Case 16-4
2020年8月7日 完成
2021年1月26日 日付変更
2021年2月12日 ノベルアップ+版に先んじて同期完了
天ヶ井柚月の入部が確定し、残るは2人となった。
八朝は鹿室を勧誘する為に『ある場所』へと行った。
【5月5日(火)・朝(10:50) 篠鶴学園高等部・部室棟B1F?】
鹿室がこの世界に魔王が存在するとするのは2つの理由がある。
1つは転生時に見た魔王の姿、そしてもう一つはこの部室棟の『地下迷宮』である。
この部室の扉を辰之中発動状態で開くと部屋中央に地下へと通じる階段が出現する。
この地底探検部なるものが生まれたのも、この発見と隠匿の為なのだという。
だが、彼らも先日のミチザネ事件の1週間前に部員離反で自然消滅した。
もしも鹿室がダンジョン攻略をするとすれば、この時を置いて他は無いだろう。
『ねー、鹿室君って地底探検部と何か関係があったっけ?』
「大方、万年不足気味と噂の探索要員を引き受けたのだろう」
階段の先は3つ目級以上の強大な化物の巣窟になっており
所謂異世界における『ダンジョン』のような様相を為している。
『通路の先に1体、さらに奥に3体
全部4つ目級なんだけど……』
予想通り酷い有様であった。
八朝がマトモにやり合ってはいけない相手が湯水のように湧いて出てきている。
輪による隠密行動も通じるかどうかハッキリしない。
化物の群れの隣を恐る恐る歩いていく。
ある程度まで奥に進んでいくと、目の前に赤い壁が出現する。
「これが地底探検部の防衛機構か……」
『この化物の量だと本当に効いているように見えないよ』
「まぁ、でもこれのお陰であんな風になっているからな」
壁の前でぐったりと倒れ込む化物の姿があった。
地底探検部によると、通った者に凄まじい炎熱系のダメージを与えるとの事である。
「あの芋虫と違って見るからに熱そうだな」
何気なく漏らした感想にエリスが意外そうな声を上げる。
曰く、あの壁からは何も反応が無いらしい。
そんな馬鹿な、と思い近づいてみると確かに全く熱くない。
「これはどういう事だ……?」
『あたしにもわっかんないよー!』
周囲を見渡しても天井にヒビ割れがあるぐらいで何もおかしくはない。
試しに通過してみると、何も起きずにあっさりと向こう側に行けた。
「……鹿室は確か言ってたよな
地下ダンジョンの赤い壁がどうやっても通過できないって」
『それじゃあ今日になって行けるようになったのかな?』
嫌な予感がした。
全速力で奥に進むと、ボス部屋らしき大広間に辿り着いた。
「八朝君か!?」
「ああ!
でもこれは一体……」
「駄目だ!
こっちに来るな!」
目の前に縦横斜に不可視の糸が飛んでくる。
『Ghmkv!』
『Hpnaswbit!』
とっさに霧を出し、エリスに食わせて障壁魔術を発動させる。
食いきれなかった霧が糸に触れて赤灰色へと変色した。
縦に伸びる糸に対してはバックステップを続けることで回避する。
そこに驚愕の一言が飛び込んでくる。
『Aglhhf』
糸に繋がれた岩や障壁が持ち上がり、こちらへと叩きつけようと勢いをつける。
よく見ると鹿室も糸で繋がれており、身動きが取れないらしい。
「その異能力は比婆の……」
彼が失ったとされる操糸能力。
それを発動していたのは鹿室のさらに奥。
宙に浮き頭が鋏になっている巨大な赤子の化物と
そのそばで虚ろな目をしている少女がいた。
『ふうちゃん!
アイツ……0つ目級だよ!?』
「何だそれは、聞いたことが無いぞ!?」
「八朝君!
右に避けるんだ!」
鹿室を信じて右へと駆けだす。
それに合わせて岩と障壁による一撃が繰り出される。
衝突の寸前に八朝を中心に嵐の壁が発生し、鉄槌の如き一撃を暴風で逸らした。
「エリス、今の変色を見たか?」
『うん、明らかに■の小径の色だった』
それが意味しているのは魅了の状態異常に陥っている事である。
もしかすると、あの少女は正気の状態でない可能性がある。
この間にも数回以上何かで殴られる音が響き
嵐の壁が解かれた時には先程の岩や障壁が存在していなかった。
「貴方達もこの子を殺すの?」
「何を言っているんだ……?
そいつはどこからどう見ても化物……」
「違う!!!」
あまりの気迫に言葉が詰まってしまった八朝。
それを見たのか少女が畳みかけるように持論を展開し始める。
「この子のどこが化物よ!?
こんな生まれる前に頭を潰されて可哀想で可愛い赤ちゃんが化物の訳ないでしょ!?」
「比奈ちゃん……目を覚ましてくれ!」
「五月蠅い!!!
男どもはどいつもこいつも赤ちゃんの気持ちを無視して……」
恐らく鹿室の仲間だったであろう少女の絶叫が響き渡る。
この意味で鹿室はこっちに来るなと言ったのかもしれない。
やがて、鹿室が想定したであろう最悪の事態が発生する。
『ほら! この子も泣いてるじゃん!
人の気持ちも汲み取りやしない男達もよく聞きなさい!!!』
「な……エリス……?」
エリスが化物の魅了に引っかかる。
まだ早計かもしれないが、この化物の魅了は女性限定なのかもしれない。
絶句する八朝達に、微かな赤子の泣き声が響き渡る。
エリスも奥の化物の方へと行ってしまった。
『よしよし、ごめんね。
今すぐあいつら皆殺しにしてあげまちゅから』
孤軍となって絶体絶命となった八朝に、エリスからの殺意が降り注ぐ。
次でCase 16が終わります




