Case 14-2
2020年7月26日 完成
2020年7月27日 タイムリミットを18時から15時に変更
2021年1月29日 ノベルアップ+版と先行同期完了
2021年1月30日 修正
【5月3日・臨時休日(11:14) 抑川地区・太陽喫茶某所】
「これ本当に大丈夫なんだろうな……」
部屋に備え付けられたテレビから今の状況が流れてくる。
いずれも『アルキオネⅢが篠鶴市に落下する』『篠鶴市民は外に出てはならない』『門付近の暴動が鎮圧された』の繰り返しである。
ここまで来ると流石に嘘くさいが、事前に見て来た人の流れを否定し得る材料はない。
『……三刀坂と離れて良かったかな?』
エリスの呟きが妙に頭の中に残る。
あの後『各々の急用』という名目で解散したが、ニュースを見る限り彼女の住む南篠鶴は最悪であった。
暴徒による破壊の跡が繰り返しテレビに放映され続ける……
考えあぐねている所にノックの音が飛び込んでくる。
返事とドア開けをエリスが率先して行い、客人である咲良を応対する。
「……」
『ん、どーしたの?』
「ううん、なんでもないや」
妙な間があった気がするが、特に気にしないことにした。
手で自分を招いている事に気付いて八朝もドアの前までやってくる。
「なにかあるのか?」
「うん、おとーさんが八朝達を呼べって」
それを聞いて着の身着のままで咲良の案内に従う。
1Fの共用リビングまで来ると、そこにマスターの姿があった。
「おう、呼んでくれたか」
「それで何か?」
色々と話しているが、要約すると次の通りとなる。
・マスターたちはこれから急用で家を空ける
・その場所は篠鶴市の中で最も安全な区画である
・そこに太陽喫茶の全員で避難する
「こんな時に仕事があるのかよ」
「ああ、こういう時だからこその仕事だ
という事で、お前さんはどうする?」
ああ、是非とも頼む……と言いかけたところで一瞬躊躇ってしまう。
そういえば三刀坂や部長たちは一体……
『転生者』の鹿室なら大丈夫だろう。
だが、そうでない彼女らも果たして安全と言えるのか?
「……少し考えさせてくれ」
「分かった」
そうマスターに言って再び自分の部屋に戻る。
常に自分の周りから離れないエリスに向かって疑問をぶつけてみる。
「エリス、皆の状況は分かるか?」
『うん、バッチリ把握してるよ』
言葉の割に弱弱しい声音で答える。
こんな時になっても自分のできる事をやっているエリスに素直に感心する。
「エリス」
『ん、なーに?』
「このままマスターと一緒に逃げた方が良いと思うか?」
『んー……
その方が現実的だけど、ふうちゃんはそんな性質じゃないよね』
まるで心の中を見透かされた一言に素直に驚いてしまう。
心は決まった、三刀坂も探しに行こう。
エリスにそう言おうとして、それをドアの乱暴に開かれる音がかき消した。
ドアの方を見るとそこには神出来縁がいた。
「どうした、何が起き……」
「大変!
先輩の家のすぐ近くに暴徒が……」
「な……!?」
『ふうちゃん!
縁ちゃんの言った通り火災が起きてる!』
今度こそ絶句した。
先程は『把握している』と言っている傍から非常事態が発生していた。
『ついさっきなんだよ!
縁ちゃんがこっちに来てからすぐ火災と暴動が……』
「今頼れるのは先輩しかいないんです!」
その言葉に違和感を覚える。
既に陸上部ではないが、彼女らと親しい人間がもう一人いた筈……
「砂高は……?」
「……ッ!」
その顔で大体の事態が把握した。
ここでうだうだ話し合っている時間はもうない。
「神出来……すまんが挨拶したい人がいる」
「わかった」
その足で急いで階段を駆け下りる。
共用リビングには相変わらず心配そうなマスターや咲良が話し合っていた。
「マスター!」
「……いきなりどうしたんだ」
「すまない、さっきの話は無理だ」
「訳を話せ」
「……三刀坂が暴動に巻き込まれた」
その一言で2人の顔が真っ青になる。
彼らは三刀坂を知っているのか……?
「……!
お父さん!」
「駄目だ、俺らが助けに行っても墓穴が増えるだけだ」
「それはお前にも言える事だ」
マスターからの厳しい視線が注がれる。
観念して八朝はエリスに『秘策』を明かすよう言った。
ごとごと、と赤い石が何個も落ちてくる。
「それはまさか……『特別取締物品』か」
それは篠鶴機関が公表する危険物の総称である。
無論、この『伝令の石』も正体不明という意味でリストアップされている。
「ああ、だから同行できない」
「……」
泣きそうな顔で2人を見守る咲良。
やがて、観念したようにマスターが口を開く。
「そうだな、今のままでは連れてはいけない」
「お父さん!」
「だが、それを使い切れば連れていける」
それは暗に『三刀坂を助けに行け』と告げているに等しい。
八朝は二人に礼をする。
「なるべく早く事を済ませる」
「15時だ
それ以降は俺らではどうにもならない」
踵を返し、急いで自分の部屋へと戻っていく八朝。
そんな彼の背中を二人は見守るだけだった。
続きます
因みに、篠鶴市は少しつついただけで暴動が起きるような危ういバランスの上で成り立っています
そのことについてはモールでの決闘(Case 05)にて少し触れています




