Page108-1:5月10日(日)・癸丑日(Ⅱ)
2021年12月31日 完成
私の人生何かに喩えるだって?
そうだなぁ……怪雨とかどうだろうか?
ホラ、蛙やら魚やらもしかすると金塊が雨の代わりに降り注ぐアレさ!
だからなんだよね、ホント『神様』って奴はさ……
加減ってのを知らねぇんだよ!
【5月10日(日)・夜(20:08) 不明・訓練施設?】
「死体だって!?」
金牛が呆れたように叫ぶ。
マズルの先の相手が『殺せない』と悟ったが故の文句であろう。
だが一番困っているのは最後方に控える隊長の方である。
(……迷っているな
死なない相手だといつもの戦法が通じないからな)
八朝が相殺無き灯杖で攻撃を受け止める。
砕けた『石』と共に罅が入るも、解除してやれば何ともない。
霧が映し出す『相』を見誤らない限り致命傷を受けない。
最前列の八朝はこの『回避』を用いて敵の攻撃を受け止める。
そして後ろに控えている金牛と隊長が遠距離攻撃を仕掛ける。
これがフラウン隊の基本戦略。
『■■■■■■』
敵の周囲にきらきらと反射するものが疎らに映し出される。
そして雨のような連弾が横殴りに降り注いでくる。
「……ッ! ……!!」
回避した弾が後衛に行かないよう予め位置調整したのが効いてくる。
敵の攻撃の無償突破の後、黒板を引っ掻くような音が劈く。
隊長の能力である『輪郭切断』の一撃が
確かに敵の首を切断した筈だった……なのに動きが全く止まらない。
『隊長! 耐えれるのはあと1、2発だ!』
「分かっている……でも……!」
敵にバレない為の合図に対して言葉で返す隊長。
余裕の無い状態で逃げ道を塞がれる正真正銘の窮地。
(落ち着け、敵をよく見ろ、視野を更に広く保て
いつもと同じパターンなら、一番偏った行動にこそ……!)
幾度となく勝利を齎した『異世界知識』を思い出す。
この世界に無い法則で見出した弱点を一方的に突く魔法の如き力。
いつでも弱点は偏った行動から現れる。
上茸下燕の『鏡』、丸前の刀の『名』……
ならば目の前の敵はどうなのか。
特徴の一つである攻撃前の光に気を取られてしまう。
「しまっ……!?」
真後ろに隊長と金牛が被る。
覚悟を決めた八朝に流星の如き石の連撃を受ける。
「ぐうぅ……ッ!」
「八朝!」
激痛の揺れた視界に依代の砕けた白片が舞う。
ここで耐えてもいくらかの攻撃が後方へと飛んでいくだろう。
僥倖にも耐えきった八朝が思わず叫ぶ。
「金牛! 無事か!?」
「ああ! お前がバッチリ防いでくれたおかげで無傷だ!」
「無傷だって……!?」
それは流石におかしい、自分ごと後方も殲滅できる好機の筈だ。
なのに攻撃が全部自分の方に飛んできた、即ち……
(俺だけを狙っている……?)
だけではなく、視野狭窄と集中力が別の側面まで映し出す。
攻撃前の閃光と霧が反応し『苗木』の相を映し出す。
■■の意味は『吊るされた男』、『12』……そして『水』。
「金牛!
今すぐ電子魔術を準備してくれ!」
「分かった! それで注文は?」
「『使節団』を頼む」
それは暗号での初級火属性電子魔術の呼び名である。
小アルカナから持ってきたのでバレる心配もない。
だが、それを聞いた金牛が不服そうに反論してくる。
「おいおいそれでいいんかよ!
死にそうなんだぞ!? せめて地主ぐらいは!」
「いや、変えなくていい
それよりも範囲をできるだけ広く保ってくれ!」
そこに横殴りの石雨が襲い掛かる。
やはり八朝だけを攻撃しようと軌道が偏っている。
なので前からの攻撃以外は回避しても良い。
更に飛翔体が石の為、拾った鉄の残骸で弾き返すこともできる。
(助かった……広めの空間に拘ったおかげで物資だけは)
恐らくは何らかのトレーニングルームだったのだろう。
足場は心元ないが、鳴下神楽の前では寧ろメリットとなる。
牽制に蹴っ飛ばした残骸を敵が避けようとする
だが後ろの残骸に足を取られ、狙いがあらぬ方向へ。
(まだか……まだなのか!?)
敵は残骸を踏み潰して強制的に姿勢を正した。
その一方で金牛が最大範囲で電子魔術を準備している。
依代の回復速度に対し敵のDPSの方が依然と高い。
更に相手が死体の為『死体漁り』の支援効果がゼロ。
今も不利を覆せないまま、徐々に追い詰められていく。
「……ッ! 準備できた!」
残骸が尽き、後ろを壁で塞がれた刹那
金牛による超広範囲の蜃気楼生成魔術が発動する。
続きます




