Case 16-1:(見えない糸で操る能力)
2020年8月4日 完成
2021年1月26日 日付変更
2021年2月12日 ノベルアップ+版に先んじて同期完了
篠鶴機関の活躍によりミチザネが地球外へと放逐された。
夜明けとともに被害状況が明らかとなっていった。
【5月4日(月)・1時限目(9:30) 篠鶴学園高等部・体育館】
本来休日だったのだが、全校集会が開かれた。
体育館で並ばされた生徒たちの群れの中に、ぽつぽつと不自然な空きがある。
これが篠鶴学園での犠牲者の数である。
八朝の知人でも部長、鳴下、辻守、砂高の4人が死亡している。
同級生では砂高を含めて3人が亡くなっていた。
1分間の黙祷の中で、啜り泣きの声が止むことは無かった。
集会は滞りなく終了し、戻って来た生徒はアフターケアの予約を取る。
八朝は教室に戻ることなく、一人だけ部室棟に向かおうとする。
「キミ、どこに行くの?」
「ああ、ちょっとな……」
三刀坂は追いかけて来なかったが、特にそれで変わるわけではない。
この学園の中で1、2を争う壊滅具合となった部室の前に立つ。
ここは元第二異能部。
そして自分も今日退部届を出した事で0人となって消滅する。
「貴方は八朝風太君だね」
八朝は誰もいない筈の部室から呼びかけられた声で全身が固まる。
あの部長に似た……しかしほんの少し低い調子のそれはどこかで聞き覚えがあった。
部室に入ると、一般部員が座る長机側の椅子に物腰が柔らかそうな青年が座っていた。
「真白からの話でよく聞いているよ、初めまして」
彼の名前は比婆陽介。
想い人の部長を手助けして第二異能部結成にかかわった人物である。
現在は大学生で部員としてカウントされないが、時折こうして遊びに来るらしい。
「それと、もう一人の人もどうぞ」
少し間を置いて部室のドアが独でに開く。
さっき別れたはずの三刀坂がそこにいた。
「……どうした、何か用か?」
「何となくキミを一人にしちゃいけないって思って……」
申し訳無さそうな顔で三刀坂を見て
余計な心配を掛けてしまったとの罪悪感が沸き上がりそうになる。
一言だけ礼を詫びて再び比婆の方へと向く。
「退部届はもう提出したかい?」
「すまんが、出した」
比婆は笑いも悲しみもせず瞑目する。
何かを懐かしむように、数秒の沈黙ののちに口を開く。
「それでも君はこうしてやって来た
なら、僕から何かを話しても大丈夫かな?」
「全然問題ない」
比婆は感謝の言葉を口にして本題を話す。
「それじゃあ、まず一つ
今回は本当にごめんね、全く力になれなくて」
「……アンタは異能力の『完治症例』で、篠鶴機関の監視下にあるから仕方がないだろ」
比婆は元々異能力者であったが
『名目上』では篠鶴機関の治療により完治に至った唯一の症例である。
今現在の彼の立場は大学生にして被験者。
篠鶴機関による庇護が最初に及ぶの自然な話である。
「そうだね、でもそのせいで真白を……
彼女の守った第二異能部が消えてなくなってしまった」
比婆が悔恨を交えた弱音を吐露する。
彼が感じる無力感を八朝が推し量ることが出来なかった。
「……だが、まだ諦めてはいない
君だけでも生き残った、ならば何としてでも説得する」
「真白との約束を破るわけにはいかないんだ」
それは『取り零しを救う』という部長の表向きの理由なのか。
或いは異能部に対する復讐心に対する同調故なのか。
だが、ここで八朝が別の違和感に気付き周囲を確認する。
やけに静かで環境音すら遮断された……この妖精魔術に見覚えがある。
「エリスがやったのか?」
『え……?
私何もやって無いけど……』
「当り前さ、これはエリスちゃんから教わった電子魔術だからね」
これには三刀坂と共に驚愕するしかなかった。
『うん、そうだよ。
まさか属性の偏りが残ってる比婆陽介が……』
「当然さ、練習したんだもの
真白からは何度も駄目だって言われたけど、僕だって諦める訳にはいかない」
この言葉で彼の真意が後者だと悟る。
故に、目的がすれ違う八朝はこの部を辞める決断をした。
「その顔は既に想定済みさ
だが、敢えて一つの真実を語る事にするよ」
「異能部を追う事と君の記憶は深く関わっている」
それは八朝の想像を超える情報の開示である。
故に、1ミリの錯誤すら命取りとなり得る。
「どういう事だ?」
「今は教えることが出来ないね」
比婆が明らかに別の人物へウインクしてみせる。
「少なくとも12月の事件は異能部絡みだ」
相変わらず、何かを警戒するように断片的な情報を伝える。
まるで今いる4人の中に『犯人』がいるとでも言いたそうな態度である。
興味深い情報が次々と出ているが、フェイクの可能性も否定できない。
「それは恐らく転生者の記憶じゃないかもしれない
だが、今のキミは異能部の脅威も十分に注意する必要がある」
「その為の情報は、僕が持っている」
恐らくこれで十分と言わんばかりの顔である。
しかし、彼は八朝がその認識まで至っていないことを知らない。
「それと部の存続に何の関係が?」
「大アリさ
ついさっき部活動の名目で自由活動が許された」
即ち、比婆から情報を引き出すには第二異能部が必須となる。
「……最後に言うが、俺は」
「『戦闘系の依頼は受けない』だね
勿論それは尊重しよう……ただし」
「キミが代役を用意できたらの話ではあるね」
それは今現在の第二異能部の泣き所である。
例え八朝が入ったとしても人員は2人。
全員が雑務処理をしなければ追いつかない。
「それに関しては安心してもいい」
「流石だね
12月以前のキミと違って、人を大切にする態度は個人的に好きだな」
「そうか、なら取り下げて来る」
そう言って職員室に行こうとして、三刀坂から待ったがかかる。
「すまない
最初にも言ったが使命が最優先だと……」
「違う、私も第二異能部に入部します!」
その答えには流石に比婆まで驚く。
戸棚にある入部届をひったくる程に決意は固いらしい。
「理由は聞きたいな」
「勿論、八朝君に危険な事をさせない為です
それに私が入れば残り2人で部員集めも楽になるでしょ?」
両者に沈黙が流れる。
筋は通っているが、何故か比婆の方が表情を隠している。
「……俺からも誘う予定だった、ありがとう」
取り敢えず、今は話を前進させる。
重要な情報源を逃がさない為にも、小となる疑念は棚に上げる。
「そうか、なら僕が疑う理由は無いようだ
先程は失礼した……改めてよろしくだ、三刀坂涼音君」
三刀坂が小躍りして喜んでいる。
何故か巻き込まれた八朝達を、新部長・比婆が眺めていた。
こんばんは、毎日毎日更新していますDappleKiln(斑々暖炉)でございます
さて、今回は第二異能部再建のお話となります
主人公は再建に必要な人員を確保できるでしょうか?
早速元部員からの協力で主人公の運命がどう変化するでしょうか?




