Case 14-5
2020年7月29日 完成
2021年1月29日 ノベルアップ+版と先行同期完了
2021年1月30日 修正
マスターに約束されていた時間まで残り30分。
それまでに八朝達は部長を救出できるだろうか……?
【5月3日・臨時休日(14:30) 北篠鶴地区・行政タワー付近】
「貴方達も来たのね
でも危険だからすぐに回れ右して逃げなさい」
着くなり部長がそう言って八朝達を拒絶する。
「マスターから避難場所を融通してもらう予定だ。
無論、俺たちだけじゃなくて部長たちもその中にねじ込ませる」
「じゃあ、尚更無理ね」
「何故だ?」
八朝の問いに、無言で自分たちが今戦っている相手を示す。
一見普通の二足歩行の牛に見える化物であるが、エリスが慌てふためいた声を出す。
『ちょっと待って
それ七つ目級……』
その瞬間、化物の顔に七つの赤い光点が輝く。
あり得ざる1/1級だけで構成した一個旅団でようやく互角という正真正銘の『化物』。
「コイツを倒せばいいんですね」
「よしなさい。
闇属性電子魔術でも無理よ」
「じゃあどうして部長たちが戦っているんですか?」
部長は何も答えない。
その代わりに激しい戦闘音が物語る。
目の前の化物に炎と魔力真空が間断なく襲い掛かる。
それらを紙一重で躱し、次の一歩で影を割り、影を作っていたモノまで割り砕く。
「答えないなら私は言う事を聞きません
それでもいいよね、八朝君、エリスちゃん」
『当然!』
八朝も首肯する。
部長が呆れ果てて化物に向き直る。
手に持っているのは先日のEkaawhs戦で渡した改造槍斧であった。
「それはそうと、これ便利ね」
「ああ、そう言ってくれるのは助かる」
「生き残ったら貴方、覚悟してね。
私、優秀な人材を手放すのだけは死んでも嫌だから」
『Cshblv』
『Libzd!』
部長が電線によってできた輪郭線に沿って化物を分断する。
相変わらず柄先が化物を向き続け、死角すら生み出させない。
更に三刀坂の重量増加が化物の動きを鈍らせる。
一方八朝は手に持ったアイリスCP弾を見つめる。
ほんの僅かな火花だけで炸裂し、体内で魔力を吸い取り、再使用できる弾丸。
これの使い道はこの時を置いて他にない。
「八朝さん!
逃げなかったんですか!?」
「辻守か、丁度いいところに来てくれた!」
八朝が偶々やって来た辻守に秘策を伝える。
それを聞くや否や難色を示す。
「そんなの危険すぎます!」
「安心しろ、成功すれば牛鬼を一発で仕留められる」
「でも……!」
化物が影を割って周囲の物体を砕いていく。
段々と遮蔽物が減り、化物の即死圏内が広がっていく。
周囲にはあの化物に影を割られ、肉片と化した死体が転がっている。
「無理はしないでください」
『大丈夫、あたしがバッチリ守ってみせるから』
辻守と別れ、前へ歩き始める八朝。
第一段階としてあの化物に襲われる必要がある。
「な……八朝君何をして……!」
部長や三刀坂が一瞬反応に遅れる。
その間に無防備な八朝へ化物が殺到する。
「真左よ」
部長の槍斧の柄先が八朝の左方に向く。
その方向には八朝の影が無防備に伸びている。
『Hpnaswbit!』
『Ghmkv! ■!』
エリスの障壁魔術が化物の影踏みを未然に防ぐ。
同時に八朝の依代から花火弾が炸裂する。
だがこれで第二段階である。
このままでは影を踏み抜かれ、絶命する。
『Dwonj!』
障壁魔術が破られる寸前、一歩引いたところを上級火属性電子魔術の閃光が擦過する。
八朝の影が化物の反対側に延び、散った火花でアイリスCP弾が点火する。
「食らえ!」
閃光が駆け抜け、ようやく化物の姿が視認できるようになる。
化物の腹部が巨大な円形に削られ、上と下が真っ二つに寸断される。
八朝は思惑通り『死体漁り』が化物の身体を貪食する。
ガッツポーズする暇も無く、エリスに浮遊魔術でアイリスCP弾を回収を指示する。
(やっぱり八朝君たちは……)
三刀坂は、先ほどの対武装職員との戦いを踏まえて、ある結論に至る。
八朝も『転生者』の一人である。
しかし、いつもの異世界知識を使わない方が強い。
皆が八朝の元に集まって、思い思いに喜んでいる。
この快挙で湧く皆に反して部長だけが不安な顔をしている。
(本当にこれが私の末路なの……?)
それは事前に友達の『占い師』が言った『魔の牛によって死に至る』という言葉。
当初それは『Ekaawhs』の事だと思っていたが、彼の話した真相により否定される。
では『魔の牛』とは?
そういえばこの化物の顔の輪郭が牛のように見え……
その気付きが彼女の反応を素早いものにした。
「……ッ!」
背後からもう一つの気配。
やはりこの異様に弱い7つ目級は囮……。
部長は反応できたが身体の動きが遅れる。
対して八朝は動けたが必要以上に異世界知識を排除した思考で限界を迎える。
影割りは無くとも影舐めであるなら、紀州にその言い伝えがある妖怪が存在した。
影を舐めて人を殺す牛鬼、そして非常に知能が高いと。
「今すぐ離れなさい!」
だが、遅かった。
辻守と鳴下の身体が、砕かれたガラスのようにバラバラと崩れ落ちた。
八朝と三刀坂を突き飛ばし、部長が化物から庇う。
(御免なさい、ね)
そう聞こえた気がする。
最後の一撃で化物の両目を能力で引き裂く。
やがて、人体が崩れ去る音を聞き届けてしまう。
文字通り、知人がゴミのように肉片へと崩れていく。
精神を歪ませる程の末期の生臭さが周囲を満たす。
「あ……ぁ……」
そして、全身に暖かい血を浴びてしまった。
◆◇◆◇◆◇
ERROR_501
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■■■■■■■ 14-a 全滅 - The Annihilation
END
『これで彼の鼻っ柱が折れた折れた』
『さてこれからも彼の運命を書き換えてどんどん絶望を与え、ゆくゆくは■■に……』
『………………』
『あれ? 書き換えられない?』
『……これにて成就した』
『誰?』
『創造神を名乗る者よ、我らの悲願はようやく芽を出した』
『だから何だよ君達は!?』
『名など無い
だが、強いて言うなら我らを人々はこう呼ぶだろう』
『ロゴスと』




