Case 12-5-2
2020年7月19日 完成
2021年1月26日 ノベルアップ+版と同期
※Case 12-4の最後で②を選択した人はこちらからです
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【同日同時刻付近 異能部部室】
(奴の能力は相手の体に傷一つ付けず血だけを抜き取る……)
古今東西そんな珍妙な性質を持った魔剣・妖刀の類は存在しない。
であれば、何からかのものが『刀』のカタチを取っていると考えるのが筋である。
(吸血……であれば奴は外に出られない。
そういえばこの霧も明らかに丸前の能力であるな)
それらも吸血鬼伝説に包摂されるものである。
だが、八朝は東洋の万物照応に着目する。
(水……壬癸……
もしかして、腎臓か!?)
五行のうちの『水』と照応する臓器は腎臓である。
また、癸水には太陽と称され他干全てを犯す丙火を唯一抑え得る性質を持っている。
(じゃあ奴は……)
①腎臓の性質を持った双剣
②妖刀の類である
……。
…………。
………………。
待て、五臓の『腎』と解剖学上の『腎臓』は全くの別物だ。
その最たる例は五臓の『腎』が泌尿器系の性質に全く関与していない事が挙げられる。
水だけを抜き取る、という根幹がここで崩れ去る。
「ッ!」
一撃を食らう。
これ以上は身体が持たない。
一か八かの賭けに出る。
「……そこ!」
気配でなく、丸前の性格傾向から次の攻撃を予測する。
ハエを潰すような動きで丸前の刀を受け止める。
「な……!
何故切れない!?」
「やっぱりか……三方替があるようだなその刀!」
抜けば玉散る、と称される水の妖刀・村雨。
それが記述されている所謂『南総里見八犬伝』には、刀の水気で篝火を消し、闇夜に紛れて逃げたというエピソードがある。
また、この刀は一度偽物とすり替えられ、偉い人の前で大恥をかいた事があるという。
「刀身を掴み、村雨を奪っている間は偽物扱いとなり、能力が発動できない」
「クソが……!」
得意になっている八朝が、やがて呻き声をあげて刀身から手を離し崩れ落ちる。
せめぎ合いがあっけなく終了し、丸前の顔が喜悦に歪む。
「やはり、貴様は三刀坂と共に屠るべきであった。
なんともつまらない幕引きよな!」
身体の正中線を恐ろしく冷たいものが通過する。
そして自分が気絶無効の後遺症を持っていると嘘を吐いたことを後悔した。
誰かの悲鳴と大破壊の音響が聞こえた気がする。
それが八朝の最後の意識となった。
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【3月31日16時33分 不明(辰之中)】
『ふうちゃん……』
エリスの怯える声が聞こえる。
八朝も同じく恐怖で動けなくなっている。
目の前には八つの光点を持った人影があった。
その真上、辰之中の星月夜の全てを覆う不気味な黒雲が姿を現す。
かの名を人々はこう呼ぶ。
アルキオネⅢ・雷雨のミチザネ
「俺はEkaawhsを追っていた筈……これは……」
だが考察の暇すら許さなかった。
ミチザネの周囲を光が覆う。
違う、これは……文字通り『雷の雨』であった。
「エリス!」
浮かんでいるエリスをもぎ取ると、全速力で地下へと逃げる。
その間も引っ切り無しに襲う落雷の轟音が、八朝の鼓膜を破壊する。
『Ekaawhsの正体が分かった、これから倒しに行く』
そう意気揚々と部長に宣言してこのざまである。
自分にはトラウマになるような記憶を覚えていない、それはトラウマの不存在を証明するものではなかった。
「エリス聞いてくれ。
アイツを止めるには俺の記憶を抹消する必要がある」
『!?
やだ……そんなのいや……』
「このままでは俺どころか篠鶴市が消えてなくなる
その前に早く『記憶消去魔術』を!」
それを聞いた端末がビクンと震えた気がした。
まるで、隠し事を暴かれたようにおずおずと答える。
『もしかして……知ってたの?』
「ああ、カネの動きから新しい電子魔術を作ってるとは思っていたがな」
『いや……やめて……』
エリスの拒否を無視して電源を付ける。
こうすれば本来の端末に戻すことが出来る。
まずは伝言をメモ帳に残し、RAT Visionを開いて目的のものを探す。
その画面の中で、見慣れない電子魔術の項目を発見する。
(……できるならこの記憶だけは思い出してくれるなよ、俺!)
意を決して記憶消去魔術を発動させる。
詠唱を口にし、そして急速に意識が閉じていく。
あの雷鳴が止んだような気がした。
ああ、思い出してしまった。
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『次のニュースです。
先日篠鶴市に突如出現した新種の顕現級について、政府はアルキオネⅢ'と呼ぶことを正式に決定しました。
なお、篠鶴市ではアルキオネⅢ’にの攻撃により、現在までに数十万人単位の死者・行方不明者が発生しており……』
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DEADEND 3 応報 - Punishment
Return 1;
とても残念な結果ではありますが、収穫はあります
・Ekaawhsが八朝のトラウマの姿を取ろうとするとアルキオネⅢとなって討伐不能になる
・それを危惧した八朝によって『2度目の記憶喪失』が行われた
もちろんこれは次のCase13でも大きく関わります
ではこの辺で、次回に乞うご期待下さい




