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Case 18-1:重量を操る能力(Ⅱ)

2020年8月13日 完成

2020年12月31日 題名変更

2021年3月12日 ノベルアップ+版と内容同期


 約束を破り、左の道の先で『退魔師』と戦った八朝(やとも)

 助けてもらった弘治より『カマイタチ』の突然変異を聞く……




【5月7日(木)・昼休み(13:00) 篠鶴学園高等部・教室】




 午前の授業が終わり、昼飯も早めに食べると眠気が満ちてくる。


 昨日は『退魔師』に『太陽喫茶に迫る影』そして『カマイタチ』の超強化。

 どれか一つを取ってもEkaawhs級の重要案件なのだから頭痛が加速してしまう。


 机に突っ伏そうとすると三刀坂(みとさか)の元気そうな声が割り込んでくる。


「うわっ

 朝からもだけど顔色すっごく悪いよ?」

「そういうもんか?」

「ほら、鏡貸してあげるから」


 三刀坂(みとさか)から渡された鏡で自分の黒ずんだ(・・・・)顔を観察する。

 今一ピンと来ていない八朝(やとも)三刀坂(みとさか)が呆然としている。


『しょうがないよ

 昨日の夜はスパルタだったし』

「す……スパルタ……」


 エリスの言い方があらぬ方向に解釈されたらしいが、訂正する気力も無い。

 目を瞑るだけでもマシなのでそうしようとしても机を揺らされてどうにもならない。


「まーたやってるよあの二人」

「ちょ……!?

 私達そういう関係じゃ……」

「てか、半年かけてようやく思い出したのかって感じだよな」


 近くの人に揶揄われる三刀坂(みとさか)

 妨害は終わった筈なのに、何故か目が冴えてしまう。


(半年前といったら、俺が転生するより前だよな……?)


 未だに思い出せない記憶に、ようやく手が引っかかった感覚。

 だが、同じくらいに『元の世界の記憶』との齟齬に苦しめられる。


(俺は間違いなく鷹狗ヶ島にいた筈だ

 なのに……それを証明する記憶が足りない)


 個々の思い出はあるのに、それが上手く記憶のレールの上に噛み合わない。

 必死に探そうとしても記憶遡行ではないノイズの頭痛に阻まれる。


 このままだと『本物』に飲み込まれる……?


「え、本当に大丈夫なの」

「……いや、ちょっと考え過ぎただけだ」


 手を握ったり開いたりして確かめてみる。


「本当にどうしたんですか八朝(やとも)さん」


 ついには鹿室(かむろ)にまで心配されたので、今朝の出来事を話す。

 『地下通路の奥』、『退魔師』、『妖魔』……話す度に皆の二人の顔が曇っていく。


「間違いなく騙されてますね」

「ま、まぁ記憶が無いんだし……」


 三刀坂(みとさか)のフォローが逆に痛々しかった。

 どうしたものかと三者三様に考え込むと、三刀坂(みとさか)が何かを閃く。


「あ、これ第二異能部の案件にできない?」

「いいかもしれませんね」


 二人して納得されるが、八朝(やとも)には受け入れがたい内容であった。


「待て、どう考えても身内案件だ

 その間誰が他の案件に掛かるつもりだ」

「そう言われてもこの状況ですと、ね」


 鹿室(かむろ)に促されて周囲を見ると、妙に皆が慌ただしい。

 暫くは何が起きたか分からなかったが、原因探しに朝の記憶まで浚った瞬間に気付く。


「『保安条例』か」

「ですね、異能力者の集会禁止

 クラブ活動も対象に入るかどうかで気が気じゃないんですよ」

「だったら尚更比婆(ひば)が納得しな……」


 と言ったところで、三刀坂(みとさか)の表情に気付く。

 何故だか薄暗く、こちらに妙な敵意の気配を漂わせる。


「もしかして、浮気?」

「おい、どこをどう解釈したら……」

「だって八朝(やとも)君、女の子の友達いっぱいいるし」


 その一言で一瞬だけ周囲が静かとなる。

 やがてさざ波のように話題が自分のものに変わっていく。


 ここでの禁句は『退魔師』も女性だという事である。


「そんな訳無いだろ

 だったら実際に会って確かめてみるといい」


 恐ろしい駆け引きの結果なのかビギナーズラックなのか

 結局八朝(やとも)の譲歩という形でこの話に結論が付いた。




 頭を冷やそうとベランダに出ると、鹿室(かむろ)まで付いてくる。

 手摺に身を預け涼んでいると鹿室(かむろ)からこう切り出される。


「それだけが原因ではないんですよね?」

「……それだけとは何の事だ?」

「貴方がこんな眉唾話を信じ込む理由

 大方Ekaawhs級の化物(ナイト)案件なのでしょう?」


 4月の記憶喪失も相まって、彼に対する親近感も少なかったが

 この察しの良さは単なる他人だと断じれるものではない。


「……『カマイタチ』が6つ目(マイア)級に進化した

 ついでに、その襲撃ルートの延長線上の交点に太陽喫茶がある」

「な……!?

 また狙わ(タゲら)れてるんですか!?」

『ううん、ふうちゃんに狙わ(タゲら)れている履歴は無いよ』


 それを鹿室(かむろ)が信じられないような視線を投げる。

 だが、八朝(やとも)にも明かせない事情が一点存在している。


 容疑者候補に身内がいる。

 そして鹿室(かむろ)ぐらいに伯仲する相手が絡めば、平和的な解決は遠い。


「貴方……Ekaawhsでさえ苦戦していたのに

 それ以上の危機を自分で解決しようとしてたんですか?」

「まぁ、そうなるな

 今回に限っては俺だけでもなんとかなる性質だからな」

「……本当に貴方に話を切り出して良かったと思いましたよ」


 牽制は無意味であったらしい。

 とはいえ、彼よりも早く解決すれば万事上手く行く。


 その為にも『退魔師』の助力は必要だ。


「まぁ、まずは比婆(ひば)が許すかどうかだな」

「そう思ってるなら貴方も必死に考えてくださいよ」


 昼休みが終わるまで鹿室(かむろ)との作戦会議が続いた。

 因みに比婆(ひば)からの返事は概要を話し始める前にGOサインが出た事を付記しておく。



ここまで読んでいただきありがとうございます

DappleKiln(斑々暖炉)でございます


さて、今回もヒロイン掘り下げ回となります

具体的には三刀坂と柚月の違いがクローズアップされます


彼女らは一体何を思っているのでしょうか?

無論、どちらも当て馬になる気は一切ないでしょう


……エリスがヒロインじゃないのか、ですか?

そう言う見方ももしかしたらあるかもしれませんね

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