Case 14-4
2020年7月28日 完成
2020年7月29日 あとがきを変更
2021年1月26日 日時変更
2021年1月29日 ノベルアップ+版と先行同期完了
2021年1月30日 修正
【5月3日・臨時休日(13:30) 南抑川地区・某所】
『Libzd!』
三刀坂の騎士槍に触れた銃弾が重量増加によって地面に叩き落される。
後ろからの攻撃も地属性スキル『城壁』によって完全にガードする。
「クソッ!
コイツは異能力者殺しじゃなかったのか!?」
「落ち着け、奴さんの表情をよく見ろ」
だが異能力は無尽蔵ではない。
次第に脂汗の量を増やし、迎撃が鈍くなる三刀坂を見て職員がせせら笑う。
「残弾数は?」
「無論、山ほど殺したからたっぷりとあるぜ」
「ですな。
じゃあ、引き続き嬲ってやるとするか」
その会話を拾ったエリスが小声で八朝に訊く。
『ねぇ、さっきから全然闇属性電子魔術使ってないけど……』
「当たり前だ
使ったら最後、月の館に幽閉されて終わりだ」
それは八朝の『伝令の石』も同じである。
彼らに対して使えば、今度はマスターたちの家族の避難が拒否される可能性がある。
この密集した状況、全員が敵であれば花火筒で一網打尽にできる。
それについてエリスに耳打ちする。
「エリス、三刀坂が気絶に耐えられる可能性は?」
『残念だけど可能性は無いよ
でも地属性って自然回復力が強いから他の人より解除が速いかも……』
ここになってようやくこの世界のルールの検討を始める。
何故かは知らないが異世界知識を多用してはいけない。
そんな強迫概念に八朝の思考が硬直化していった。
『ふうちゃん、異世界知識でどうにかならないの?』
その質問に何も答えることが出来なかった。
それを誤魔化すように行動開始の号令を呟く。
『謌代→陲ゅr蛻?°縺、豎昴?蜷阪?■■
蟶梧悍縺ォ逵ゥ繧?莠悟香莠後?蜻ェ縺?ケ!』
『Ghmkv! Ghmkv! Ghmkv!』
一つは先程の花火筒、もう一つは移動中に用いた輪。
まずは輪を『EkaawhsEdrumn』と誤認するよう状態異常を構成し、三刀坂を庇うように立たせる。
「えっ!?」
「クソッ!
化物が一丁前に邪魔しやがって、殺してやる!」
「……ッ待て!
命令だ! そいつを撃つな!!!」
三者三様の驚愕の表情を打ち破ったのはCP04A1の銃声である。
弾丸が輪をすり抜け、全弾を『城壁』で防ぐも、虫食い状態となったそれではもう彼女を守れない。
そこに飛び込んだのは一発の花火であった。
その状態異常は気絶、即ちこの場の全員の意識を刈り取る魔の光となった。
武装職員たちは堪らず昏倒し動かなくなる。
八朝は言わずもがな気合で気絶を打ち破り、三刀坂は……
「ッ!」
自分の足を騎士槍で刺し、その激痛で無理矢理起きる。
更に被ダメージを自然回復に反転させる『城壁』の力で
刺した傷を治療し、騎士槍を体外へと追いやる。
「八朝……君……?」
「ああ、今助けに来た」
三刀坂の手を掴み、もう一つ用意した輪を被って二人とも他人から見えなくする。
地面に落ちていた弾丸を一つ拾い、そのまま橋に向かって全力疾走する。
「待って!
どこ向かってるの!?」
「ああ、マスターに頼んで三刀坂も安全な所に避難……」
「駄目!
それじゃあ部長が死んじゃう!」
その言葉で足を止めてしまう。
三刀坂も女子陸上部の部長であるので、必然的に第二異能部の部長の事を指している。
「それはどういう事だ?」
◆◇◆◇◆◇
【5月3日・臨時休日(14:10) 南抑川→西榑宮】
曰く、八朝と別れた後、部室に忘れ物をしていることを思い出した。
部室からの帰り道で正体不明の化物に襲われていた所を第二異能部に救われた。
『ここは私たちに任せて頂戴』
『でも……!』
『私たちはいいの
これは『任務』なのだから……』
任務とはいったい何なのだろうか。
異能部の様な公共性のある部活ならまだしも、私的な第二異能部には……
「以上になるけど、にしても便利だよねそれ」
「何の事だ?」
「その幻覚を見せる輪っか」
言われてみればそうであった。
攻撃力はないものの、汎用性が高い上に自力で使用可能な防御手段であった。
何かと使用しているシーンが多いのは確かであった。
「確かに便利だな
こうしてこいつらを冷静に見物できるなんてまたとないチャンスだし」
輪の影響で二人の姿は見えなくなっている。
小競り合いと小競り合いの間を走って部長たちの元へと急ぐ。
ゴミのように人が死んでいく、最早直視できない程の醜悪な光景である。
暴動は篠鶴市の広範囲に及んでいた。
至る所で外に出たい異能力者と黙らせたい篠鶴機関武装職員との死闘。
突如『人間はゴミのようだな』と思ってしまったのを慌てて取り消す。
それほどまでに八朝の精神が限界に来ていた。
ふと拾った弾丸に意識が移る。
「これのどこに異能力者殺しが……」
「ああ、それはアイリスCP弾
異能力者の体内で魔力を吸い上げ、独りでにもう一度撃てる状態になる弾丸だ」
撃った相手の体内から取り出して再使用する様から『死体漁り』なる異名が付いた。
ほんの少しの火花でも暴発するのでCP0Xシリーズの銃火器にしか対応していない。
という話を聞いたところで八朝は自分の親指を噛み、その血を弾丸に吸わさせた。
「ちょ……何やって……!」
「その話を聞いたらなんか使えそうだなって思ってな」
魔力不足の眩暈を気合で耐えてアイリスCP弾の再装填準備を完了させる。
もうすぐ目的地に着く。
あと50分。
それまでに部長も助け、マスターの元に辿り着く。
そして部長たちが戦っている辰之中の境界地帯を抜け、星月夜と冠水が二人を迎える。
目の前に広がっていたのは砕かれたガラスのように壊された各種ビルと……
数メートルはある化物と対峙する部長の姿であった。
次でCase14が終わります




