Case 13-3
2020年7月22日 完成
2021年1月26日 ノベルアップ+版と同期
【同日同時刻付近 IllegalArgumentException】
思うに『13番目の鏡』だけではこうして実体化は叶わない。
何しろ奴は『都市伝説』で、その神秘性も最弱に等しい。
1つ目級ならともかく、4つ目級は無理筋。
ならば、何かが核になっている筈である。
当初は双子の怪異として有名な『チャウグナル』を疑っていた。
だがこれではエリス一人で防げるほど弱体化することは無い。
片方が囮でもう片方が本体。
囮は時と共に成長し、そして『水』と『牛』に纏わる怪異。
「貴方達……ここで何をしているの!?」
「部長、丁度良かった
化物の倒し方が分かった」
部長があからさまに驚く。
降ってわいたような好機を盤石のものとしたい、その為に耳を傾ける。
「ああ、だから部長にはここで留まって欲しい」
「それは構いませんけど……どうしますの?」
「部長に囮になってもらう」
それから作戦概要を説明する。
だが、どれも受け入れ難い条件でやがて顔を顰め始める。
「流石に依代も手放せは……」
「そ、それに私の重量増加で動けなくするって!」
「だが全部必要だ
こうすれば伝承通りに化物の本体諸共粉砕できる」
この時の八朝の表情は珍しく力がこもっており
少なくとも三刀坂は納得してくれた。
「エリス……呼び戻すことは?」
『うーん』
「不知火でも無理か?」
エリスがパッとしていないようなので概要を説明する。
即ち、肥前・肥後の名が誕生した景行天皇を導く怪火の道標。
『多分、数分で出来ると思う』
「ありがとう
これで、いざという時に呼び戻せる」
それは現在化物を押し止めている辻守と鳴下の事である。
悩みぬいた後に部長が肯定の意を表す。
「助かる」
「これで倒せなかったら化けて出てやるわ」
「お手柔らかに頼む」
直ちに内容が全員に共有され、化物の前に部長だけが差し出される。
『この者に百の咎有り
呵責なく劫火へと焼べよ!』
そこに三刀坂の闇属性電子魔術が発動する。
今度こそ部長の身動きが完全に封じられた。
(……早く……だが、正確に!)
その一部始終を見つめる八朝の手には部長の槍斧。
それに濃密な■■を纏わせて、調合を行っている。
遅々として進まない同化に、焦りが見え始める。
入った亀裂から部長の危険を察知してしまう。
(クソッ……!
……だが、スピードが桁違いに早くなった!)
そして数秒もしないうちに同化が完了する。
『我より袂を分かち、果ての天球に至る』
『■■、■■
更に■■を繋ぐ橋となれ■■』
『汝は地、朱の季節、即ち南を指す証なり!』
槍斧が霧に巻かれ、様々に形を変化させる。
そしてイメージ通りに槍斧が刀へと変化しきる。
『Vrzpyq!』
エリスが消費した霧の端で崩壊が進む。
じりじりと身体を蝕む罰則に耐えて叫ぶ。
エリスの魔術を乗せて、その刀を引っ張られている方の逆へ引っ張る。
「……されど、我は天体の諸法則に依り
今一度、天蠍の■■を降点の彼方へと追い遣る!」
天蠍の橋と引き寄せる力が崩れ、その反動で刀が飛んでいく。
そして数秒後に化物の絶叫が響いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「な……これは一体!?」
突然飛んできた刀が化物に突き刺さり、身体の下半分を吹き飛ばした。
それと共に触手も消滅し、九死に一生を免れる。
(これが異世界知識……)
先程の八朝の話を思い出す。
『奴の本体は山陰地方の牛鬼……つまり濡女だ
水辺に居る人間に近寄り、赤ん坊を抱かせ、本体の牛鬼出現と共に赤ん坊を重くして、そのまま食べる』
『だがこの怪異は助かった話も聞く
曰く、襲われた人の家に伝わる名刀が飛んできて牛鬼を斬ったらしい』
『それでもそんな機能は俺には再現できない
故に今の濃霧の状況……即ち『涿鹿の戦い』の再現を行う』
(南の諸星座で指南車の性質を作成し
私の槍斧に憑依させて更に刀に変形……)
それだけでも彼のやった技術に戦慄する。
あの短時間で、しかも仲間を危機に晒して焦る心に晒されながら……
だが目の前の化物はまだ生きていた。
「……」
落ちた刀を拾い上げ、化物に対峙する。
笠にある四つの光点を光らせながら、猛烈な勢いで毒粉を撒き散らし始める。
その『首』にある輪郭線を捉えようとして構えて、ふと気づく。
(引き寄せられている……!?)
刀を振ろうとする軌道と輪郭線が引き寄せられるようにかち合う。
本来、5メートルの距離では難しい精密動作もこれなら……!
『Cshblv!』
能力が正確に輪郭線を捉え
化物はその首を切断されて遂に絶命する。
立っていた場所に拳大の大きさの『鱗』が転がっていた。
まだ続きます




