Case 14-3
2020年7月27日 完成
2021年1月26日 日時変更
2021年1月29日 ノベルアップ+版と先行同期完了
2021年1月30日 修正
マスターの提案を蹴って三刀坂の住んでいる南抑川へと向かう。
扉の先に待っていた光景は……
【5月3日・臨時休日(11:30) 南抑川地区・某所】
神出来が用意した扉を開けると、そこは地獄であった。
普段であれば運河と治水公園の穏やかな風景が広がる南抑川地区。
だが南に市境があるこの地域は、篠鶴市から脱走を図る者達が集う危険地帯でもあった。
「な……なんだこれは……!」
唖然としている間にテレビで放映されていない数多の銃声が響き渡る。
危険地帯とは言った……だが断じて紛争地帯と聞いた覚えは無い。
『ねぇ……この音普通の銃声と違うんだけど……』
エリスの指摘通り、銃声にエネルギー音らしきものが混じっている。
記憶には無いが八朝は『ゲームでありそうな架空銃火器』のようだと呟いた。
それが事実であれば、相手は2020年以降の科学力を持っている事を意味している。
「この音で、砂高先輩が……」
ふと振り向くと神出来が真っ青な顔になっていた。
八朝は少し考えると、固有名を唱えて神出来に能力を掛ける。
22の状態異常の中には無いが、それらを組み合わせて作る番外の状態異常。
それによって神出来の耳を塞ぎ、筆談にて答える。
『ここからは俺に任せろ
必ず三刀坂を助け出す』
神出来が能力でこの場から去ると、同時に八朝も外へ走り出す。
彼女が連れて来たこのドアは三刀坂の部屋のものであるが、中から人の声どころか電気すら付いていない。
即ち三刀坂が既に移動している事を意味していた。
走り出すとエリスから石を一つ出してもらって固有名を叫ぶ。
『Ghmkv!』
輪を頭の上に載せて、エリス以外の人間から見えなくする。
これが本来の使い方、即ち自らを『レーダー上の不明物』にする状態異常である。
この状態で南抑川地区をくまなく探し始める。
至る所で異能力者による戦闘場面と遭遇する。
(ここは、市境か)
あと一歩踏み入れれば篠鶴市から出られるこの場所で
篠鶴機関の武装職員が小銃を手にし周囲警戒を行っている。
辺りに2、3人の死体を発見する。
いずれも頭を打ち抜かれ即死している。
この状態ではたとえ異能力者の自然回復強化を以てしても助かる事は無い。
「……ッ!」
「何者だ!!!」
弔意を捧げた僅かな隙を武装職員が察知する。
暫くは何もない方向に銃口を向けて警戒する。
「何だ、何があった?」
「隊長!
あちらの方角で不自然な物音がしたので……!」
八朝も、ポケットの中に避難したエリスも一切物音を立てず微動だにしない。
武装職員の隊長が注意深く指差した方向を観察する。
やがて八朝の左方向の茂みから一人の影が躍り出す。
「死ねぇぇぇぇええええ!」
男は異能力で水の槍を召喚し、それを持って突撃する。
これを好機と思って八朝は急いで市境から離れる。
「隊長!」
「ああ、任せろ!」
やがてあの銃声が一度鳴り響き、茂みから出た男の脳天を打ち抜く。
それと共に水槍が只の水に帰る。
詳しくは確認できなかったが
武装職員たちが死んだ男から何かをまさぐっていたのがチラリと見える。
だがエリスは、その様子を端末内蔵の望遠レンズで捉えてしまった。
『ふうちゃん……』
「何だ、確かにあの職員変なことしてた気が……」
『あの人たち、さっき殺した人の頭に手を突っ込んで銃弾を取り出してた!」
形容しがたい嫌悪感に襲われる。
だが、そんな感傷に浸っている暇はない。
何とか物陰まで走り切って事なきを得る。
「三刀坂とは連絡が付くか?」
『駄目、今の状態でしたら見つかっちゃう』
怯えた声でそう答える。
八朝も納得して、三刀坂を探す算段をする。
(この状態を知っているなら門のある学園やここみたいな市境には近寄らない筈……)
神出来によると、暴動は市境や南抑川から出る橋付近で激化している。
そして先程から走り回った結果も同じことを意味していた。
すると抑川駅方向で地響きが聞こえる。
この音は重力能力者特有の発動音であった。
『ふうちゃん!』
「ああ!
『Ghmkv』!」
エリスに霧を喰わせて初級水属性電子魔術を発動させる。
跳躍し、ようやく町全体の様子を知る。
(な……!?
市境だけじゃなかったのかよ!?)
見える限り水瀬地区で4つ、篠鶴地区で2つ、学園付近で8つ、榑宮・磯始で14つ。
それは大破壊と火災によって巻き上がった土煙の数であった。
篠鶴市の象徴の一つである『行政ビル』が3Fよりも高い部分で割れたガラスような罅割れが走っている。
やがて、橋付近の樹に着地する。
見下ろした先に三刀坂と数名の武装職員がいた。
続きます




