Case 10-2
2020年7月16日 Case 10より分割完了
2021年1月26日 ノベルアップ+版と同期
砂高が曖昧にそう言って、この会話が終了する。
そして標的となる『適性な強さ』の化物を探しに歩き回る。
【同日同時刻付近 篠鶴地区・辰之中】
3つ目級の霊魂型化物。
「準備して、お前らは動きを止めるだけでいいから」
「わかった」
『おーけー!』
八朝が霧をエリスに食わせる。
苦しんでいる八朝を不思議そうに見つめている。
「それ、本当に必要か?」
「……必要だ」
ただ一言のみ返す。
今は目の前の敵の『特徴』に注目する。
霊魂型……即ち実体を持たないので待針のような直接攻撃は不適。
しかし『動きを止めろ』となると花火筒の単体も適さない。
「少し時間貰っていいか」
「……遅れんようにな」
砂高の許可を貰い
残り2枠を全て花火筒に費やす。
そしてエリスの計算結果を聞きながら、遠距離射撃を敢行する
「!?」
それは砂高にとって異様な光景であった。
本来攻撃に使用されない花火を化物に当て『気絶』させるも、ダメージは0のまま。
だがそんな事を思っている暇は無い。
『Bjfky!』
砂高が依代を出さず、口から緑色の炎を吐き出す。
だが炎は周りに延焼することなく、化物だけに纏わりつき焦がしていく。
「アタシの能力は『弱火』なんだよ
だからこうして押さえつける奴が必要って訳」
「だから三刀坂の能力って事か」
案外理解力はあるようで砂高が安堵する。
だがそれにしてはこの男、この炎を見過ぎであった。
「何見てんのよ」
「いや」
「何か気持ち悪いんだよ、やめろよ!」
砂高に追い払われ、仕方なくエリスと相談することにする。
だがいくら呼びかけても反応が無い……
「あ、それとこの炎端末の電気落としてしまうから」
「それを先に言ってくれ」
確かにこれでは電子魔術という訳にはいかない。
しかし、この証言である『仮説』が急浮上する。
「お、おい危ないぞ!」
近づいてあることを試そうとする。
だが、砂高すら気付かなかった『轟音』が全てを一変させる。
ビルの奥より現れたのは触手と笠。
『EkaawhsEdrumn』がこちらを睥睨している。
「……ッ!
こんな時に化物が……!」
「おい……お前こんなのにタゲられてんのかよ」
10メートル近い身体に砂高が圧倒される。
これでも4つ目級だなんて誰が信じられるのだろうか。
「いつもの事だ
それよりもアンタは俺とは別方向に逃げろ!」
八朝の指示に砂高が身を隠し始める。
『謌代→陲ゅr蛻?°縺、豎昴?蜷阪?、■■
"豺ア豺オ繧堤惓縺セ縺吩コ悟香莠後?蜻ェ縺?↑繧!』
八朝がもう一つの花火筒を変形させる。
光輪……『混乱』の状態異常を持つ攪乱手段の一つ。
『……ん! ふうちゃん!』
「戻って申し訳ないが電子魔術の準備をしてくれ!」
『りょ、了解!』
だが腐っても端末か
準備を1秒以内に完了させる。
『Ghmkv!』
『Vrzpyq!』
八朝の黒輪の投擲と、エリスの初速度変更魔術が重なる。
混乱の状態異常をもつ光輪が化物の目の中で八朝の姿に変じ、化物と対峙する。
「!?
どうして逃げてないんだ!!」
砂高は隠れてはいるが、先程から一歩も動いていない。
何か決意を固めた表情で化物に向かい、能力発動体勢のようなものを取り始める。
「おい、一体何を……」
「エリスちゃん!
あたしから離れて!」
エリスが後方に距離を取ると、砂高が能力を発動する。
狙い撃つように伸ばした右手の先から赤と緑の火炎放射が炸裂し、遠くの化物にも延焼させる。
だが、一向にダメージを受けている様子は無い。
「駄目……あたしの能力じゃ燃やせない!」
砂高の焦燥が伝わるようである。
能力を使えば電子魔術が使えず、かといって異能力者の電子魔術もたかが知れている。
『ふうちゃん……これって』
「ああ、俺たちで何とかできそうだ」
その様子を見ていたエリスも同じことに気付く。
後は、状況確認をして機会を伺うのみ。
「すまん、あとどのぐらいの時間出せるか?」
「これぐらいいつまでも放てる!」
「……策を思いついたが、少しの間は大丈夫か?」
その答えは、初めて見せる自信満々の笑顔で返された。
◆◇◆◇◆◇
言うまでもなく、燃えない火で化物と戦える道理はない。
(……これで良かったんだ
少なくとも八朝さえ生き残ってくれれば、みとっちは立ち直れる……)
悲壮な決意と反比例して赤と緑の炎が先細って消滅しようとしている。
視界の端で八朝が逃げる事無く敵を見つめ続けている。
(早く逃げてよ、もう……)
最早極光の火は消滅している。
自分を捕食しようとして大口を開ける巨大猿の喉奥が、丸く赤熱した後に吹き飛ばされる。
やがて崩れ去った巨大猿から『アルキオネの鱗』の赤い欠片がボロボロと零れだす。
「え……?」
『やったあ!
上手く荷電粒子砲になったね!』
「……ああ、本当に砂高が強くて助かった」
砂高の能力は炎ではなく電子の霧……即ち太陽風であった。
これを収束させれば荷電粒子砲……即ちロボットアニメで頻出する『レーザー』になる。
「……」
それは三刀坂が最近よく言う噂が本当であったことに対する驚愕であった。
曰く、八朝は他の人の異能力を強化することが出来る。
「何だその顔は」
「いや、アタシだけでも化物って倒せるんだ……」
「当たり前だ
寧ろ転生者並のチート異能力だったろうに、何故他の奴は気付かんかったんだ」
大穴を穿たれた巨大猿の身体が霧散し始める。
それでも警戒感の緩めない八朝に嫌な予感を覚え始める。
「もう化物を倒したのに、なに浮かない顔してるの?」
「Ekaawhsは不死身の化物だ」
砂高は血の気が引いたように周囲を確認する。
その視界の隙間、立て掛けられている鏡から化物がずるりと八朝達に忍び寄っていた。
『ふうちゃん! 左後ろ!』
「!?」
鏡から現れるEkaawhs、それだけでも一級の情報であるがもう逃げることが出来ない。
堪らず八朝は叫ぶ。
①障壁魔術を要請する
②状態異常に頼る
だが、最後の理性が『迎撃しても無駄』という思考に辿り着く。
外見上は平気な振りをしているが、もう能力を発動できない砂高を守るには防御ぐらいしか手段が無い。
「エリス!」
『Hpnaswbit!』
化物の一撃とエリスの障壁魔術が拮抗する。
その足元がぽっかりと穴が開き、大量の砂と共に二人纏めて奈落の底に吸い込もうとするが、砂高が八朝の手と穴の縁を掴み、落下を防ぐ。
「おい、お前大丈夫か!?」
「……いや、そのまま一緒に落ちてくれ……早く!」
「は!?
頭でも打って……」
「これは鹿室の魔術だ……信じてくれ!」
その言葉に吃驚してうっかり手を離してしまい、共に流砂の奥に吸い込まれる。
そのお陰で障壁を貫通した化物の踏みつけが八朝達を捉える事無く、中途半端に埋没した足が閉口と共に切断された。
【同日3時00分 遠海地区・辰之中】
遠海地区。
篠鶴市の西側辺境に存在するここは、辰之中でも然程変化が無い。
前区長の悪政で回復不能なレベルで負債を積み上げてしまったスラム地区でもある。
その一角である、如何なる化物すらも侵入することが出来ないと噂されている遠海神社跡。
境内の石畳に八朝達がワームホールから投げ落とされる。
「大丈夫か君達」
「……ああ、何とか助かった」
「これで貸し二つです、今度は僕の言う事を聞いてもらいますからね」
「……」
駆け寄ってきたのは、これ以上に無いほどの助っ人である鹿室であった。
心配して、二言目には『もう二度と辰之中に潜るな』と暗に告げる物言いである。
「あの化物は!?」
「ああ、それなら彼がやってくれたよ」
その真後ろで間欠泉のように砂が吹き上がる。
砂煙の中から現れたのは灰霊の一件以来となる飼葉倉次である。
「よお、救世主サマ
何だアイツは……目と耳を塞いでやったのに鏡の中に逃げていきやがった」
「分からないけどここなら化物も入ってこれない、ありがとう」
「……か、飼葉倉次……!?」
勿論灰霊のアレの前に起きた事件については砂高も知っていた。
現在殺人容疑で指名手配を受けている飼葉が姿を現しているという事は、ここが殺人犯の隠れ家である事も意味していた。
「そっちは八朝と……何だテメェ」
肉食獣すら平伏させかねない威圧感を漂わせ砂高を睨みつける飼葉。
その矢面に立って砂高を庇う。
「この事に関しては口を噤む、それでいいな?」
「口では何とでも言えるな?」
「ええ、破れば僕が始末することにします。 それでいいですね?」
鹿室の鶴の一声で飼葉の殺気が引っ込む。
代わりに、嘘か本当か読み取れない鹿室の表情に砂高が恐れを為す。
取り敢えず、鹿室から安全な場所を聞くと砂高をそこに移して二人から遠ざける。
そして鹿室はいつも通りの魔王の呪いから救う仕事があると言い、神社の外に出て行った。
まだ続きます




