Case 15-1:斬撃を操る能力
2020年7月30日 完成
2021年2月5日 ノベラ版に先行して同期完了
………………。
もう 何も 思い出したくない
【蠎壼ュ仙ケエ蠎夊セー譛井ケ吝キウ譌・逕ウ蛻サ 鮃ケ迢励Ω蟲カ】
「ここは……?」
目を覚ますと穏やかな太陽の光を感じた。
海の向こうに向かって沈んでいき、空も少々黄ばんで暗くなり始める。
ふと、自分の身体が砂っぽいと感じる。
「砂浜……なのか」
体を起こすと片側だけびっしりと砂が付いていた。
それらを払い落とし、立ち上がって周りを確認する。
(漂流……)
今の自分の状態を客観視して、そう結論が付く。
なぜ起きたのか、その方向に考えこもうとすると頭痛がして思い出せない。
(そもそも俺は……?)
これ以上考えても埒が明かない。
砂浜から出て、ここがどこなのかを確認することにする。
しばらく歩くと、この地域がどんな様子か分かってくる。
道の舗装具合が中途半端で、疎らな集落と中心部という構成。
太陽を見てやや左方向に山があり、そこに至るための石段がひっそりと存在している。
恐らくは漁業を中心とした集落
だが、致命的に足りないものがあった。
(人が……全くいない……?)
先程から人影は疎か動物の気配、虫の微かな羽音すら無かった。
海からの潮騒と木々の揺れる音、それのみである。
不自然なほどに何もないのである。
「誰かいますかー」
やけっぱちで呼びかけてみても何も返ってこない。
この後何度か試してみたが結果は同じであった。
先程から集落に点在する文字を読んでみて類推しようとしてみる。
『鈴木商店』『西ノ口3丁目』『○○農協前』
『犬飼神社はこちら』『○○新聞号外』『この先危険』
『荳頑エ・蜴ウ驛』
「……ッッッツ!!!」
突如熱湯を被ってしまったような不快感に襲われる。
この表札を剥ぎ取って粉々になるまで砕きたい……!
強いて言えばこの表札の持ち主を■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「……」
突然の衝動をやり過ごして、表札のある家を眺める。
周囲と違い立派な塀と2階建ての広い家屋
明らかに地元の名士の家なのだろう。
家に関しては時に何も思わなかったので、無視して別の場所を探索する。
小一時間が経過する。
やはりこれ以上の情報がこの場所から見つからない。
だが、一つ探していない場所があった。
(犬飼神社……)
中心街から伸びる農道の奥
南の山の中へと吸い込まれそうな道の先にそれがあると示されている。
少々距離はあるが、何故か気になる。
(少し行ってみるか)
そのまま農道を歩き始める。
それまでは中心街付近の立派な家が何件かあったのだが
数分もしないうちに木造家屋が中心となっていく。
電信柱すらもコンクリート製から木製へと変わり始める。
「……」
まだ春先なのに木陰が一切無いのと潮風が相俟って身体がべた付いて気持ち悪い。
道路の勾配も徐々に出始めて、体力まで蝕み始める。
(……まだあるのか)
ようやく犬飼神社前までたどり着く。
木々にほぼ侵食された暗い石段の先に神社があると示される。
反対側を見ると中心街の街並みがある程度見渡せた。
ふと、道のさらに奥の家が見える。
「あれ……?
どうして涙が……」
堪らず顔を覆いそうになる。
腕で涙を拭うと、もうその感傷が微塵も湧かなかった。
(……先を進もう)
ぼやいている暇はないので、とっとと石段を登っていくことにする。
だが、その途中で猛烈な違和感に襲われる。
「……あれ?
確か、ここから階段を外れて歩いていけば……」
石段の傍にあった獣道をずんずんと歩いていく。
記憶に無いのに、感覚がそうだと確信する。
訳の分からぬまま、当たり前のように奥へと進んでいく。
その先には山中に不釣り合いなモダンなデザインの家があった。
(……知っている)
歩みが小走りに、玄関の寸前で全力ダッシュしようとして無理矢理足を止める。
何故か考えも無しに家の裏へと回る。
土砂崩れの跡が青年の行く手を塞いでいるが関係は無い。
夢中になって崖崩れの石をどかすと、やがて鍵らしきものを見つける。
もう一度玄関まで戻り、鍵を差すとロックが開く音がした。
「ただい……ま……」
無意識に出てきた言葉に驚き、途中で尻すぼみとなる。
青年は荒れ果てた室内に『ただいま』と声を掛ける程狂ってはいない。
寧ろ、どうしようもない無力感に襲われる。
(寂しい……悲しい……)
身体が覚えているままに室内を物色する。
壁、時計、皿、テーブル、窓、花瓶、テレビ、ソファ、新聞、ゴミ箱、蛇口、風呂場、トイレ、階段、そして間取。
全てが致命的に壊れているにもかかわらず、しっくりと来る。
それじゃあ家に帰った自分が最初に向かうのはここではなく……。
「2階……」
土足のまま階段を駆け上がる。
靴底が割れたガラスを捉える度、心が少しずつ壊れてしまう様な気がした。
2階の部屋は廊下と残り3室。
『三洋・由紀』『花織』と続いて最後の部屋に行きつく。
「風太……?」
その瞬間に自分の名前を思い出す。
八朝風太、そして確か自分は今篠鶴市に居る筈である。
(取り敢えずは入るか)
自分の部屋らしきところに入ってみる。
扉を開けるとむせ返るほどの本の臭いに襲われる。
「こ……これは……!」
自分の部屋は他の部屋と異なり経年劣化はあるものの破壊の跡が一切見られない。
その代わりに窓まで覆い尽くす程の本棚の群れがそこにあった。
部屋に入り、試しに一つの本を取ってみる。
「カバラの……基礎……?」
見渡すと手に取った本と同じ様な本がずらりと並んでいる。
魔術に関する本から、机の上にある書きかけの何かに興味が移る。
紙には10個の円と22本の線のマーク
それと線対称に反対側に延びるマークが書いている。
その周囲を幾何学模様やローマ字の羅列が躍っている。
「なんなんだこれ……ッ!」
突然ドアが限界まで開かれる。
その音に振り向くと、半透明の少年がこちらを見て手招きしている。
長い前髪のせいで両目が隠れており、表情が掴みづらい。
「誰だ……?」
何も答えない。
試しに近寄ってみると少年の姿が消え去る。
階段を数段下がった所にまたあの少年が見えている。
(追ってみるか)
今回は過去編+次パート序章で構成されます
恐らくタイトルに見覚えがあるかもしれません
そうです、『彼女』がついに本登場となります
乞うご期待ください




