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Case 15-3

2020年8月1日 完成

2021年1月26日 日時変更

2021年2月5日 ノベラ版に先行して同期完了


 異空間の鷹狗ヶ島の先で全てを思い出す。

 彼の試練を越え、意識が現世の篠鶴市の方へと戻っていく……




【5月3日22時00分 北篠鶴地区・行政タワー前】




『……!

 目が覚めたよみーちゃん!』

「ほ、本当!?」


 目を開けると泣きそうな顔がそこにあった。

 あの異空間の霧越しに見た風景そのままであった。


 だが、感傷に浸っている暇はない。

 何故か三刀坂(みとさか)の心臓と背中に向かって猛烈な寒気が走っていた。


 そのままに身体を無理矢理起こし、彼女の背中を庇う。

 八朝(やとも)はそのまま待ち針(digg)の一撃を食らう。


「ぐ……!」

八朝(やとも)君!?」

『待ってこれ暴走!?』


 そんな事を聞く余裕すらない。

 呼吸が浅くなり、喉が猛烈に乾き始め、空気が肺に入る実感が無くなる。


 血流が鈍く、ずくんと重く致命的な胸の痛み。

 拘束(digg)状態異常(ギフト)が心臓を貫き、十数秒間彼の鼓動を死滅させる。


 命尽きる瞬間に待ち針(digg)が砕け、今度は罰則(ペイン)の苦痛に襲われる。

 必死になって抱きしめられた気がするが、恐らくは幻覚なのだろう。




 それから一時間してようやく身体の調子が回復した。




「……すまん、今は何時だ?」

「もう23時だよ、あと33分でミチザネ(アルキオネⅢ)が来るよ」


 その言葉だけで自分が丸一日以上目が覚めなかったことを悟る。

 そしてこの真っ暗な空間、どう考えても三刀坂(みとさか)能力(ギフト)によるものだろう。


「そうか。

 じゃあエリス、三刀坂(みとさか)に能力抑制の妖精魔術(エルフグラム)を掛けてくれ」

「え……?」

「恐らく三刀坂(みとさか)後遺症(レフト)は高度障害だ。

 今の状態で能力(ギフト)を解除したら肺が破裂して即死してしまう」

『おっけー!』


「待って!」


 三刀坂(みとさか)が叫ぶように制止する。


「分かってるよね?

 部長を殺した化物(アイツ)、まだ私達を狙ってるんだよ、そんなことをしたら……」


 その言葉であの時の記憶が蘇る。

 即答する事は出来なかったが、代わりに三刀坂(みとさか)の右手を両手で握り返す。


「まだ八朝風太(やともふうた)の手掛かりが無い

 その状態で重要参考人の三刀坂(みとさか)に死なれると困る」


 何か言いたそうにこちらに顔を向ける三刀坂(みとさか)を無視して話を勧める。


「安心してくれ、伊達に化物斡旋をしていたわけではない。

 それに今は鹿室(かむろ)から貰ったばかりの秘密兵器(アンゲルスリシオン)が沢山あるんだ」


 それを聞いたエリスが八朝(やとも)の傍にありったけの伝令の石(アンゲルスリシオン)を置く。

 山もりとなったそれを見て、余計に化物(アレ)との決着をつける気で一杯になる。


「話を聞いてよ……

 八朝(やとも)君、もう気付いているよね……私がしようとしている事」


「こんな私にキミ(・・)がそこまで頑張る必要は無いよ、だから……」


 そう言われて少し間が空く。

 その間に伝えるべきことを纏めて、ようやく口を開く。


「信じられないと思うが、さっきまで俺は鷹狗ヶ島にいた。

 その時に多分俺の家らしき所に行った、アレは本当に酷かった」


 家が崖崩れで半壊し、団欒の場であるリビングに猛烈な土の臭いを感じた事。

 死人同然となった家の中で唯一、自分の部屋だけ確かに『室内』らしかった事。


「その時に俺の部屋に掛けられた表札が、

 神出来(かんでら)に連れられて来た時に三刀坂(みとさか)の家の表札も見えてな」


「もしかして、三刀坂(みとさか)も天涯孤独なんじゃないのか?」


 言葉は無い。

 涙に濡れる程の驚愕の表情だけでそれが真実だと告げていた。


「そこは同じなんだね……」

「同じというのは?」

八朝君(・・・)も両親を亡くしているんだ」


 それは先程の記憶遡行でさわりは知っていた。

 だが、ミチザネ(アルキオネⅢ)襲来の唯一の生き残りで、マスターに拾われたことは初耳だった。


 ここで漸く自分がEkaawhsEdrumnと戦ってはいけない理由を察した。

 死相に化けるEkaawhsの能力にかかれば、第二のミチザネ(アルキオネⅢ)になっていた可能性も……


「キミもなの?」

「俺の場合は推測だ

 それと、俺が三刀坂(みとさか)に思っている事は本当だ」


「今の三刀坂(みとさか)に必要なのは俺じゃなくて本物の八朝(おれ)

 肉親もいないのであれば尚更だ、早く見つけないと心が折れてしまう」


 何故かそんな言葉がつるんと出てしまう。

 あの家の感傷が今も引きずっているのか、実のある言葉として捉えられてしまった。


「でもやっぱり私そんなにしてもらえる資格が無い、やっぱりキミだけでも」

「そりゃそうだ、俺と同じ奴を増やしたくないなんてエゴイズムにも程がある、だが」


「それでも三刀坂(みとさか)にはもう何も失って欲しくない」


 三刀坂(みとさか)が袖を拭い静かに泣き始める。

 こうなってしまった人間の扱いに困る八朝(やとも)の胸にどんと少し重い衝撃が入る。


 服が涙で濡れる度に『こうすべき人間は俺ではない』と苦々しい思いで一杯になる。

 抱き返すのも頭を撫でるのもせず、ただそのままで居続ける。


 やがて、感覚がずるりと落ちていく。

 能力の限界が近く、三刀坂(みとさか)の意識が薄らいでいく。


「ずっと守ってくれてありがとう」

「それぐらい……なんでありがとう、て言われなくちゃいけないの?」

「親しき仲にも礼儀あり、という奴だ」

「ホント、キミは八朝(やとも)君と違ってバカ真面目なんだね」


 闇が薄らいで辰之中の星月夜の光が微かに漏れ始める。

 手に握る伝令の石(アンゲルスリシオン)の赤い光が漏れ始める。


「エリス、首尾は?」

『バッチリ上手く行ったよ、それよりふうちゃん、これ見て』


 覗いてみると、いつもの自分の異能力のステータス画面である、

 だが、CONが3から5に増え、LUKが0に変わっている。


 同時に出せる依代(アーム)の数が2つ増えている。


「これは僥倖だな」

『だね』

三刀坂(みとさか)、起きた時にはすべて解決してやる……だから」


「おやすみ」


続きます

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