Case 10-3
2020年7月16日 Case 10より分割完了
2020年8月7日 異能力情報を更新
2021年1月26日 ノベルアップ+版と同期
【同日同時刻 遠海神社跡・本殿】
本殿前に戻ると、飼葉が賽銭前の石段に座っていた。
「ところで八朝……あの時お前を狙う気は最初から無かったぞ」
「あの時?」
「先週のクソッタレゴーレム野郎が起こした事件だ」
「ああ、灰霊か」
どうやら飼葉も新入りを快く思っていなかったらしい。
あの時は八朝と飼葉は実際に刃を交えようとはしていた、即ちある事ない事を言っている可能性が高い。
「何だその目は?
……ったく、救世主サマの友人だと聞いていたから無用な戦いを避けるつもりだった」
「救世主救世主と言っているが、鹿室がアンタに一体何をしたんだ?」
「知れたことを……目の前で実演してやったじゃねーか」
飼葉が先程受け取った白い石を握り込む。
やがて石が赤く輝き始めると、まるで興味を失くしたかのように地面に投げ捨てる。
「な……伝令の石……?!」
「ほほう
オマエも知っているんだな」
飼葉の説明が続く。
曰く、この石は飼葉達の後遺症である畜生化を抑えるアイテムだという。
原理は不明であるが、この石を握りながら固有名を唱えると24時間の間畜生化を無効化できる。
こうして石が足りなくなると鹿室に作ってもらい、彼が取りに行っている。
『ふうちゃん……
この石、飼葉から位階を吸い出してる……!』
「吸い出す?」
『この人、定期的に1/1級になってる跡があるの』
「……成程、化物化を抑えるアイテムだったのか」
小声でエリスと確認する。
どうやら畜生化と呼ばれる動物変化の後遺症は、1/1級到達者がなるとされる『化物化』とメカニズムが同じらしい。
ある意味で強みになり得る後遺症ではあるが、彼の場合はヒトとしての記憶まで消し飛んでしまうらしい。
それが鳴下……つまりあのメモにて畜生化を持っている彼女が最重要観察者扱いなのも頷ける。
「ふぅ……腹だけ太って他が痩せ細る意味不明な畜生化なぞクソッタレだ」
「……」
「おう、ところでよ……さっきから何を黙っているんだ?」
その問いに答える事は出来ない。
ただでさえ外は不死身の化物がうろついて危険なのに、ここで飼葉と戦うつもりはない。
だが、その目論見は外された。
「ま、俺は晴れて異能力犯罪者だ。
もうここからは出られんが、それとは別にお前が気に食わん……」
「救世主サマには悪いが、つまらねぇ亡霊には死んでもらう。
その後俺の畜生化を進めた断罪人を嬲り殺しにしてくれるわ!」
飼葉の臨戦態勢は既に整えられ、あくまで会話を続けようとする八朝に不意打ちを仕掛けようとする。
八朝の視界から飼葉の姿が掻き消え、辺りのあらゆる物を踏み抜くような破壊音が断続的に鳴り響く。
「……やっぱり殺人犯だった訳か!」
「言ってくれるな亡霊!
貴様も我々を『畜生』と蔑む有象無象の猿野郎共と何ら変わりはしない!」
一段と荒々しい踏み込みが斜め後ろから襲い掛かる。
「死ね」
もはや見猿・聞猿の力を使わずに八朝の首を刎ねようと手刀の一撃が死角より滑り込む。
だが亡霊と称した瞬間より現れた油断・致命的に緩んだ威圧感が八朝に反撃の機会を与えてしまう。
(難しく考えすぎ、か)
あの時の砂高の言葉を思い出す。
その結果として今三刀坂はここにはいない。
彼女の真実を求めすぎて、不都合な『疑惑』に行き当たってしまった末路でもある。
(だがアイツは……
あのお人好しの鹿室は)
飼葉を信じてこの場から去っている。
友達……とはいかないが、最も基本的な信頼感だけで行動できている。
それは今の八朝に最も足りないものである。
(………そもそも『十死の諸力』は)
犯罪者集団でなく、単なる傷の舐め合い。
命を懸けて字山が伝えてくれた事をうっかりと忘れてしまう所であった。
それよりも前に
三刀坂は、人殺しをするような性格には見えない。
そこから信じるべきであった……
(……)
思考を止めて、目の前の脅威を直視する。
身が竦む程の絶望的な戦力差に全てを投げ出したくなるが、付け入る隙はゼロではない。
(ああ、柚月から庚申の妖と聞いていた)
(ならば……!)
両手で閻魔天印を組み、息を吸う。
これまでと違い魔力を震わせる声でなく、諸仏に届くよう『カバラ魔術』の方法で唱える。
『帰命 諸仏焔摩天 浄玻璃鏡』
柚月より聞いていた飼葉の能力。
『見ざる、聞かざる』とは本来、天に罪咎を告げる『三尸の虫』を体内に封じるための言葉である。
この虫が出ていく庚申の日に、一徹して虫を体内に留まらせる儀礼を『庚申講』と呼ぶ。
寿命増大を願うこの仕来りは、重大な矛盾を内包している。
虫は人の死には追随せず五七日の裁き……即ち閻魔大王の鏡の中に累積した罪と共に晒される。
『Ghmkv!』
印を解いた両手の中に丸い鏡……その中に3匹の羽虫を写し込んで空中に静かに鎮座する。
彼に累積した『庚申の罪』が、万力の如き呪縛となって指一つすら動かせなくする。
「な……に……!?」
「そら見たか、『妄語戒』を破りすぎだ!
アンタにとって俺は畜生化の後遺症を司る無常大鬼であるらしいな」
「お前は一体何を言っている……!?」
「さぁ? だが、今この瞬間アンタの生殺与奪権はこちらの掌中にあるのも事実だ」
たとえ傲慢と言われても、人殺しを何のお咎め無しとすることはできない……ましてや親友の鹿室が関わるなら尚更である。
飼葉が閉口しているこの状況こそが、八朝の答えであった。
「……」
「アンタが何をしようが俺には関係は無い
だが、俺の知人に手を出すなら何度だって立ち塞がってやる」
それを聞いた飼葉は一瞬きょとんとした顔になったが、やがて愉快そうに口を歪ませ始める。
「……フ」
「ハハハハハハ!」
「何がおかしい?」
「滑稽なほどに仰々しくてな、馬鹿みたいだ」
それは八朝の会話慣れしていない言い方に対する嘲笑であった。
それはそうと、八朝なりの立場を垣間見れた事に関して、どうやら飼葉は満足したようであった。
「だが確かに鹿室の言った通りだ、前言を撤回しよう八朝風太」
「いつでも我らが獣の暴威を借りるがよい」
【5月2日4時50分 遠海地区・遠海駅改札口】
そろそろ化物も見つけられないだろうと神社を後にする。
少し前から姿をくらませる飼葉に別れを告げ、数分歩くと始発で人が疎らにいる遠海駅に辿り着く。
「……そういえば」
「みとっちなら明日も部活してると思うけど」
驚く八朝を心底嫌そうな目で応える。
「別に驚く事も無いでしょ?
みとっちの事何とかしたいなら早めにした方が良いと思うけど」
「……ありがとう」
「やめてよ、気持ち悪い」
ちょっと前まで迷いに迷っていた癖に、今は決意に満ちた目をしている。
これも幼馴染の三刀坂から聞いていた記憶喪失の八朝の良い所であった。
それ故に三刀坂が迷っている。
「それともう一つ
多分、三刀坂はアンタの事を今も親友と思って……」
「言われなくてもそれぐらいは知ってるし、何知ったクチしてんの馬鹿じゃない?」
「……」
会話が途切れたところに、すかさず拳を打ち込む。
攻撃という訳でなく、当たる寸前で止められた拳を開くと一枚の硬貨が現れた。
「これ、報酬だから」
「いや、あれは咄嗟の事で仕事したわけじゃ……」
「……私にもできるんでしょ、あのレーザー」
無言で首肯する。
砂高にとってはそれで充分であったらしい。
報酬を八朝に押し付けると、別れの挨拶もせず改札口の先へ消えていった。
掌で受けている500円玉から微かな熱を感じていた。
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使用者:飼葉倉次
誕生日:3月24日
固有名 :Inahsf
制御番号:Nom.28305
種別 :T.VENTI
STR:2 MGI:4 DEX:3
BRK:0 CON:5 LUK:3
依代 :鬼の身体
能力 :視聴覚剥奪
後遺症 :3時~5時の間スズメバチに変身する
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■■■■■■■ 10-a 殺身 - Preta Yakkha
CONTINUE;
もうちょっとだけ続くんじゃ
でも次の回はDEADENDになります




