Case 17-2
2020年8月10日 完成
2020年8月10日 構成変更
2021年3月12日 ノベルアップ+版と内容同期
呼び出しを後回しにしてかねてから気になっていたもう一つの通路を突き進む。
その先にいた二人の少女から、あなたの依頼に答えてあげるという謎めいた言葉を投げかけられる。
【5月6日(水)・深夜(3:00) 不明・??の領域】
「依頼って何の事だ?」
「ええ、あなたは忘れたかもしれないけど私達は覚えている」
「うん、どうやらEkaawhsEdrumnも倒せているみたいだし、大丈夫なんじゃないかな」
その言葉で驚愕の表情を浮かべてしまう。
それを悟った間割が、八朝の胸ポケットを指差す。
「あなたはEkaawhsが倒せずに途方に暮れていた
噂、与太話、七不思議……転々と尋ね歩いて来たあなたが最終的に私たちの元に辿り着いた」
その時の様子を訥々と語る。
化物に攻撃され続け、ズタボロになっていた八朝を心配して話ぐらいは聞くことにしたという。
「びっくりしたよね
倒して欲しいんじゃなくて『強くして欲しい』だなんてさ」
「ええ、その約束を果たすために貴方に条件を付けた」
①Ekaawhsをどんな形でもいいので討伐する事
②メモ帳にあった左の道を誰にも知られず進む
「待て、それでは……」
「その通り、本当は受けるつもりはなかった
でもあなたは本当に達成してここまで来た」
間割が固有名も無しに依代を出して構える。
その姿がモーションブラーのように何重にも見えた気がして思わず目を擦る。
「構えなさい
私達に耐えれるかどうか見てあげ……」
「待って! その前に!」
二人の少女のうち、北欧系の民族衣装を纏った方の少女が八朝を隅々まで観察し始める。
変な所を触られそうになったので制止しても何食わぬ顔でチェックを続けている。
「まぁちょっとウザイだろうけど、別に害はないわ」
「酷くないそれ!」
何が何だか分からない顔をしていた八朝に
弥生時代からそのまま飛び出て来たような方の少女が助け舟を出した。
「まぁ、そんな顔はしないで
これでも理世も退魔師の一人、特に異物に対する嗅覚が鋭いのよ」
「異物?」
「ええ、異物よ
妖魔に与する要素は何であれ異物に当たるわ」
つまりは彼女らでも妖魔を押さえるので精一杯という訳である。
それが記憶喪失前の八朝からの依頼を断った理由であり、今こうしてチェックしている根拠でもある。
やがて鍵宮がサムズアップして問題なしである事を告げる。
「それじゃあ早速続きをしましょう、時間が押しているもの」
『ちょちょちょっと待って、何でもかんでもいきなり過ぎない!?』
そう文句を口にしたエリスが、氷漬けになって地面の上を転がされる。
「……ッ!」
「そ、そんなに怒らなくても……」
「安心して、氷漬けにしただけで命は奪ってないわよ」
その証拠に鍵宮は大切そうに氷漬けになったエリスを抱えていた。
「……霜焼けになるから地面に置いとけ」
「え、いいの?
やっぱり優しいんだね!」
それでも平らな切り株の上に置いてくれる。
間割とは違ってこっちは話が通じる相手なのかもしれない。
「そんな事をしても手加減はしないわ、早く準備しなさい」
『……Ghmkv』
状況は呑み込めないが、取り敢えず灯杖と霧を出して戦闘態勢を取る。
そんな二人に鍵宮が能天気な応援を送っている。
「それじゃあ捉えられるかしら、坊や?」
煽りと共に、急に間割の姿がぼやけ始める
一つ、二つ、幾重にも軌跡が暴れ、まるで多数の尾を展開させるが如く分身たちが襲い掛かる。
灯杖の相殺であれば、幻影相手にも攻撃力低下による防戦が可能である。
早速八朝に向かって攻撃を仕掛けて来た幻影に灯杖の一撃を重ねようとする。
直撃の寸前でまるで柔らかい何かに邪魔されるように
滑らかに直撃コースからずらされてしまう。
そのまま幻影の一撃を受けて、吹き飛ばされる。
「な……!?」
「その程度かしら?」
幻影から蹴りが繰り出される。
何故かそのモーションが五色に滑らかに偏光して見辛い。
「……!!」
諦めず、もう一度地面を踏みしめ、杖の先を徐々にずらし
即ち相手の攻撃力を乗せてもう一度灯杖を振るう。
今度は幻影の攻撃を弾き飛ばす事に成功する。
「やるじゃない、でも……!」
その後ろで二つの幻影が太極拳のように手を大きく回し
同時に三つの衝撃波を拳先から迸らせる。
『■■!!』
咄嗟に灯杖を拡声器へと変える。
その状態異常は凍結、どういう理屈か声で相手を凍らせる代物である。
幻影からの遠当ては防げなかったものの幻影を凍結させることに成功する。
『■■!』
手に持った拡声器を巨大歯車に変え、上から降らせる。
直接攻撃力は無くとも、スリップダメージがある火傷に全てを賭ける算段である。
「……しかし、もとの水に非ず」
幻影のうち片方が、突然凍結から解けて歯車を受け止める。
幻影ゆえの低HPで即座に砕け散ったが、もう一方は悠々と凍結を解除して構えを取る。
「さぁ、ここからどうするつもりだ?」
それから間割の攻撃が激化した。
繰り出される連撃を避けることが出来ず、依代が砕かれながら必死に食らいつく。
(くっ……さっきから何だこれは!?
全ての攻撃が受け流され、まるで回るが如くこちらの攻撃が跳ね返さ……れ……?)
既に彼女が自分の攻撃を『何らかの手段』で跳ね返している事には気づいていた。
だが、ようやくそれが『円の軌道』を描いている事にも気づく。
(それに色が青赤黄白黒の順……)
円、跳ね返し、五色のパターン。
即ち陰陽五行論における『相生』……万物を生成流転させる5つの相互作用。
(普通なら相剋で循環を止めるが、変転が早すぎる!)
青く偏光した回し蹴りをしゃがんで回避する。
瞼を開けた時には既に2つ先の『白』となり、これでは相剋を打ち込みようが無い。
(考えろ……特に先程何が起きたか思い出す!)
何の攻撃が有効だったか。
杖か、歯車か……いやあれらは状態異常によるものである。
ならば偶然『黒』の時に撃ち込めた拡声器。
いや、あれは『黒の時に撃ち込んだ』ではなく、『黒の時に凍り付いた』……!
(……ッ!)
八朝が咄嗟に拡声器に変え、思いっきり『長く』叫ぶ。
目論見通り顔面を捉えんとした拳が直前で凍り付いて動かなくなった。
「これは……!?」
「ああ、目にも留まらぬ相生の流れだったな
相剋を打ち込めない程に……だが『大過』はどうだ?」
相生の循環を邪魔するのは何も敵だけではない。
特定の元素が強すぎる『大過』もまた相生の理に牙を剝く。
例えば『水』の大過は、万物が凍り付き動かない『厳冬』の災いと化すのである。
「これでどうだ!」
八朝の啖呵に、間割がまるで堰を切ったように大笑し始める。
「何がおかしい」
「いや、まぁ合格だよ坊や
成程確かに私と同系統の能力だ、だが……」
間割が不思議な言葉で詠唱し始める。
もう一度あの円が襲い掛かってくるので、拡声器を重ねようとすると……
「そもさんまんた」
一声発せられた陀羅尼によって、円がオニオコゼのように一瞬で尖った形に変わる。
八朝は身体の数か所を軌跡によって貫かれ、戦闘不能となった。
「蓮華王の円を破ったのは褒めてあげる、でも……」
複雑な印形を次々と組み始める。
指の先から様々な図形を作り出し、地面に落ちてはざぁざぁと音を立てる。
やがて間割の姿をかき消す程の大水が渦巻き始める。
「根本的に遅い
今日はそこを教育してあげるわ」
その一言と共に濁流が一斉に八朝へと襲い掛かる。
水が引いた頃には彼の姿がいなくなっていた。
「……そんなんじゃ『カマイタチ』にすら勝てないわよ」
「ねぇ、怜奈ちゃん!
エリスがいないんだけど……!」
鍵宮が大切に扱っていた氷の塊の中には、もう何も入っていなかった。
そういえば濁流に吸い込まれる瞬間見覚えのある大蜻蛉が見えたような……。
「心配はないわ、彼らは生きていでしょう」
「ん、それなら安心だね!」
続きます
※Case09云々については普通に勘違いしてました、申し訳ありません
次々回のCase19で登場致します




