Case 15-2
2020年7月31日 完成
2021年2月5日 ノベラ版に先行して同期完了(年表を消去いたしました)
謎の場所に辿り着いた八朝。
家らしきところで突然出現した少年の後を追って石段を駆け上がる。
【蠎壼ュ仙ケエ蠎夊セー譛井ケ吝キウ譌・逕ウ蛻サ 鮃ケ迢励Ω蟲カ】
階段には左右の壁には等間隔に張り紙があった。
張り紙には日付と簡単な出来事……日記帳のようである。
(4月18日、Minomotoboshiと遭遇
4月25日、灰霊と交戦……)
何となく見覚えのあるものが多かった。
4月1日から始まり下に行くほど時期が新しいものになっていく。
そして踊り場の前の張り紙は日付以外が破られていた。
「5月3日……?」
その日付から妙な胸騒ぎを感じた。
というか1秒でも早く忘れてしまいたい……
(いや、それじゃあ駄目だ!
折角過去の記憶を追い求めている……のに……?)
一瞬時痛に襲われる。
振り向いても元来た上り階段と、先に続く下り階段だけ。
「先を進もう」
下り階段にも同じように張り紙があった。
今度は逆に4月1日から遡っているようである。
だが、どれも何一つピンと来ない。
前日の3月31日に「Ekaawhs封印で自分の記憶を破壊」
と、整合性のあるものがあったとしても同様であった。
(何だこの張り紙は?
でも、さっきと同じように胸騒ぎはする)
段々と遡っていき、1月1日で最後となった。
もう張り紙は無く、階段だけが続くのみであった。
その余裕で、一つ疑問が生じる。
(この張り紙は一体?
預言書の類なのか、それとも自動書記……)
すると頭痛に襲われる。
目の前の風景が歪んでいき、ある一つの情景が結像する。
◆◆◆◆◆◆
――xxxx年7月7日/大宰府災害から約1週間後
『お前さん、どうしてその名前なんだ』
『言うまでもありません
1月以降はこれが必要なんです』
『……お前さんの異能力か』
『その理屈は分かった
だが、お前さんはそれで納得できるのか?』
『自分が死ぬ■■を受け入れるつもりなのか?』
『受け入れたくはないです
僕だって大切な人を残して死にたくはありません』
『でも彼女を救えるのは■■■■だけなんです』
『……』
『何度も試しました
それでも僕では……』
『そうか、よく分かった
一先ずはお前さんの決意を無駄にはしない』
『よろしくな、八朝風太』
◆◆◆◆◆◆
『駄目だ……もう意識が……』
『……』
『君……もしかして見えているのか?』
『頼む!
あの子にはあと一回必要なんだ!!』
『記憶はいくらでも差し上げる!
製法も……ああもう時間が無い……!』
『お願いだ……彼女を……』
『三刀坂涼音の『闇』を祓ってくれ!!』
◆◆◆◆◆◆
(何だコレは……!?)
頭痛の風景から現実へと戻り、頭を抱える。
余りの苦痛のせいで身に覚えが無いのに自分の記憶だと断じてしまう。
さらに続く記憶遡行ではいつか見た『注射』と類似点を……
だがこの時点で記憶が消滅し、手の中にシリンダーが残った。
それをポケットにしまって、浮かび上がった問題を呟く。
「俺の名前を……偽名にした……?
それに1月以降ってあの張り紙の日付……」
余りの奇妙な符号に背筋が凍えていく。
喉元に思い出してはいけない残虐な記憶が痞えているようだ。
「……」
いつの間にか目の前には先程の少年がいた。
「お前は、一体何を伝えようとしている?」
「……」
「お願いだ、答えてくれ!!」
「…………」
「この張り紙は俺の記憶なんだろ!?」
「………………」
駄目だ、会話が通じていない。
少年の洞の様な影がこちらをじっと見つめ続けている。
その中間地点に2枚の張り紙がひらりと落ちて来る。
「12月31日と、5月3日?」
拾い上げた張り紙は日付のみの白紙であった。
12月31日はこの遡る方の先にある張り紙である。
もしかすると、先程の記憶遡行の真実が見れるのかもしれない。
だが、5月3日から妙な胸騒ぎがする。
思い出したくも無いのに何故か『知らなくてはいけない』
(俺は……)
①少年に12月31日の張り紙を渡す
②少年に5月3日の張り紙を渡す
「……ッ!」
12月31日の方を差し出そうとして、ある人の姿が浮かぶ。
横倒しの視界の中で
自分を庇うように化物と戦い続けている。
『絶対に死なせない!
何も思い出しても無いキミをここで終わらせない!!』
やがて、何かを決心したように12月31日の張り紙を手放す。
「5月3日に何があったか教えてくれ」
その返答に、少年の見えない顔が微笑む。
やがて自分ではない声が響いた。
『これで契約成立だ
キミは『虚構』を引き継ぐに足る人物だ』
「その声は、字山か!?」
『でもあるし、そうでもない
でも今はキミの勇気を祝福し、全てをキミに託す』
「おい……!」
まるで録画映像に話しかけるようである。
そして4月1日以降の記憶が怒涛のように蘇り始める。
第二異能部の仲間たちが砕けるシーンで全てが終わった。
「そん……な……」
膝を折り頭を抱える。
あれだけ求めていた記憶が忌まわしい。
手放そうとしようとするが、ある記憶がそれを強烈に邪魔する。
(三刀坂が……!
ここで膝を折るわけにはいかない!)
心と身体がベリベリと剥がれていくような不快感を覚える。
それでも、彼女を犬死させまいと心を奮い立てる。
「アンタ、俺をここから出せるんだろ?」
『そうだよ』
案外あっさりと答えてくれる。
だが、微妙な唸り声を上げてもう一度確認してきた。
『でも、本当に大丈夫かい?』
「大丈夫なはずがあるか!
部長たちが無惨に殺されたんだ……」
「だがここで折れれば今度は三刀坂まで死ぬ」
衝動の赴くままに言葉を並べ立てる。
そんな無遠慮な返答に、少年は只微笑んで魔術を発動させた。
「これは……!?」
『これでじきに目覚める
次は君ともっと長く友達になりたかった』
「待て、字山……!!」
『樹氷の神に祝福あれ』
『それが八朝君の選択なんだね』
続きます




