図があの時の……字山(あざやま)左海(さかい)の時と全く同じ。




 ……誰だ?

 特に左海(さかい)って()は?




『死なないでよ……離れたくないよ……』


 うわ言のような呟きを繰り返し続ける三刀坂(みとさか)

 それも必死になって彼を助ける左海(さかい)のようにも見える。


 そこに極夜(アンタレス)からの問いがやって来る。


『これが全てだが、まだ疑っているようだね

 ……分かったよ、『目を覚ます』か『まだ見る』か選ばせてあげる』


 彼の言葉は俺の核心を射抜いている。


 今は悠長に『過去の記憶』に付き合う暇は無い。

 だが、この一連の『裏切り』が嘘である理由も探したい。


 それは『影割り鬼』と対決する寸前に聞いたあの言葉への冒涜に違いない。




 俺は……




  ①目を覚ます

  ②さらに探る





次でCase18が終わります


因みに、彼の言う思考誘導能力はCase06に登場しています

そしてCase06-5の日付をよく見ると……


そして選択肢もあります

さて、あなたはどちらを選んでくれるでしょうか


楽しみです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ