Case 17-1:元型を操る能力
2020年8月9日 完成
2020年8月10日 構成変更
2021年3月12日 ノベルアップ+版と内容同期
「分岐?」
それは旧第二異能部が健在だった4月のある日。
意識を取り戻した八朝が『メモ』を見て最初に確認したこと。
即ち弘治から渡されたメモが正しいか否かであった。
『その道は右を選ぶがよい
眷属よ、左だけは選んでくれるなよ?』
『何かあるのか』
『……筆舌にし難き大化物たる『妖魔』が跋扈する魔境へと繋がっている』
弘治がまるで吐き捨てるように左の道についてそう称した。
『そんなに強いのか』
『否、我と比肩する程度だ
尤も知能ですら我と匹敵し得る』
弘治の言い分にようやく合点がいった。
異能力者の敵であっても唯一『無能』であった故に倒せた化物が
その弱点すら克服して立ち塞がる様は悪夢としか言いようがない。
『じゃあ、本当に選んだら駄目なんだな』
『どうした眷属よ
やけに疑問が多いようだが……』
八朝も弘治の忠告を押しのけてまで知りたい理由が存在した。
それは八朝が記憶を取り戻す使命の行動基準にしている『メモ』の内容。
弘治から教えてもらった隠しルートのマッピングが為されたページに、今目の前にある分岐の事も載っていた。
ただし、こちらでは『弘治にバレないよう左の道を進め』と矛盾した内容があった。
『いや、ちょっとした出来心ですまなかった』
『構わんぞ
我が眷属に求めるは深淵の智への貪欲であるからな』
『だが左の道は出来るなら選んでくれるなよ
さすれば必ずや後悔の道へと至る事となろう』
【5月6日(水)・深夜(2:30) 隠し通路・分岐】
「といった感じで、この妖魔の道は結局は分からずじまいだ」
『へぇ……
珍しく追及しなかったんだね』
「あんな風に心配されれば従うしかない」
と、当時の事を振り返る八朝。
経緯としては、深夜に弘治から急用で呼び出され
長い隠しルートに飽きていたエリスの機嫌を直す為にこの話をした。
『でもやっぱり『メモ』にはあるんだね、バレない様に進めって』
「ああ」
八朝が首肯する。
メモについては弘治の件や重要観察対象の件もあり
八朝と過去を繋ぐ唯一の接点であった。
即ち、この左の道も八朝の過去とつながっていると考えた方が自然である。
『行く?』
「相手は化物よりも厄介な『妖魔』だ。
しかも奴等には『妖魔天象』っていう切り札までもある」
妖魔天象とは乱暴に言えば化物の異能力の最終形態である。
エリア全体に自然災害をばら撒くそれは、文字通り『天気さえもねじ伏せる力』なのである。
先日のミチザネが纏っていた『雷雨』も広義の妖魔天象に含まれているのである。
「だが、それでは何も進展しない
弘治には悪いがちょっと道草を食ってみようか」
『さんせー!』
キャラクターの割に慎重なエリスが、何も考えずに八朝の無茶振りに合わせてくれる。
「……言っちゃあ悪いが、本当に良いのか?」
『うん、大丈夫大丈夫』
何も訳を話してくれないエリスを尻目に、左の道へと歩みを進めていく。
最初のうちは隠し通路の風景と変わらない様子であったが
やがて天然の洞窟へと様変わりし始める。
この洞窟については見覚えがあった。
『これ……創造神の……』
「いや、彼奴の迷宮はもっと深層にあった」
あの迷宮では割と石段で登る場面が多く
隠しルートのようにアップダウンでプラマイ0になるような造りではなかった。
だが、加速的に嫌な予感が募っていくのも確かである。
「……光が漏れているな」
『じゃあ出口が近いのかな?』
「時間を考えろ、今は深夜の筈だ」
エリスがハッとなって気付く。
漏れ出た光があまりにも自然光っぽくて忘れてしまっているが、今は日没している筈である。
やがて、その予感が的中した。
「……これは?」
八朝が洞窟の出口から外の様子を眺める。
やや標高の高いそこからは雑木林と草原、そして薄く砂利道の街道を眺めることが出来る。
それは他の転生者が口を揃えて言う『異世界』そのまんまの風景であった。
『ふうちゃん、真上に太陽が……』
天頂に太陽がある風景はありそうで存在しない。
地球上では緯度23度以下の赤道域で見られる現象だが
日本に北緯23度の領地は海上含めても存在しない。
そして空の青の向こうに微かな地表のような模様を確認した瞬間。
「お、ようやく来たんだね」
「半年ぶりね、八朝の坊や」
背丈が柚月ぐらいの北欧人と弥生人の少女が声を掛けて来た。
「誰だ?」
「え、酷くない!?
半年で忘れちゃうの!?」
「落ち着きなさい理世
坊やは4月あたりにまた記憶喪失になってるの忘れてない?」
そう言われた北欧人っぽい少女、鍵宮理世がなるほどと口に出して納得する。
見覚えが無い上にやけに自分について把握しているこの少女たちに不信感が募っていく。
「……あなたも落ち着きなさい
私は間割怜奈、この『妖精郷』から妖魔が出ない様に警邏している退魔師よ」
「そして坊や、あなたからの依頼に答えてあげるわ」
毎度読んでいただきありがとうございます
DappleKiln(斑々暖炉)でございます
序盤で出て来た『弘治』や『メモ』が再登場してますね
というか今回は今まで以上に慌ただしい回となります
(ぶっちゃけ3要素以上詰め込まれている)
という事で重要回の一つとなります
さて、弘治は何のために八朝を呼んだのでしょうか……?




