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Case 02-2

2020年7月13日 Case02より分割完了

2020年12月12日 ノベルアップ+版と内容同期

2021年3月11日 ノベルアップ+版と2回目の内容同期

2021年3月29日 内容修正

2021年3月31日 誤字修正



◆◆◆◆◆◆




 風呂上がりに、静かになったリビングへと八朝(やとも)が立ち寄る。

 時刻は2月6日午後22時30分……とエリスが態々読み上げてくれた。


 ここには三食以外に用事は無いのだが、単純な好奇心が足を止めさせる。


 この夜遅い時間にリビングで誰が何をしているのか。

 余りにも軽率に、未だ明かりの漏れているリビングのドアを開ける。


 食卓となっているテーブルに一人の女性が座って何かのカードを手に唸っていた。

 彼女の名前は天ヶ井咲良(あまがいさくら)。マスターの娘であり、まだこのころは八朝(やとも)に全く興味が無い頃であった。


「どうしたんだ? そんな所で」

「うーん……片思いしてる友達の恋愛占い」


 いつも通りやる気なさそうに、目も合わせず咲良(さくら)がそう答える。

 見つめる先にあるカードには、野外で高級そうな椅子に座り錫杖を掲げる女性の寓画が描かれていた。


 色合いは白黒のみ(グレースケール)で表現されている。


「そうか、女帝なら何も悩む必要はないのでは?」


 ふと、八朝(やとも)の何気ない一言に目を丸くして見つめてくる。

 生まれて初めて年上の美女にまじまじと見られて困惑する。


 そうかと思うと再び目線を外して二の句を継いでくる。


「でも、わたし嫌なな予感がするの。片思いだし、相手さん遊んでるって印象だし……」

「だったら、相手が恋愛に興味を示していない

 最悪、男性側の不倫を暗示している事もあって……」


 そこでようやく気付いた。


 何故八朝(やとも)はタロット占いを知っているのか。

 知っているならまだしも経験者しか知らない例外事項に知悉しているのはどういう事か。


 そんな疑問で言葉の足を止めると、再びあの視線が浴びせられる。

 それならまだしも表情が心なしか綻んでいるようにも思える。


「ほうほう、おもしろいね、きみ」

「……あくまで素人考えだからな、真に受けられると困る」


 そう言いながら、すでに出していたカードを片付けて再びシャッフルし始める。

 一番上のカードを八朝(やとも)に差し出す。


「これは……?」

「いまのふうちゃんに必要なもの、多分」


 恐らく彼女が初めて『ふうちゃん』呼ばわりしたのはこれが初めてだった気がする。

 そんな印象深い記憶(シーン)を、神託(ワンオラクル)より齎された女教皇の寓画が静かに見つめていた……。



◆◆◆◆◆◆




「……これは?」


 微かな『物音』と共に八朝(やとも)の意識が現実に戻る。

 八朝(やとも)が呆然と今しがたの『記憶遡行』を噛み締める。


 あの『迷宮(チュートリアル)』で置き忘れにしていた『自分の異能力』を触媒にした結果

 時間的にあり得ない記憶が取り戻され、八朝(やとも)が当惑している。


迷宮(チュートリアル)から出たのは1月10日

 どうして未来の記憶を取り戻してんだ……!?)


 丁度浮き上がってきたエリスに話を持ち掛けてみる。


「エリス、一つ聞きたいんだが」

『ん、何でもいいよー』


 因みにこの豹変ぶりにも今日一日悩まされた。

 迷宮(チュートリアル)では慎ましい彼女が、夕飯ではこの調子快活なのである。


 別に悪い事ではないが、記憶を疑ってしまいそうになる。

 陰で『マスター』と呼ばれる身元引受人にこの事を訊いても


『お前、また『神隠し症候群(記憶喪失)』になったのか……難儀な身体だなァ』


 この調子なのである。

 勿論、先ほど手にした『記憶遡行』と合わせて外堀を埋めてみる。


「1月にしては暖かいよな」

『ふうちゃん、何言ってんの?』

「いや、篠鶴ってそういう所なのかなと……」




『そうじゃなくて、今日は4月15日なんだけど』




【4月16日(木)・昼休み(12:40) 篠鶴学園・同教室】




『んー! おいしー!』


 一人で売店のパンを齧っている八朝(やとも)とは対照的に

 エリスは女子グループに混じって昼ご飯を恵んでもらっている。


 画面に表示させているドット絵のアニメーションが割と良質で話題になっている。

 何を話しているのかはここからでは全く分からないが、偶にはこういう息抜きも必要かもしれない。


 だが、今は現状把握を優先する。


(『記憶遡行』と『家計整理』、そして『依頼』が1件……)


 昨日、エリスに正直に話すと

 割とすんなり現状の事を説明してくれた。


 といっても、この学園と依頼の話が主であった。


(確かに『異能力』を餌にすると『記憶遡行』が成る

 そして、その機会を増やすために万事屋紛いの事をするのも頷ける)


 だが、頭痛の種はそこではない。


 『俺の彼女(片思い)を間男から取り返す為に決闘の場を設けてくれ』


 ……これを聞いた時の自分と

 説明し終わったエリスの反応がピッタリ合ってたのは言うまでもない。


 依頼主の箱家一真(はこいえかずま)異世界転生者(神隠し症候群)らしく

 一般人の斎崎(さいざき)との決闘に拘っている。


 無論、決闘なぞ校則で禁止されている上に

 彼が片思いする掌藤千景(たなふじちかげ)はメモによると『狡猾にして狂暴』。


(……まず斎藤(さいざき)とのコンタクト手段の確保だな

 記憶遡行の方は先が長そうだし、こちらには『協力者』の目途があるからな)


 パンを食べ終わり、エリスの帰りを待つ。

 因みに残りの『家計』は家に帰った後でも出来るので後回しにする。


 すると、先程までエリスと会話していた同級生がこちらにやって来る。


「あ、あのさ……

 もしもさ、知らないうちにお金が減っていたら……」

「何だ、問題事か

 流石にそれは無料で引き受けるが」

「わぁありがとう……

 じゃなくて! エリスちゃ……」


 そこまで言って同級生がしまったといわんばかりに口を噤む。

 視線の先に、彼女の友人たちと思わしき数人が頭を抱えている。


「エリスがどうかしたのか?」

「え……!?

 いいいいいいやいやいやいや、ななな何でもないよ! ただ気になって!」


 まるで誰かの浄土行きを祈るかのような彼女に、一つ手が差し伸べられる。

 ほんの少し顔色の悪いイケメンが代わりになってくれるらしく、その隙に元の席へ逃げ出す。


「また君はか弱い女の子を脅して、恥ずかしいと思いませんか?」

「脅しているつもりはない

 見過ごせない『何か』の話を……」




「聞きましたよ

 今度異能力者と非能力者を戦わせるって」




 その一言でクラス中で会話が止まる。

 ああ、あれだけ注意したのにも関わらず情報が洩れている。


 頭を抱えながら聞き返してみる。


「どこでそれを?」

「隣のクラスの箱家(はこいえ)君が自慢気に言ってましたよ」


 予想通り過ぎて今度は胃が痛くなる。

 大方『僕は非能力者に勝つ方法を知っている』と喧伝して周っているのだろう。


(……最初から茨の道とはな)


 無論、決闘という名目では到底学校の許可が下りる事は無い。

 しかも目の前にはそれすらも止めてきそうな人物が立ち塞がっている。


「次の授業は実戦演習でしたよね?」

「らしいな」

「ではこうしましょう

 退治数で私が勝てばエリスさんへの問責、並びに当依頼を取り消してもらいます」


「その代わり、八朝(やとも)君が勝てば教師への便宜を図ります」


 最初、無視するつもりだったが破格の条件に目を丸くしてしまう。


 鹿室(かむろ)は『異能部』へのスカウトが掛かる程の成績優秀者であり

 しかも、教師との関係も良好で交渉にとても役立つ人物である。


 だが、条件が余りにも厳しすぎる。

 この時点で八朝(やとも)達への興味を失くしてクラスメイト達がそれぞれの会話に戻る。


「それ以外の条件は?」

「特にありません」


 八朝(やとも)が口角をつり上げる。


 事実上の『なんでもあり』宣言にきな臭い予感を覚えるも

 僅かばかりの勝機は残されているらしい。


「乗った」


続きます

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