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Case 11-3

2020年7月16日 Case 11より分割完了

2021年1月26日 ノベルアップ+版と同期


 使用者(ユーザー):八朝風太


 固有名(スペル) :Ghmkv

 制御番号(ハンド):Sln.117287

 種別(タイプ)  :Q・AQUAE


  STR:0 MGI:0 DEX:4

  BRK:2 CON:3 LUK:1


 依代(アーム)  :不定

 能力(ギフト)  :状態異常付与

 後遺症(レフト) :�カ�。�ャ�・�ョ�エ�ゥ�ョ�・�趣シ」��ス�ス難ス�€€�費ス擾ス鯉ス�ス擾ス抵シ夲ス�シヲ�ャ




「これ……何?」

「わたしも分からないんです!

 表示がおかしいのも怖いのですが、罰則(ペイン)を無視していつも通りにエリスさんと話していた八朝(やとも)さんが!」


 それは、三刀坂(みとさか)にとっても衝撃的な真実であった。

 エリスが表示を騙している事ではない……あの八朝(やとも)後遺症(ペイン)も無しに100日以上も睡眠に抗っているのである。


 じゃあ、あの時は?


 神出来(かんでら)の事件の時にエリスに(アーム)を喰わせたときのしかめっ面。

 同じく偽冠(オズ)との戦いで依代(アーム)を破壊されながらも戦い続けたあの雄姿。


 『ふうちゃん曰く、罰則(ペイン)って物凄く苦しいんだって』

 『そうなの?』

 『なんか体中が痛くて呼吸が出来なくて、頭がぼやけるって

  だから皆気絶してしまうんだなって、なんか黄昏てて面白かったかも』


 『ごめんね……莉翫∪縺ァ豈崎ヲェ繧峨@縺?%縺ィ縺後〒縺阪↑縺上※』




 その姿を知っている……




◆◆◆◆◆◆




「ごめん、あと少し耐えて!!」


 非常に荒い運転の中で揺られ続ける。

 窓の外を見ると光の雨と炎の群れ。


 自分たちはあの地獄から逃げ出したのだと、火傷で荒れた手をきゅっと握り締める。


「ま、任せて!

 あとちょっとで射程範囲外だから!」


 父親の頼りない声が、何故か頼もしく感じる。

 今までの瓦礫の散らばる道から察する通り、この父親は上を監視する母親との連携で巧みに障害物を回避している。


「左!」

「任せて!」


 再びハンドルが切られる。

 今度は自分の車窓ギリギリに岩肌が見える……アレに潰されたらと思うと思わず涙が込みあがる。


 ふと、右手に暖かい感触を覚える。


「大丈夫、お兄ちゃんがついているから」


 同じく泣きそうな兄の顔が視界に映り込む。

 手は震えているが、表情だけでも自分を落ち着かせようと取り繕った跡がある。


「うん」


 やがて射程範囲外を示す『線』が見えて来る。

 まもなく自分たちはあの地獄から脱出できる……!


 だが、物凄い前への衝撃と共に車体の速度がゼロになる。


「……一体何が!」


 運よく席に座っていた母親が、血まみれで気絶している父親の姿を視認してしまう。

 すっかり動いてしまったバックミラー越しにその姿が網膜に焼き付いて。


 母親が力一杯バックミラーを殴って破壊する。


「あんた達! 早く外に!」

「で、でもおとうさんが……」

「お父さんはあの瞬間に外に出たの……ちょっと吹っ飛ばされて今は会えないけど無事なの!」


 嘘であった。

 あの気も力も肝も何もかもが常人からかけ離れた母親の顔に、涙の痕が。


 だから勇気を振り絞ってドアから出る。

 後ろを振り返ることなく、兄に手を引いてもらう事なく。


 自分の力で逃げ延びようと走り出す。

 そのすぐ後ろで飛んできた破片が鉄塔に直撃し、こちらへ倒れ込んでくる。


「危ない!!」


 頭まで痛くなるような轟音が止み、身体を動かそうとしても足が動かない。

 まるでじゃれ合いで兄に圧し掛かられた時のように現実感が無い。


 動かせる首で目一杯前を向くと、血まみれの母がこちらに這ってくるのを見る。


「い、生きてる!!」

「お、おかあさん……」


 怖い


 その身体の後ろから朱筆を引くように血を引き伸ばす。

 足だと思っていたそれは本来外に出てはいけない『螟ァ閻ク』が……

 更に後方で頭が拉げた『辷カ隕ェ縺ョ驕コ菴』。


 母親が手に持つシリンダーは毒々しいほどにどす黒い。


「な、なにするのやめて!!!」


 逃げようとする。

 物凄く痛くて苦しい。


 鉄骨だけでなく、今まで自分を守ってくれた母親が醜い怪物に見える自分の愚かしさに。


「ごめんね……今まで母親らしいことができなくて」

「やだ、やだ!」

「でも、これがあれば『すずちゃん』は助かるの」

「やあ……」

「怖いよね……

 大丈夫、こうすれば」


 もう目の前まで来た母親がシリンダーの持っていない手で両目を隠す。

 それはいつもあの施設に来るときにしてもらった『注射が痛くなくなるおまじない』であった。


 でもあの時と違い手が冷え切っている。


「『すずちゃん』……生きて!」


 手に鋭い衝撃と共に意識が手放される。

 その刹那、解かれた手から見えた。




 母親の口から堰を切ったように噴出する暖かい鮮血が、自分に……




◆◆◆◆◆◆




「い、いやぁあああああああああああああああ!!!」

「ど、どうしたんですか先輩!?」

「ご……ごめ……」


 目を擦り必死に誤魔化そうとする三刀坂(みとさか)を心配する神出来(かんでら)

 宥めようと肩を抱き、背中を優しく叩いて落ち着かせる。


 それから少しして『大丈夫だから』と引き剥がされる。


「本当にごめんなさい……

 もしかして、お父さんやお母さんの事……」

(ゆかり)ちゃんは何も悪くない、何も悪くないの」


 神出来(かんでら)が悲しそうな顔をして思わずそう口にしてしまう。

 実のところ彼女も三刀坂(みとさか)のトラウマに触れた事があった。


 その時の表情と今の表情が余りにも似ていたのか、そんな顔になったのだろう。

 こうなった原因は言うまでもない……あの八朝(おとこ)


(……)


 そうして苦しんでいる親友の姿を見て神出来(かんでら)が決心する。


「よし! 決めた!

 恋人だろうがもう涼音(すずね)ちゃんには近づけさせない!」

「え……?」

「こんなに苦しんでいるのにまだ篠鶴機関に行って神隠し症候群治さないのって檄飛ばしてみるから」

「やめて……」


 予想外の返答に焦る神出来(かんでら)

 止まっていた筈の涙がまたこぼれている。


「え、でも……」

「ごめん、それだけは……それだけは……」


 初めて見せる親友の懇願に、黙って頷くしかできなかった。


 三刀坂(みとさか)が片手で自分の両目を隠している。

 これは自分しか見た事のない三刀坂(みとさか)が本気で苦しんでいる時の癖である。


(……あの男、こんな時に!)


 自分ではどうしようもできない親友の苦しみに、八朝(やとも)の不在を呪う。

 そんな真っ暗闇の中、三刀坂(みとさか)は『記憶の中の八朝(やとも)』でない何かを想う。


(どうして……どうしてみんなこうなの?)


 三刀坂(みとさか)は『病気は治すべきものだ』と思っていた自分の傲慢さを呪う。

 その苦痛に、両親を失った時の記憶が混ざって思考が滅茶苦茶になる。


 どうして、死の恐怖で寝る間すらも惜しんでいる人に限って……

 それも、あの悪魔(八朝)が同じ苦しみを抱えているなんて……


 知りたくなかった

 なにしろ、これのせいで……

 

次でCase11が終わります

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